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とりあえずそれっぽいことを言っておけば良い

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ポイント評価、感謝いたします。

「頑張ったからって、努力したって、行為や過程が必ず素晴らしい結果をもたらすとは限らないわ」


 モアはティーカップを白い受け皿(ソーサー)の上においている。

 コトリ、硬い物同士が触れ合う無機質な音色が机の上に、微かに鳴る。


「むしろ、おおよそにおいて、努力はなんの意味も為さずに終わりを迎えるわ。頑張ったって無駄なのよ」


 持論を語る。

 モアは世間話をするかのような気軽さで、努力に関する無意味さと虚無についてを主張していた。


「何だか、悲しいことを言うね」


 青い瞳の少女が語ることに、トユンは緩めの反論をしている。


「そう言って、何かしらそれっぽい、分かりきった事ばっかり言っても、どうしようもないと思うんだがな」


 トユンは頭部に生えている鹿のようなツノの付け根の辺りを、指でさわさわと触っている。


「何も行動しないうちに、諦めてばっかりいてもどうしようもないっての」


 彼に反論をされた。

 モアは唇に微笑みをたたえたまま、視線を彼からキンシの方に移している。


「キンシちゃんは、その辺の事情、どんな感じなの?」


「ぼ、ぼぼ、僕ですか?」


 質問を向けられた。

 しかしながらキンシはどぎまぎとして、まともに質問に答えられそうになかった。

 左指につままれているティーカップががたがた、ユラユラと震え、中身の飲料が小さな波をいくつも形成している。


 魔法使いの少女に答えを期待できそうになかった。

 モアは早めに諦めをつけて、再び視線をトユンの方に移している。


「ところで、トユンさん、さっきの語った感じだと、あなたは魔法について研究をしているんだね」


「ああ、そうだよ」


 モアに問いかけられた。

 トユンは再びツノから指を離し、自分についての情報を開示している。


「魔法というものがどういう存在であるか、その起源を突き詰めることでおれたちが今当たり前のように使っている方法の仕組みをより理解して、さらに発展させるためにだな──」


 トユンが語っている内容は、夢と希望と、そして可能性にあふれにあふれた内容であった。

 

 その様子をキンシが、右の目で朝焼けを見るかのような眩しさで見ている。


「──で、おれはその発展をだな。……聞いてる?」


「え? あ、はい、ちゃんと聞いてます」


 キンシの反応の薄さに、トユンは手早く相手が自分の話を理解していない事を察していた。


「まあ、あれだ。要するにだな」


 トユンは諦めて、自分の行動についての要約をしている。


「おれは魔法とか魔術とか、魔導に関することをもっと便利に、誰にでも使えるようなものにしたいんだよ」


 「魔導」という表現をトユンは使用している。

 それは魔力を媒体とする行為の総称であり、当然の事ながら魔法のそのうちの一つを構成していた。


「それで、結局質問にはまだ答えてもらってないんだが」


 トユンの横長の瞳孔に見つめられている。

 視線の先で、キンシは質問に対する言葉をうまく選べないでいた。


「え、えと、えっと……その」


「うーん、おれはてっきり小説か詩か、文章や言葉を媒体にする魔力運用を得意としていると思ってたんだが……」


 キンシの左手のペンだこを見つつ、トユンは頭の中で想像や予測を巡らせているようだった。


「でも、その様子を見ると、キミの生きがいはもっと別のところにあるみたいだな」


 学ぶ彼に予想を組み立てられている。


「魔法の種類が、そんなにだいじなの?」


 トユンの思考に疑問を抱いているのはメイの声音であった。


「そりゃあもちろん!」


 幼女のようにしか見えない彼女に問いかけられた、トユンは新人教師のような面持ちで彼女の質問に答えている。


「なにを以てして魔導を運用するか。魔力をどうやって現実に形にするか、それは人間の超個人的な傾向が顕著に表れているからね」


「ああ、なるほど、好きなものに魔力をこめれば、もっと強力になるものね」


 幼女の姿にしか見えない、彼女の理解力の高さにトユンは意外さを覚えているようだった。


「そうそう、そうなんだよ。現状において最も有力なのは、魔力の運用には体力よりも精神力、……というか、精神的な傾向が強く関係しているらしいんだよ」


 幼女なのかもしれない、メイの椿の花のような紅色の瞳を見ながら、トユンは再びツノに指で触れている。


「それは強いとか弱いとか、強弱の問題じゃなくて、もっと多彩な可能性を秘めているんだよ」


 横長の瞳が、三度(みたび)キンシの方に移動する。


「だからそこのひとみたいに、なんか頼りなくて、弱っちくて、いい加減そうで、なよなよしていても、それと魔力の強さは関係ないんだ」


「ひ、(ひど)っ?!」


 明確に、誤魔化しようも無いほどにけなされた。

 しかしながらトユンはキンシに、特に謝罪のようなものを差し向けることはしなかった。


 そんなことよりも、彼には語るべき事があまりにも沢山あるようだった。


「かと言って、肉体の強靭さが魔力とまったくの無関係であるとも言いきれない。

 体力がない魔法使いと、体力のありあまる魔法使いと比べたら、後者の方が生き残りやすいデータもあるからな」


 そこまで語った所で、キンシの耳がピクリ、と動いていた。

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