表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

843/1412

ティースプーン一杯ほどの勇気を飲み下す

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、とても励みになります。

 頭に鹿のようなツノを生やした男性、喫茶店でアルバイトをしているトユンという名の彼は、魔法使いたちに相談事をしている。


「ここ最近、ウチんとこの店でちょっとしたトラブルが連続していてね」


 ハンチング帽のような制帽からのぞく、ミルクティーの色をしたツノが首の動きに合わせて傾く。


「もしかすると、ここに「敵」がいるかもしれないんだ」


 黒いエプロンには喫茶店のロゴマーク、コーヒーを(たしな)む紳士のイラストがプリントされている。

 エプロンの下には、動きやすそうな白い半袖の制服を着用している。


「最初はもちろん、こんな往来に敵が出てくるわけないって、そう思い込んでいたから、おれたちもあまり深くは考えなかったんだが」


 言葉を一旦くぎり、トユンはコイン投入口のように横長な瞳孔をチラリ、と左斜め上に向けている。


「三カ月ぐらい前かな? 最初のクレームが入った時には、大した問題ではないと思ってたんだけど。でも、それから不定期に、絶妙に忘れそうになるタイミングで、たびたび被害を出すようになって……──」


「ちょっとまってくれないかしら?」


 そこまで語った所で、トユンの言葉をメイがさえぎっていた。


「何だい? お嬢ちゃん」


 見た目は幼女にしか見えない、彼女に対してトユンは当然の事として、幼子に語りかけるような返事を行っている。


「お、お嬢ちゃん……」トユンの語りかけにメイが少しばかりの不快感を表している。


 眉宇(びう)に不機嫌そうなしわを寄せている。

 彼女の様子に気付かないままで、トユンは彼女の言葉を優しく待ちかまえている。


 現状において彼の態度を作り変えることは出来ない。

 と、早めに判断を下したメイは、とりあえず先んじて疑問点を解決することを優先させていた。


「その、さっきからいっている敵っていうのは、つまり、怪物さんのことなのかしら?」


 メイに問いかけられた。

 トユンは、むしろ自分の方こそポカンとした様子で、言葉の意味を彼女に伝えていた。


「そりゃあ、ここで言う敵なんて、せいぜい怪物のことぐらいしかないだろうよ」


 何を今更聞くことがあろうかと、トユンの平然さがメイにはどうにも居心地が悪かった。


 白色の羽毛を生やした魔女が不快感を表している。

 それにトユンは気づかないままで、自分の話を続行させている。


「それで敵、怪物がこの店に潜んでいるらしくてさ、それでたびたびおれらんトコにも苦情が入るようになったんだよ」


「古城には、連絡を入れなかったんですか」


 キンシが問いかけている。

 それに対して、トユンはすぐさま返事をしていた。


「もちろんしたさ。でも、なあ……」


 キンシの方を見ていた、トユンは横長の瞳を少女からつい、とそらしている。


「連絡しても、ちょっとした簡単な結界を張っただけで、後はこっちにまかせっきりになったんだよな」


 その時の対応を思い出すかのように、トユンは同行の奥に過去を、かつて感じた疲労感を再上映させている。


「古城が怪物さんのことで、そんなおざなりな対応をするものなのかしら?」


 かつては自分たちのことを、不必要なまでに、執拗なまでに介入してきた。

 トユンとは形や経緯こそ違いはあれど、メイもまた「古城」と呼ばれる機関に不信感を抱いているのであった。


 そんな彼女らに、事の状況を予想しているのはキンシの声であった。


「古城の方々も、()()が得られない場合は、時としておざなりな対応をされてしまうことが、……少々あるそうですよ」


 魔法使いの少女が語っている、「心臓」というのは魔力を含む鉱物の、その最大の価値を持つ結晶体のことを指している。


「そんな、ゲンキンなたいどでいいのかしら?」


 メイが他人事のように不安がっている。


「さあ? 向こうさんはそのスタンスで長いことやっているみたいですし」


 白い魔女の心配に、キンシはやはり対岸の火事のような予想だけを言葉にしている。


「そうなんだっての」


 魔法使いの少女が語る所を、トユンはいよいよ困りきった様子で同調していた。


「それで、結局ここに現れてる? かもしれない? 小型の怪物に関してはこっち側、店側で内々に済ませてくれってことになっちゃってさ」


 事情を語りながら、トユンは両の手のひらを上に向けて「やれやれ」というポーズを作ってみせている。


「困ったもんだよ。この前なんて怪物が怖くて、仲良くしていた同僚のヤツも辞めちまってさ」


 個人的な不満点を打ち明けながら、トユンは横長の瞳を少し遠くに向けている。


 ここにはもういない「同僚」に思いを馳せている。


 そんな彼に、追及の手を伸ばしているのはモアの声であった。


「そんなに悩むのなら、あなたもこんなところ、辞めちゃえばいいのに」


 青い瞳の彼女に提案をされた。

 トユンは、自分自身でもすでに何度も考えようとしていた案について、あらためて思考を巡らせているようであった。


「でもなあ……ここ、結構自給いいし、今収入無くなるの、厳しいし……」


 トユンは自分の理由を語る。


「一応? おれにも夢とか目的とか、生活とか、それっぽい理由がたくさんあるから。だから、なんとかここで働き続けたいからさ、あんまり弱音ばっかり言ってらんねえのよ」


 そのために、彼はアルバイト先を守るために、勇気を出した魔法使いたちに話しかけているのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ