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脅迫はとろける舌触り

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、ブックマーク、まことに感謝いたします!

「ちょいちょいちょい」


 場面が終了を迎えつつある。

 そんな最中(さなか)に、ミナモの声が女魔術師と少年魔法使いの合間に介入してきていた。


「な、なんすか? ミナモさん」


 ミナモから話しかけられている、エリーゼは語気を少し崩して対応をしようとしている。


「ストップザモーメント!」


「!?」


 このままこの場面をやり過ごそうとしていた。

 それぞれに抱く感情は異なれども、展開の予想自体はルーフとエリーゼに共通しているものではあった。


 だからこそ、ミナモからの指摘が彼らにとっては、どうにもこうにも予想外の流れをもたらそうとしていた。


「そのリンゴ、まさかとは思うけど、全部丸ごと持っていこうとしとらへん?」


「え、えっと? うん、そのつもりだけれど?」


 エリーゼからの意見を、ミナモは信じ難いものとして受け止めるようにしている。


「ノーノー! それはアカン、そうは問屋がおろさへんよ」


 古い言い回しを使いながら、ミナモはエリーゼに一つの要求をしている。


「敵さんを(おろ)したのはうちらの手柄なんやから、やっぱり? それ相応の報酬を貰わんと」


 そんな主張をしながら、ミナモは何かを求めるかのようにして、手のひらを上かざしている。


 寄越せ、という意味合いを持つジェスチャーを作ってみせている。

 ミナモに対して、動揺をきたしているのはエリーゼだけに限定されているものではなかった。


「ミナモ?」


 要求をしているミナモに、ルーフが戸惑ったような声を投げかけている。


「報酬って、何を貰おうとしているんだ?」


「そんなの! 決まっとるやんか」


 今更聞くまでもないと、ミナモはルーフに決まりきった事柄だけを伝えている。


「うちらが殺した死体の分の、報酬はもらうべき権利があるはず。そうやろ?」


 当然の要求であると言わんばかりに、ミナモはいかにもリラックスをした様子で、魔術師たちに脅迫をしようとしている。


「まあねえ、確かにその通りかもねー」


 ミナモの主張に対して、同意を示しているのはエリーゼの声であった。


「たとえ素人の手による結果だとしても、それに伴う報酬は受けて然るべき、かもねー」


 てっきりまたしても適当な、いかにもそれらしい反論でも用意するものかと。

 そう思い込んでいた、ルーフは女魔術師の様子に意外さを覚えそうになる。


「なんだよ、もっとごねるかと思ってたのに」


「いやねー、アタシ達だって、いくらなんでもそんな殿様商売はしないのよー?」


 だったら先程までの、自分に向けた差別的視線は何だったのだろうか?

 ルーフは追及をしたくなる欲求に駆られる。


 だが実際に文句を口にすることをしなかった。

 というのも、もらえる報酬の方に少年の関心は強く惹きつけられていたからであった。


「さて、さてさて」

 

 ミナモが笑い、エリーゼがおののいている

 ルーフが見守る中で、彼女たちが報酬の取引を行おうとしていた。


 先手はミナモ。


「やっぱり? やっぱりやっぱり? うちらが命をかけに、かけちらかして、倒したばかりの獲物なんやから、それ相応のご褒美があって然り、なんやと思うんやけど?」


「そ、そうっすねえー」


「あれ? なんか……弱腰?」


 エリーゼの様子にルーフが違和感を覚えている。

 ほんの数秒前までは、自分に向けて散々嫌味のような台詞を吐き出していたというのに。


 それなのに、この状況は何だというのだろうか。


「なんか……先輩に逆らえない後輩みたいになってんぞ」


「う、うるさいなっ」


 ルーフから指摘をされた、エリーゼはきまりが悪そうに自分の耳を、三角にとがる聴覚器官を指で揉んでいる。


「こっちにはキミと違って、色々と複雑な事情ってのがあるんだって」


「いや、知らねえよ……そんなの」


 とにかく、エリーゼはミナモのことを苦手としているらしかった。


 あからさまな苦手意識を向けられているというのに、それに構うことなく、ミナモは取引を続行させていた。


「そういう訳やから、そのリンゴ、丸ごとうちらにくれへん? っていうか、そもそもそのリンゴはうちらが採るべきものなんやったんよ」


 ミナモが主張をしている。

 彼女からの要求に、エリーゼはいよいよ困惑を深めていた。


「え、ええー? さすがにリンゴ丸ごと一つ分は、こっちの取り分が無くなっちゃうよお」


 まるで教師から無理難題な課題を与えられたかのように、エリーゼはミナモからの要求を受け止めきれないでいる。


 困り果てている女魔術師に、ミナモは言葉による侵略を行い続けていた。


「うちらね、これからキミんとこの宝石店にお世話になるつもりなんよ」


「宝石店って」


 エリーゼは思考を巡らせている。

 色の薄い瞳をくるりと回転させながら、そのささいな動きのなかで結論を導き出していた。


「もしかして」


 今までの生活で(つちか)った土地勘から、エリーゼはミナモが言わんとしている答えを予想する。


「もしかして、アタシんとこの店に行こうってんですかいな?!」


「それって……」エリーゼの動揺っぷりに、ルーフもまた想像を回転させている。


「コホリコ宝石店って言う名前、もしかして……」


「もしかしなくても、よ」


 ルーフが首をかしげて想像を至らせているのに対し、エリーゼが忌々しそうに補足を入れてきていた。


「キミたちが今から行こうとしている宝石店は、アタシの親戚が経営しているお店、なのよ」

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