表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

824/1412

雨が降る時エンジンは揺れる

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 ミナモが自らにとっての、魔法の道具に命令を下す。

 彼女の道具、バイク、にとてもよく似た道具が作動する。


 ブゥゥウウン……!

 ドルルルン!! ドルルルン!


 エンジンが作動する、巨大生物の唸り声のような音が空間に響き渡る。


 音を聞きながら、ルーフはすでに一定の慣れきった動作にて、体をバイクの後部座席に預けている。

 振動が尾てい骨から頭蓋骨の頂点にまで届けられる。

 揺れ動きを感じながら、ルーフはふと、単純な疑問点に気付いている。


「ところで、なんだが、お前はここからどうやって店まで行くつもりなんだ?」


 発現させたままの自分の武器を小脇に抱えながら、ルーフはエリーゼに心配を向けている。


 これから「ショッピング」という題目の元、ルーフが身に着けている義足の機能について、探索と検索を行う。

 その道中に、エリーゼという名の若い女魔術師が、どういうワケか同行することになった。


 目的地へ共に向かうのは、今更拒否するのも億劫なので無視することにして。

 そうだとしても、ルーフはバイクの座席がすでに埋まりきっていることを懸念していた。


「どうする? バイクはもう定員オーバーだし……」


 ルーフが思考を働かせようとしていた。

 その様子を見て、ミナモが口角を上に曲げている。


「あらあら、いっちょまえにアタシの心配をしてくれているの? なんだか嬉しいような、悲しいような、惨めなような」


「惨めってどういう事だよ」


 せっかく人が人なみに心配をしているというのに。

 自分の善意を小馬鹿にされたような気がした、ルーフが苛立ちの反論をしようとしている。


「なんかスゲー余裕そうだが、まさか……ここから店まで飛ぶか走るかで向かおうってんじゃねえだろうな?」


「なんなのその強引な方法、どこの馬鹿が使う手段なのよ」


「どっかにいる馬鹿な魔法使いが、よく使う手だよ」


「それはそれは、とんでもないフールがいるものね」


 エリーゼが単純な驚きを呟いている。

 そのすぐ近くにて、ルーフはひとりの魔法少女についてを思い出しそうになっていた。


 あまり好ましくない、出来ることなら忘却していたい少女についてを思い返してしまった。


 苦虫を噛み潰したかのような表情を見せている。

 そんなルーフに、エリーゼはすかさず追及の指を伸ばしてきていた。


「なーに? その魔法使いちゃんに並々ならぬ感情を抱いている、ってかんじだね?」


「……安心しろ、お前が期待するような桃色の展開は全くのゼロパーセントだから」


 ニヤニヤとした好奇心を向けられている。

 直接的な視線が存在しているにもかかわらず、ルーフは己でも少しばかり驚愕する程に冷静さを保てている自分自身を眺めている。


「現時点で、あんたよりもワンランク上で嫌っている奴だからな」


「あらあら、それは重傷だね」


 思い出したくない、魔法少女のことを考えないように、ルーフはエリーゼに話しかけ続けている。


「それで? どうせ俺の疑問も簡単に解決する方法があるんだろ?」


「あらあら! ルーフ君もアタシの有能っぷりを理解し始めているようね!」


「理解っつうか、もはや諦めだな」


「うふふ、才能の差に軽やかな絶望を覚えてるね」


 どうしてそこまで楽観的な視点を持てるのか。

 ルーフがいよいよ彼女に対する不可解さを深めている。


 納得の行かない魔法少年に、エリーゼは問題の解決策を簡単に伝えている。


「ご心配には及ばないよ。アタシには、アタシの親から受け継いだ(はね)があるから」


(はね)?」


 何のことを言っているのだろうか。

 またしても新たな魔術式か、それとも飛行器官の一つについてを語っているのか。


 ルーフがひとり、魔術師の言葉に対して想像を巡らせている。


 考えらえるすべては、しかして彼の想像の範疇を超える結果によって粉々に砕かれていた。


「んんー、よいしょよいしょ!」


 大きく育った人参でを畑から収穫するかのような、そんな気前の良い掛け声とともに、エリーゼの肉体に魔力の反応が発現する。


「うわ?!」


 唐突に現れた魔力の気配に、ルーフの藍色の右目が生理的な反応を示してしまう。

 魔力の流れ、発現、物体の出現を、呪いを受けた右の眼球が事細かに観察する。


「翅だ……!」


 エリーゼの背中、肩甲骨(けんこうこつ)の二つのでっぱり、その辺りに透明な薄い膜のようなものが現れていた。


 雨雲を通過する希薄な日光に照らされ、わずかに虹色にきらめく。

 葉脈のように張り巡らされた筋の内側に、血管のように魔力が循環する。


 トンボの羽を千切り取り、それを人間一人、女魔術師一人分の大きさまでほど良く拡大させたかのような、そんな造形をしている。

 それは魔法の(はね)であった。


「スゲーな、なんだよそれ?」


 ルーフがついつい幼子のように、純粋な驚きと好奇心をフル稼働させている。

 キラキラときらめく魔法少年の瞳を受けながら、エリーゼは意気揚々とした様子で自らの翅を自慢している。


「アタシが属している種族、濃霧(こいきり)の身体的特徴だよ。すごいでしょ?」


「??」


 唐突に登場した固有名詞に、ルーフは理解を届かせることが出来なかった。

 不思議そうにしている少年に、エリーゼは少し諦めたかのように捕捉を行っている。


「あー、要するに妖精人種のもつ魔力の特徴ってことになるね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ