私の気づきに対する詩
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真っ白な羽毛に包まれている、小鳥のような姿に、側頭部には椿の花弁を模した聴覚器官を生やしている。
白色の魔女に問いかけられた、モアは笑顔のままで受け答えをしている。
「あたし? あたしは見ての通り、どこにでもいる、普通の女の子よ」
黒色と白色を基調とした、フリルをふんだんにあしらった服の裾を雨風にひらめかせている。
モアの言い分に、キンシはいまいち納得が行かぬ様子をみせていた。
「普通、ですか」
子猫のような聴覚器官を少しだけ、畳むようにかたむけている。
耳の色と同じ前髪が雨の気配を吸い込んで、魔法少女の額に垂れ下がっている。
「それにしては、なんだかただならぬオーラのような? モノを感じそうになったんですが」
「気のせいよ、きっと」
「気のせい、ですか」
話題を逸らされそうになっている。
状況に流されそうになっていることを自覚していながら、キンシはそれに逆らう術を持たないでいる。
……と言うよりかは、これ以上少女の正体についての追及をする必要性が、今のところの魔法少女には見つけることが出来なかった。
と表現した方が、より事実に正しいか。
少女たちが曖昧なやり取りを交わしている。
その間に、メイは隣に立つトゥーイにささやきかけている。
「どう思う? ねえ、トゥ」
名前を呼びながら、メイはトゥーイの姿を見上げる。
外套で雨を防いでいる。
黒色の布と相対をなすかのように、トゥーイの体はいつも通りに白色に支配されている。
メイの持つ羽毛とは異なる、強引に脱色をしたかのような白さが頭髪を染めきっている。
長い髪の毛を三つ編みにまとめ、団子状にひっ詰めていた。
後れ毛が雨に震える。
魔法使いの青年の血色の悪い肌を見上げながら、メイは彼に相談をしている。
「アゲハっていっていたけど……もしかして、もしかしなくても……アレよね」
「アレ」と曖昧に表現している。
しかしながら、トゥーイのそれと同じような色を質感を持つ頭髪に包まれた脳内、思考の中では一個の確固たるイメージが形成されていた。
灰色の石と植物、小さな黄色い花に包まれた、古の遺跡群のような古城。
灰笛と言う土地の中心に座し、存在する都市全体を呪いから保護する魔術式の中枢機関を担っている。
魔術師たちの本拠地。
古城の主としての名前は、場末に暮らすメイの耳にも届く程度の知名度を有している。
すでに少女の正体を知っている。
その上で、メイは彼女の動向について疑問を抱かずにはいられないでいた。
「さきに正体を明かしているのって、なにか、意味があるのかしら?」
メイに問いかけられた。
トゥーイは唇を閉じたままで、首元に巻き付けてある発声補助装置で返事を用意している。
「推測します。あなたが自分自身を知っていたとして、それは大きな問題ではなく、対象の表れなのかもしれません」
かなり怪しい文法を使っている。
魔法使いの青年の言葉遣いを聞いた。
メイはすでに今更戸惑う素振りもないままに、当たり前のような様子で彼の言葉を受け入れている。
「そう……ね」
あまり納得の行っていない様子で、メイはトゥーイの顔を見上げる。
「…………」
唇を閉じたままの、彼の顔には幾つかの呪いの痕跡が含まれていた。
右目には視覚器官を圧迫するほどの、青紫色の花弁を持つバラの花が咲いている。
眼球を失った右眼窩から視線をほんの少しだけ移す。
バラの花と同じような色を持つ瞳が、無感情のような様子で白色の魔女を見下ろしている。
「……まあ、いまから分からないことばかり気にしていても、なにもはじまらないわね」
白色の魔女と魔法使いの青年が、現時点において結べる分だけの納得を作っている。
そうしている間にも、少女たちは手探りのような会話を行い続けていた。
「今日もいいお天気ね」
「そ、そそ、そうですね」
少女たちは空を見上げる。
分厚い雨雲が都市の限りまで広がる。
濃密で濃厚な灰色が、少女たちにとっての良い天気であった。
なんともぎこちない、世間話もそこそこに、モアはキンシにひとつ提案をしてきていた。
「お店の前でいつまでも長々とお話するのもアレだし、せっかくだから、お店の中に入らない?」
モアから提案をされた。
キンシは、それに快い返事をうまく用意できないでいる。
「ですが、今は一応仕事中でして……」
業務中に休憩をするのが、どうやらキンシにとっては気掛かりらしい。
「なんだい、妙なところで生真面目だね」
迷う魔法少女に、シイニが僅かに呆れたような声音を向けていた。
「ただやみくもに頑張ったって、それですぐに納得のいく結果を返してくれるほど、世界と世間は優しくないよ」
なにやらそれらしい事を言いながら、シイニは暗にモアからの提案を受け入れるよう催促をしている。
「そうなんでしょうか……?」
納得が作れないキンシ。
そんな魔法少女を置いてけぼりにしたままで、この場面は移り変わろうとしていた。
「自転車は入店してもよろしいかな?」
シイニがモアに問いかける。
「もちろん、この町のお店はどんな人でも、お金さえ払えば大歓迎よ」
問いかけに対して、モアはいかにも調子の良さそうな返事をしていた。
さて、入店である。




