思うが儘の言葉は隠すべき
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「夢、目的、かあ」
トユンの主張を聞いた、モアが視線を下の方に落としている。
「自分が決めている事柄があるのって、すごく、恵まれていることなのかもしれないわね」
「モアさん?」
突然持論を語り始めていた、モアの様子をキンシが不思議そうに眺めている。
「どうしたんですか、いきなりそんな憂いを帯びた感じになって」
キンシから指摘をされた。
モアが魔法使いの少女の方を見る。
新緑のように鮮やかな緑色をした瞳を見ながら、モアはすぐに表情を元の形に戻している。
「なんでもないのよ、ちょっとうらやましいなって思っただけ」
微笑みを浮かべながら、モアは自分の無事をキンシに伝えている。
「あたしは家とかの事情があって、この灰笛以外で生きていくっていう想像とか、目標っていうべきなのかしら。そう言うの、考えたことなかったから」
「なんだ、そんなことですか」
モアが語る内容を、キンシはなんてこともなさそうに同調している。
「僕も一緒ですよ、この灰笛以外で生きていく時間のことなんて、今までほとんど……いえ、皆無といっていい程でしたから」
同情のようなものを向けているのだろうか。
だが、それにしてはキンシの様子は明朗で快活なものでしかなかった。
自分の不自由さに不満など抱いていない。
不満を抱く暇も無いほどに、日々を楽しく過ごしているか。
あるいは、そんな余裕も無いほどに切迫しているか、そのどちらか。
どちらでもよかった。
いずれにしても、少女たちにとっては、この灰笛からの移動は選択肢の内に含まれてなどいなかった。
「それに、僕は少し驚いたんですよ」
「驚いた?」
身に覚えのない、モアはキンシに聞き返している。
問いかけられた、キンシは平然とした様子で答えを返していた。
「悩みを抱えて憂う、モアさんの横顔があまりにも、あまりにも美しかったので」
特に理由も意義も、目的もないままに、ただ思ったことを素直に伝えている。
キンシの言葉に、モアは少しの間呆けたように目を見開いていた。
そしてすぐに。
「っぷ、ふふ……あはははははは!」
形の良い紅色の唇から空気を吹き出す。
モアの新品のきらめく鈴の音のような笑い声を聞きながら、キンシは彼女の様子を不思議そうに眺めている。
「なにが、そんなに面白いんです?」
「だ、だって」
いたって真面目そうな魔法少女の様子に、モアはいよいよ面白くてたまらないといった様子であった。
「そんな、何世紀も前から使い古されているようなお世辞を、真面目に固まった顔で言うんだもの。面白くって、可笑しくって」
笑う理由を説明している。
青い瞳の少女の言い分に、キンシは心外そうに瞳孔を丸くしていた。
「冗談なんかじゃないですよ、モアさんは美しいんです。僕はそれを心の底から、海の底から思っているのです」
キンシが自分の考えた内容を、他者に伝えるために言葉にしている。
だがそこに含まれている感情は一方的なものでしかない。
相手の彼女には何の意味も為さない、ただの個人的な感想にすぎなかった。
「うわあ、おれ久しぶりに見たかもしんねえ」
魔法少女と青い瞳の彼女のやり取りを聞いていた、トユンが他人事のように感想を口に呟いている。
「さすが魔法使い。人心を掌握するために、巧みに言葉を使うんだな」
「しょ、掌握……?」
いよいよ状況が理解できずにいるキンシ。
不思議そうにしている魔法少女に対して、トユンは少し鼻の穴を膨らませて解説を行っている。
「知らないのかな? あんたがた魔法使いってのは、もともと人間の心理を操作するために魔法を使うようになったんだよ」
トユンは右側にある人差し指をピン、と上に向けて、「説明しよう!」のポージングを作っている。
「最初は文字、文字を書いて表現することから始まったとされる。それらは小説だとか詩だとか、あるいはエッセイだったりノンフィクションだったり、とにかく文字で表現することに魔法使いは魔力を込めて、人々の心を惹きつけようとしたんだ。
時としてそれは宗教となり、あるいは形を変えて絵画、音楽やアニメーションにもなったけれど……──」
鼻息を荒くさせながら語る、トユンはそこで一旦、意味深に言葉を区切っている。
「──そのあたりをここで、こんな所で、何の資料も用意せずに解説するのは気が引けるから、勝手にはぶかせてもらうね。それで──」
まるで雨の日の雨どいから流れ落ちる雨水のように、スラスラと語る様子にキンシが圧倒されてしまっている。
魔法少女の鮮やかな緑色をした虹彩がポカンと眺めている。
視線の先にて、トユンは魔法使い本人に、「魔法使い」がどの様な存在であるかを語り続けている。
「──それで、派生がたくさん生まれはしたものの、やっぱり魔法の根源は言葉、文字による表現に帰結するとおれは考えるわけなんだよ。
だから、必然的に文字を多用する詩や小説が、現状のこされている表現方法として最も魔力を原始的に表現することの出来る媒体であると考えるわけなんだけども」
と、また言葉を区切る。
トユンの視線が、再びキンシに、意味深に固定されている。
「ここで、キミに個人的な質問をするけども」




