表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

815/1412

戻ろうか悩みはするけど

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、ポイント評価、まことに感謝いたします!

 エリーゼに指摘をされた。


 ルーフはその時点で、ようやく自分が腕のなかに何を抱えているのかを思い出していた。


「来て早々、おっかなびっくりだったよー」


 エリーゼは口でこそ恐怖心を主張しているものの、その様子、挙動はあくまでもリラックスしたものでしかなかった。


「ギトギトに使い込まれたアンティークものの魔法武器を、ぴちぴちぴっちなド素人少年が所持している。おまけに、その近くには魔法で撃ち抜かれたであろう、できたてホヤホヤの怪物の死体が転げ落ちている」


 エリーゼは状況を端的に説明している。


 まるで、そうすることによって、自分自身にも納得を結びつけようとしているかのようであった。


 ルーフが黙って彼女の言葉を聞いている。

 少年の無言の態度を、エリーゼは同意として受け取ったらしい。


 パンッと、エリーゼは胸のあたりでかしわ手のように手を鳴らしている。


「まあ! なにはともあれ、まずは死体の処理から始めようかしらね!」


 エリーゼが意気込んでいる。


「死体じゃなくて、御遺体と呼びなさいっての」


 若い女魔術師に、先輩らしき別の魔術師が注釈を入れている。


 なにはともあれ、魔術師たちの手によって怪物の死体が処理されようとしている。


「さてと、うちらはどないしようね?」


 ルーフに問いかけているのは、ミナモの声であった。


「お店はもうすぐそこやけれど」


「どうもこうも……」


 ミナモが全てを言い終えるよりも先に、ルーフの脳内では既に一つの目的を見いだしていた。


「俺が殺した獲物が、どんなふうにバラバラにされるか、気になって仕方ねえよ」


 ルーフが好奇心を作動させている。

 その様子を確認した、ミナモは少しだけ愉快そうに口元を上に曲げていた。


 微笑んでいるミナモをその場に放置する。

 そしてルーフは、魔術師たちが群がるところ、怪物の死体が落ちている場所に再び接近していた。


「んーっと……?」


 二名ほどの魔術師の背中をかき分けながら、ルーフは怪物の死体に跪くエリーゼの姿を見ていた。


「…………?」


 何をしているのだろうか?

 ルーフは女魔術師の挙動を見守る。


「……」


 少年の視線の先。

 エリーゼは怪物の死体の近くに跪き、両手をぴったりと合わせていた。


 唇は閉じられている。

 まるで何かに祈るようにしている。


 祈りの対象は、やはり怪物の死体に対してなのだろうか。

 ルーフは予想する。


 怪物の死体に祈りを捧げる魔術師の姿。

 まばたきの合間、目蓋の裏の刹那な暗闇に、ルーフは想像を作り出そうとした。


「…………んー?」


 だが、どうにも上手く想像することができなかった。

 魔術師が、エリーゼが怪物の死体に祈りを奉じる、動作が連結しなかった。


 もちろんそんなのは、ルーフの勝手なイメージに過ぎない。

 現に手を合わせているエリーゼの姿が目の前にあるというのに。

 そのはずなのに、ルーフの脳みそは祈りを拒絶していた。


 魔術師は祈らない。

 少なくとも動きを止めた怪物の心臓に、畏怖の感情を抱くことをしたい。

 そう、先入観がまずもって介入してきている。


 ただ単に個人的な想像でしかないのだろうか?

 ルーフは自らの抱いたイメージに、追求をしようとする。


 たまたま祈りを行っているのがエリーゼで、彼女の持つ現代慣れした様子が、怪物という非日常に相応しくない。


 と、勝手なイメージだけが先走りしている。

 だからこそ、想像に合致が届けられなかったのだろう。

 そうなのだろう。


 仮定を進めようとした。


 ルーフの耳に、エリーゼの声が滑り込んできている。


「──」


 なにかを唱えているらしい。

 ルーフは音声の正体を掴むために、さらに足を前に進ませている。


「ちょ……ちょっと失礼……」


 すでに後ろ側から静かに見守るどころの話ではなかった。

 ルーフは魔術師たちの体を掻き分けて、エリーゼの姿をさらに詳細に観察しようとしている。


「おいおい、キミ、あんまり近づくと危ないよ?」


 少年の行動に注意を向けているのは、エリーゼよりも年上の魔術師の声であった。


 良識のある、少なくともルーフよりは遥かに良識のある大人からの注意であった。

 だがルーフは聞く耳を持たなかった。

 それ以上に、ルーフは目の前で行われている祈りの場を観察しようとしていた。


 魔術師の注意を無視しながら、ルーフは祈るエリーゼの姿を凝視する。


「──る」


 エリーゼの、薄いピンクにグロスが重ね塗られた唇が、ブツブツと何事かを呟いている。


 唇の動き、そこから発せられる言葉の形をルーフは見る、聞いている。


「敬い申し上げる、敬い申し上げる」


 両手を合わせ、まぶたはしっかりと開かれたまま、祈りの言葉だけが空間を満たす。


「天におわすは御主(おんあるじ)、地の底には微睡(まどろ)む海原」


 聞き取れた、言葉の意味をルーフは考えようとする。

 単語のそれぞれを意味立てて考察をしようとした。


「…………?」


 だが現状のルーフの脳みそでは、単語のそれぞれを言葉として認識するのが精一杯であった。


 とりあえず自分の知っている言葉、言語体系であることは理解できた。

 しかしながら理解できたのはたったそれだけの事で、後は全くの意味不明でしかなく、ルーフはつい小首をかしげたくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ