過度なリアルが吐き気を呼び覚ます
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「まずこれを見てくれよ」
マヤがルーフの義足に触れる。
ホワイトベースの布地のハーフパンツから覗く、ルーフの右足の空白を埋める義足。
……かつて、怪物に喰いちぎられた右足。
失った本物の空白を埋め合わせるために、古城の主人、モアと言う名前の少女から授けられた。
と、言うよりかは成り行きで、なかば押し付けられるようにされた。
そんな義足に、「コホリコ宝石店」の店員であるマヤが、強い関心をもって、その表面に指を滑らしている。
生き物の骨のような白さ、そこに卵黄を解き解した液を混ぜ込んだかのように、かすかに黄色を帯びている。
磨きこんだ大理石のように艶やかな、義足の表面がマヤの指による検索に反応する。
パキリ。
硬いものが少しだけ崩れる、かすかな音色がルーフの耳に届く。
音のする方を見る。
マヤの人差し指と親指の間、そこに義足の一部分、一欠けらが摘み取られているのが見えた。
「あ、おい……!」
一欠けらを摘み取られた、ルーフはとっさに慌てる素振りを見せる。
「何すんだよ、これ一応、まだ借りものなんだぞ」
突くように口から発せられた言葉に、ルーフが戸惑いを覚えようとした。
それと同じタイミングか、あるいは一秒ほど早いタイミングだったかもしれない。
マヤは、動揺する少年の様子を落ちつかせるついでに、自らの行動の都合を簡単に説明している。
「この程度の破損なら、単純に欠片を合わせるだけですぐに元通りに修復できるって。そんなことより、これを見ておくんなまし」
ルーフの慌て振りを半ば無視するように、雑に振り払っている。
そんなことよりもと、マヤは摘み取った欠片をルーフにもよく見える位置まで持ち上げる。
「魔術回路の精度、内包する魔力の純度、かすかに甘い匂いがするのは、もしかして前の持ち主の影響下もな?」
真面目ぶった様子で解説をする最中にて、マヤは時折ニヤニヤと、詮索をするかのような視線をルーフに向けてきている。
義足の元の持ち主、モアという名の少女の関係性を暗に疑われた。
「し、知らねえよ……!」
ルーフはすぐさま否定を主張している。
その慌てる素振り、動作の速さ。
それらがすでに、怪しさをより濃厚なものへと惹き立てている事にも気付かないでいる。
そんなルーフの鼻腔に、マヤから指摘をされた甘い匂いがふんわり、と香り立ってきていた。
「くん……」
ルーフが嗅覚を反応させている。
動作を予測した、マヤは引き続き義足についての予想を語る。
「ともあれ、お前さんみてェなド素人にあてがうようなものじゃねェんだってこと。まずそこを理解してほしんだが」
語っている途中で言葉を区切り、マヤは屈んでいた姿勢をのっそりと持ち上げている。
立ち上がる。
ルーフと比べると、大人である分だけだいぶ背の高い姿が見下ろしてきている。
「まずは、何はともあれ、お前さんが何者であるかを知っとかんと、何の話も始まらねえっての」
単純明快にそれらしい事、尤もらしい事を主張している。
マヤはすぐにルーフから視線を動かし、ミナモに向けて質問文を投げかけている。
「このガキは何ものなんスか? ミナモの姉御。まさか、いつの間にこんなデカいガキこさえたんスか?」
両の手を腰に添えながら、マヤはミナモに向けて質問ついでの冗談をかましている。
「いやねえ、マヤ君」
からかわれた、ミナモはマヤに向けて冗談を打ち返している。
「ウチのしょっぱい遺伝子から、こない美男子が産まれるワケあらへんやないの」
「いや、ツッコむとこそこか……?」ミナモの返事にルーフが疑問を抱く。
だが魔法使いの少年の戸惑いをよそに、宝石店の店員と、人形師の人妻は互いにケタケタと笑いあっている。
「あはは」マヤの声。
「あはは」ミナモの声。
五秒ほど笑い合った。
その後に、ミナモは笑みを作ったままの顔でモヤに用件を伝えている。
「義足がなんや、今の持ち主さんの思うように動いてくれへんらしいねん。せやから、ちょっとでもマシになるように、そちらさんで魔術回路の調整をやって欲しいんよ」
店の客に要望を伝えられた。
マヤはふむ、と小さくうなずいている。
「なるほど」
それだけの事を口にする。
前提を踏まえた後に、宝石店の店員は返答をしていた。
「承知いたしました。ここではなんですから、店内にお越しくださいませ」
先ほどまでの軟派な口調、現代の若者らしい無責任にまみれた言葉づかい。
それらからは想像もできない、硬質な口調にルーフが戸惑っている。
もしかしたらこっちが、マヤと言う名前の人間の本性なのかもしれない。
あまり現実的ではない想像に思考を圧迫されそうになった所で、彼の体がルーフの背中に触れている。
「では、こちらへ」
柔らかく丁寧に触れている。
義足を軽く点検した時とは全く異なる仕草に、ルーフは大人しい家畜のように誘導されてしまっている。
店の中に誘われる。
動作の途中にて、マヤの視線が再びルーフの頭部の辺りに注がれていた。
「ご質問、よろしいでしょうか?」
機械的な音声に似た声音で、マヤがルーフに確認事項を伝える。




