表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

826/1412

外見は内面の一番外側

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、とても励みになります!

 ルーフは目的地についてを、目でしっかりと観察している。

 その店、「コホリコ宝石店」は確かにそこに存在していた。

 灰笛(はいふえ)と呼ばれる都市を構築する一部、建造物の中にひっそり潜むように息づいている。


 二階建ての、コンクリート材を基調とした建物。

 建築様式は周囲の建物となんら変わりの無い、風景に自然に溶け込む造りがなされている。


 どこにでもありそうな建物。

 何の変哲もない、普通の店のように見える。


 ただ、ルーフが気になっているのは、その店のさびれ具合であった。


 疲労感……とでも言うのだろうか? 不規則な生活に翻弄される細胞のように、疲れ果てた面持ちが店全体を支配している。


 まず看板の摩耗具合が顕著(けんちょ)である。

 元々は鮮やかな赤色にプリントされていたであろう、大きなゴシック体の文字は風雨によってすっかり色あせている。


 色褪せた看板から視線を少しずらす。

 店をさらに観察する、そうすると、さらに店のさびれ具合がより子細に確認することが出来る。


 店全体の雰囲気が、今にも周囲の風景と共に、無個性となりそうな。

 看板の文字のように、雨と風に希薄なものになってしまいそうな。

 巨人か神か、女神か天使でもいい、なにか強大なものの暴力の前に、いとも簡単に吹き飛ばされそうな。


 ちょっとした刺激だけで、跡形もなく崩れ落ちてしまいそうな……。

 弱々しさ、と呼ぶべき印象が、その店の外見情報のほとんどを占めていた。


 とにかく古ぼけている。

 人間の気配など感じられそうにない。


 辛うじて、店にシャッターは降りていない。

 ……故郷の町でよく見た、店員も利用客も誰も来ない、死んでいるように眠っているシャッター街とは、そこだけが決定的に異なっていた。


「営業は……しているみたいだが……?」


 玄関だけは開かれている。

 入り口が存在している、足を踏み入れれば入店することが出来る。


「うーん……んんん……?」


 店の前で立ち往生しながら、ルーフは次の行動を迷っている。


 店には、入ることはできそうだった。

 未知なる場所に進もうとする。

 そのために、ルーフという魔法使いの少年は、いくらかの勇気を必要としていた。


「…………」


 手段を辿るかのように、ルーフは視線を後方に移す。

 振り返った、そこではミナモとエリーゼが軽い会話を交わしているのが見えていた。


「んっふうー、ひさしぶりに翅を使って直接空をを飛んだから、なんだか、体のよく分からないお肉がシクシクと痛む気がするうー」


 エリーゼが大きく背伸びをしながら、背中の翅を雨の中に冷やしている。

 飛行をした分、稼働しただけの熱をもっているのは、普通の人間の筋肉となんら変わりはないようである。


 若い女魔術師の、魔法の翅が雨粒に冷やされていく。

 その様子を見ながら、ミナモは自らの魔法の道具を手で操作している。


「ええやんか、体動かした方がダイエットにも効くんとちゃう?」


 ミナモが冗談めかして言っている。

 その内容に、エリーゼが敏感そうな反応を返していた。


「あれ? アタシ、もしかして太った?」


「んー、胸を中心的に上半身がちょっとムッチリ、って感じやね」


 バイクのエンジンを止めながら、ミナモはエリーゼの脂肪の量についてを簡単に予測している。


「どーせ、ファストフードばっかり食べて、栄養バランスとか生活習慣とか、おざなりにしとるんとちゃう?」


「う! うう、耳が痛いっす」


 ミナモからの指摘に、エリーゼは三角にとがる耳を指で塞ぐ素振りを作ってみせている。


 ルーフの持つ聴覚器官のそれと異なる形を持つ耳。

 エリーゼの耳は指で隠しきることが出来ずに、三角のとんがり部分が指の隙間からはみ出ている。


「あかんよ、ほんまに」


 のらりくらりと(かわ)そうとしているエリーゼに、ミナモはため息交じりな注意を付け加えていた。


「エミル君にとっても、エリーゼちゃんは大事な後輩なんやから、もっと体を(いた)わらんと」


 なんだかまるで、実家に久しぶりに帰ってきた姉妹のことを気遣うような、そんな様子であった。


「…………」


 彼女たちのやりとりを遠くに見ながら、もう一度宝石店へと視線を戻している。


 すぐ近く、歩いて三十秒もかからぬ距離。

 そこで行われている彼女たちの柔らかな、いかにも平和そうなやり取り。


 それとは打って変わって、ルーフの目の前に存在する建造物は、依然として未知なる恐怖をそびえ立たせ続けていた。


「さて、と……」


 彼女たちにも頼るわけにはいかない、ルーフは自分一人だけの力で、未知なる店舗に足を踏み入れようとする。


 すたすた、と近付く。

 店の前に立つ。


 軒先、そこには商品と思わしき「何か」が陳列されていた。


 まるで八百屋や魚屋のように、商品と思わしきそれらが並べられている。


 ルーフは膝を曲げ、屈みこみながら商品? に指で触れている。


「……何だこれ? ビー玉か?」


 指でつまみ上げた、それは透き通る石のような、なにかであった。


「ずいぶんと、安っぽいもの置いてんだな」


 周囲に誰もいないことを前提として、ルーフは思ったままの感想を口にしている。


 素直で純粋な言葉、子供じみた言葉。


「誰が安っぽい店じゃい!!」


 それに、真っ向から否定の声を発する人間の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ