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空白と盾は燃やし尽くそう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、ブックマーク、心より感謝いたします。

 トユンの目、コイン投入口のような形状をしている、横長の瞳がジッと見つめてきている。

 彼の視線を浴びながら、キンシは可能な限り快い返事を用意しようと試みた。


 なんといっても相手は、これから自分に依頼をしてくれるかもしれないのである。 

 報酬を期待できる相手には可能な限りの丁寧な、丁寧な! 対応をすべきである。

 ……と言うのは、キンシの先輩にあたるナグ・オーギの言葉である。


「キンシ、君、だっけ?」


「は、はい」


 縦に細長い瞳孔を丸く拡大させながら、キンシは緊張の面持ちでトユンの言葉を待機している。


「キミは……もしかして小説を書いているのかな?」


「は、へ?」


 身を硬く、心も固く、身構えるがあまりに、キンシはとっさに彼の言葉を理解することが出来なかった。

 ほんの少し、考える必要があった。

 考えた後に。


「な、なな、なにをおっしゃいますやら……ぼ、ぼぼ、僕にはさっぱり、皆目見当もつきませんよ」


 あからさまに動揺をしている。

 キンシの様子に、トユンは特に思いやりを向けるようなことはしなかった


「いやいや、見る人が見ればすぐに分かるよ。だって」


 トユンは自分の頭部に生えている、鹿のようなツノの付け根の辺りを右の指でさわさわと触っている。


「その左指、とても目立っているし」


 自らのツノを触っていた指を離し、トユンは机の上にあるキンシの左指を指し示している。

 

 ちょうどティーカップの取っ手を摘まんでいる。

 ぬるくなったロイヤルミルクティーが半分だけ残されている、重さのなかでキンシは自分の一部に注目が渡っていることを自覚していた。


「ここは、そうですね……呪いがありますからね」


 呪いの炎に焼かれ元々の肌色を失った、水晶のようにくすんだ透明の火傷痕は指先にもまとわりついている。


 だが、トユンの注目は、あからさまに目立つ呪いの在り方に向けられている訳ではないようだった。


「タコだよ、タコ」


(たこ)?」


「あー、多分君が考えているタコとはだいぶ違うかな。タコ焼きは焼かないよ?」


 トユンは前もってキンシの誤解を解いている。

 彼の右の指先は、魔法少女の左指に固定されたままであった。


「ペンだこだよ。かなりの大物が、キミの利き手? にしっかりとこさえられている」


 トユンから指摘をされた。

 キンシはそこで、初めて自分の左指、中指に形成されている皮膚の隆起具合に気付かされていた。


「ほう?」


 トユンの観察眼に感心と、関心を示しているのはシイニの声であった。


「なかなかどうして、イイ感じの観察眼を持っているね」


 子供用自転車のような姿をしている彼に褒められた、トユンはどのような反応を見せればいいのか迷っているようであった。


「いや、大学の方でちょっと魔法使いについての研究とかしてるから、その繋がりでちょっと話しすぎちゃったかもな」


 再びキンシの方に向き直り。


「ごめんごめん、矢継ぎ早に話しすぎたよ」


 簡単な謝罪をしている。


「いえ……その」


 謝られても、どうしたらよいのだろう?

 キンシはどのような反応を返せば良いのか、あずかり知らぬところであった。

 

 魔法少女がコミュニケーションについて悩んでいる。

 すると、少女の机ごしにモアが微笑みのなかで言葉を発していた。


「だいじょうぶよ。この人ったら、真面目くさった様子で、なんのごまかしもなく、出会ったばかりの女の子に美しいとか、サムい口説き文句みたいなこと言っちゃうんだもの。

 色んな意味で正直っていうか。

 あ、もちろん悪い意味じゃないのよ?」


 お決まりのような建前を作っている。

 モアの話を、キンシはただ大人しく聞いていた。


「ただ、魔法使いとしてひとり立ちするには、ちょっと心が純粋すぎる気がするわね」


 魔法少女に対する予想を語る。

 モアの、明るい青色をした瞳が机の上を移動する。


「でも」


 指でティーカップを摘まみ、残された紅茶、適温になったそれを口に含む。


「その辺をうまくカバーしているのが、あなたって感じなのかしらね?」


 紅茶で湿らした唇が微笑みを描く。

 青い瞳が見ている、トゥーイという名の青年が彼女の目を見返した。


「…………」


 そしてすぐに逸らしている。

 キンシ以外の女性、女と目を合わせることを得意としていないのだ。


「トゥーイさんには……確かにお世話になっていますよ」


 魔法使いの青年がうつむいている。

 その隣で、キンシが彼を慰めるように唇を動かしていた。


「先代の「キンシ」が……いなくなってしまった時。その時から、トゥーイさんは僕のパートナーとして、本当に色々と助けられてきましたから」


 キンシの瞳が遠くを見ている。


 過去の出来事を思い出している。

 猫が持つそれのように縦長の動向がスッと細められている。


「僕はまだまだ、魔法使いとして完成されていません。だから、もっと……もっと頑張らないといけないのです」


 キンシが自分のことを語っている。

 それを聞いた、モアは微笑みを少しだけ緩めていた。


「頑張っても、仕方ないじゃない?」


 モアが語る。


「頑張ったからって、この世界が優しくなるわけじゃないんだし」

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