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なに様俺様貴様どなた様

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、とても励みになります。

 まるで獲物を狙う肉食動物のような、ハンティング意識に満ち満ちているメイの言い回し。

 表現方法に戸惑っているのは、シイニの声であった。


「やだなあメイさん、その言い方だとまるで手前がお肉たっぷりの被食者みたいじゃないか」


 継続して冗談めかした声色を使用している。

 だが、その中にどことなく、白色の魔女に対する怯えのようなものが微かに香り立っている、……ように思われなくもない。


「うふふ、メイちゃんはとても上品なのね」


 依頼者を脅すかのような口ぶりに、この場で唯一愉快さを覚えているのはモアの口元であった。


「魔女っていうのは、みんながみんな、そんな風に素敵な言い回しを使える者なのかしら? そうなのかしら?」


「ううん、たぶんだけど、これは私個人のせいかくによるものだと思うわ」


 モアからの詮索を、メイは曖昧な言い回しで(かわ)そうとしている。

 静かなる応酬を聞きながら、トゥーイは白い体毛に包まれた柴犬のような聴覚器官をピクリ、と動かしている。


「……なんだか、僕、この場の緊迫感に早くも後悔を抱きそうです、トゥーイさん……っ!」


 キンシが逃れるようにトゥーイへ相談をしている。


 魔法使いの少女が不安がっている。

 少女の相談事を耳に聞き入れながら、トゥーイは机の上で腕を動かしている。


 艶出し塗料に塗り固められた艶やかな机の上、清潔に磨かれたガラスのコップに水を注ぎ入れる。

 同じくガラス製のポットの中、白く濁る氷にキンキンに冷やされた透明な飲料水。

 おそらくは、よっぽどのことが無い限りは安心安全、人体に害のない飲み水、のはず。


「…………」


 器に満たしたそれらを、トゥーイは無言のなかで机を共にしている人間たちに配膳している。


 なみなみと注がれた水を受け取った。


「あ、ありがとうございます、トゥーイさん」


 キンシが折り目正しく身内に感謝を伝えている。

 魔法少女はさっそくコップを口元に運んでいた。


 唇が冷水と触れ合う。

 口内に液体が侵入し、緊張感に凝っていた粘膜、柔らかい肉に新鮮な刺激がもたらされる。


 ひんやり、とても冷たい。

 口の中を刺激する、それは喜ばしい変化の形であった。

 生命に認可される、水は養分となって魔法少女の肉体に摂取される。


「ぷはあ、美味しいです」


 キンシはコップから唇を離す。

 水に濡れる薄桃色の唇が、ひとつの満足を言葉にしていた。


「ずいぶんと、美味しそうにお水を飲むのね」


 キンシの様子を机ごしに見ていた、モアが微笑みながら少女の様子を言語化している。


「えっと」水を飲み終えた、キンシは気を取りなおして会話に参加しようとしていた。


「シイニさんと僕が、依頼という関係を持っていることまで、お話したんですよね」


「ええ、そうね」


 モアから同意を得た、キンシは言葉を続ける。


「それで、依頼内容があまり進展を得られていない、とのことでしたね」


「うんうん、そうだ」合いの手のようなもの入れているのはシイニの声である。


「ですので」子供用自転車の彼の姿をチラリと見る。


 しかしてすぐに、瞳の向かう先を別のところへと移している。


「アゲハ・モアさん、せっかく机を共にしてくださったのです、なにか……ご意見のようなものをいただけたらと」


 他人に助言、……とまでは行かずとも、参考程度の意見を求めている。

 

 キンシは自らの行動に対して、意外さを感じていた。

 閉じた唇の内側、早くも水の冷たさを忘れて、元の肉の生温かさを取り戻しつつある。

 中身に違和感を抱えながらも、しかしてキンシは選んだ選択に、決して後悔は抱いてはいなかった。


 直感、とでも言うべきなのだろうか? 

 机ごしの少女。

 青い瞳と鮮やかな金髪が美しい、出会った時から彼女は只者(ただもの)ではないことを、キンシの子猫のような聴覚器官が敏感に察知していた。


 立ち振る舞い、姿形、それこそ優しげで、例えば抱きしめたら柔らかく、甘く芳しい血の匂いがするのだろう。

 

 だがその雰囲気には、優しい少女とは大きく異なる、暗澹(あんたん)とした闇の部分を想像せずにはいられないでいる。


 根拠は何も無かった。

 なんといっても、せいぜい出会って数十分程度しか経過していないのである。

 そんな短い時間で、いかようにして相手の正体を全て把握できよう。


 それこそ神の視点でも持たぬ限りは、キンシはモアの事を何も知らない。

 今のところは、これから会話を重ねていく内に、もしかしたら? ある程度までは理解できる部分も増えていくのだろうか?


 結果は分からない。

 そのはずなのに、そう判別はついているはずなのに、何故なのだろう? キンシはモアに一抹の不安、もっとハッキリした表現を使うとしたら、恐怖のようなものを抱いていた。


 キンシは指先でコップを、まだほんの少しだけ水の残る、濡れた縁を指の腹でなぞる。


 指紋に水が浸入し、極小の溝に微量の水たちが温められていく。

 感触を確かめながら、キンシは続けて目の前の少女に要求を試みていた。


「トラブルも多く、一旦情報を集めなければならない。その必要性を強く感じたのです」


「なるほど、ね」


 キンシからの提案をモアが聞いている。

 少女たちがやり取りを交わしている。


 それを見ていた、シイニが少しだけ生まれた沈黙の合間を縫って会話の上に昇ってきていた。


「いや、なに、依頼の難しさは手前の至らなさも大きな原因の一つとして考えられるからね」


 自身のことをその様に評価している。

 シイニの方へ、モアが青色の視線を向けている。


「その体も、あなたの言う()()()()から来る原因と結果、なのかしら?」


 シイニの姿かたちについての質問をしている。


「んー? そういう事になるのかなー?」


 子供用自転車の姿をした彼は、しかしてその質問には言葉を濁そうとしていた。

 あからさまに隠している。

 隠匿の方法は、踏み入れてほしくない領域の、分かりやすい証明でもあった。


「お嬢さん、キミにも人に話したくない秘密の一つや二つ、三つ、あるだろう?」


 秘密を誤魔化すために、シイニは普遍的な反撃を少女に放っている。

 言葉を受け止めた、モアは微笑みを崩さないままで、子供用自転車の彼の言葉を肯定していた。


「そうねえ、あたしも女の子だもの、言いたくない秘密だって、そりゃあるわよ」


「そ、そうなんですか?」


 ついうっかり、キンシが好奇心を芽吹かせようとした。


「キンシちゃん、触っちゃダメよ」


 魔法少女の心理的傾向を、メイが静かにいさめていた。

 今この場面で、これ以上の厄介事を背負う必要はない。


 白色の魔女が無言で主張していることを、キンシは耳をピクリ、と動かしながら同意している。


 魔法少女と、幼女のように見える白色の魔女のやり取りを見ていた。

 モアが面白いものを見るかのような、好奇心の気配を青い瞳に香り立たせている。


「あなた達、なんだかまるで、親子みたいね」


 モアにそう表現をされた。

 彼女の言葉に、キンシは瞳孔を丸くして驚いている。


「お、親子……ですか」


 左指で頭を軽く掻きながら、キンシは頬を赤らめて照れている。


「いやね、私、こんな大きなこどもがいるような年齢じゃないのに」


 嬉しそうにしている魔法少女を横目に、メイはため息交じりの呟きをこぼしている。


「さて、と」


 それぞれの様子、反応を見ながら、モアは要求されたことについて思考を巡らしている。


「依頼内容に関して、あたしの意見を聞きたいのよね?」


 コップの水に口をつけないまま。

 最初に出会った時と同じように、なめらかな口調でモアは魔法使いたちに自分の都合を伝えている。


「でも、残念だけど今のあたしには、あなた達の手助けになりそうな情報は提供できそうにないわ」

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