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革命は骨が疲れる

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 …………。

 

 こんな事があった。


「ふあ……」


 ミッタのあくびが聞こえる。

 怪物を殺したばかりの時間、ミナモがスマートフォンで古城に通報を入れた。


 それから五分ほど経過した、そんな頃合いであった。

 ルーフは雨合羽のフードの位置を整えながら、待つべき相手を待ちつつ、灰色の幼女の様子を気遣っていた。


「ミッタ、眠いのか」


「んん……」


 ルーフが問いかけている。

 それにミッタは小さく喉を鳴らす、返事とも呼べない音だけを返していた。


 灰色の幼女にはだいぶ無理をさせてしまった。

 その自覚があるルーフは、彼女の体調の他に気にすべき事項があった。


「なあ、ミッタ」


「ん、なんじゃ?」


 ルーフは左右を確認した。

 だが灰色の幼女の姿を、薄墨のワンピースの揺らめきを見つけることが出来なかった。


 もうすでに、実体を保つことも出来ないほどに疲れてしまっているのだろうか。


 ミッタのことを気遣いながら、ルーフは憂うべき事項を彼女に確認している。


「その……もうすぐ古城の関係者が来るんだが」


「おう」


「お前は、隠れていた方がいいんじゃないか?」


「ほう、それはどうしてじゃ?」


「どうしてって……」


 ルーフは自分に、自分たちに起きた事件の顛末を改めて語っている。


「怪しい怪物と、怪獣? になりかけたやつが一緒に居たら、ほら……色々と怪しまれるだろ?」


 ルーフが危ぶんでいる。

 少年が危機感を抱いている。


 その間に、古城から来訪した魔術師たちが現場に集まってきていた。


 プルプルプル。

 プルプルプル。


 プロペラが回る、忙しない音色がルーフの鼓膜に届いてきていた。


 雨の音にまぎれることなく、主張する音がする方に視線を向ける。

 ルーフは見上げる、そこには二名の魔術師が、背中に飛行器官を搭載して登場をしてきていた。


「こちらですかー? 敵性生物の遺体回収依頼はー、こちらで間違いないですかー?」


 小学生が背負うランドセルに巨大な苗木をぶっ刺したかのような、そんな形状の飛行器官を使用している。

 自らの頭上にてせわしなく回転するプロペラ、飛行のための歯車が発する音。


 その音にかき消されぬよう、器官を背負う魔術師が空のうえで声を張り上げているのが見えていた。

 

 魔術師たちの呼びかけに、スマートフォンを片手に持つミナモが返答をしている。


「間違いないですー! こっち、お願いしますー!」


 雨の音やらプロペラの回転音を通り抜ける、ミナモの大声が地面の上に響き渡った。


 古城から呼び出された魔術師たちが地面の上、アスファルトの上に降り立ってくる。


 ププル、と飛行器官に備わった歯車がその回転を停止させている。

 近付いてきた、魔術師の姿は意外にも若い女性のようないでたちを持っていた。


 腰回りをスッキリとさせたビジネススーツに身を包む。

 魔術師の内の一人、この現場を任されたであろう主格。


 年を数えてみても二十歳を超えたか。

 ルーフは頭の中にハリとエミルの姿を思い浮かべる。

 たぶん、おそらくだが、彼らよりも年下なのではなかろうか?


 ルーフがひとりでに彼女、この現場に参上した古城直属の魔術師についての予想を組み立てている。


 少年が沈黙のなかで思考を働かせている。

 その間に、すでに魔術師の方では早くもこの現場の詳細をいくらか把握しているようだった。


「なるほど、なるほどね」


 ふむふむとうなずきを繰り返す。

 魔術師の彼女の姿を、ルーフは視界のなかで一方的に観察している。


 年の格好は二十(はたち)かそこら。

 古城から配布されているグレーのレインコートをきっちりと身に着けている。

 頭に被っているフードの隙間から、ミルクティーベージュに明るい毛先がのぞいてきている。


「もしもし」


 所属している種族は何であろうか?

 頭部に獣のそれをかたどった聴覚器官が見受けられない、であればルーフと同じN型、ノーマルの人間という事になるか。


「もしもし?」


 そうだとしたら。

 ルーフは途端に目の前の、見ず知らずの、まさに出会ったばかりの女魔術師につい親近感を抱きそうになる。

 今まで生きてきた中で、祖父以外にN型の人間に出会ったのは初めてかもしれない。


 大概は何かしら獣の特徴を宿している人間にしかあったことが無い。

 エミルを含めて、片手で数えられる程度だ。


 まずはそこで、ルーフは少しでも多くの安心感を得ようとしていた。


 いや、さらに考えられるのは、よりN型の人間に近しい見た目を持つ、別の種類の人間かもしれない。

 木々(ききね)のように、体に植物の特徴を宿した種類の人間は、比較的ルーフと共通した見た目を持っている。


 であれば、と、ルーフは女魔術師の体をジロジロと眺めまわす。


 見える範囲。

 レインコートに隠しきれない部分。


「……無いか」


 少なくとも、見える範囲。

 そこにルーフは、植物の特徴を見つけ出すことが出来なかった。


 という事は、別の種類の人間という事になるのか。


「もしもし!」


 ルーフが考え事をしている。

 すると彼の体を


 バァンッ!!


 と強く激しく叩く腕が存在していた。


 腕の持ち主。

 それはルーフが観察の対象としている、女魔術師による一撃であった。

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