表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

809/1412

あと少しで何か見つけられそうだったのに

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、まことに感謝いたします!

 大量の魔力の気配が自分のすぐ近くで現れている。

 むせ返るような海水の匂いに、ルーフは瞬間息が詰まりそうになる。


「……飛行器官、作動!」


 ミナモが自らの道具に命令文を発している。

 持ち主の意向に従って、バイクによく似た魔法の道具がその形質を変化させていた。


 ブウゥゥンンンン……!


 エンジンの音が鳴り響く。

 その後に、空気が激しくかき乱される音がルーフの鼓膜を震動させていた。


 フワリ。

 無重力の感覚が、ルーフの下腹部を内側から舐めている。


「……え?」


 まばたきの間に、ルーフは自分の周りの風景が変わっていることに気付かされていた。


 足元が軽い。

 地面に触れているはずの足が、空白にさまよっていた。


 地面がない、消えてしまったのだろうか?

 あり得るはずの無い想像をすることで、ルーフは少しでも冷静さを取り戻そうと……──。


「……ッて、空を飛んでるうぅぅーーッッ??!!」


 バイクが空を飛んでいた。

 それ以上何を言うまでもなかった。


「何をそんなに驚いてんねん」


 ルーフの素っ頓狂な叫び声に、ミナモが冷静そうなツッコミを入れている。


「空飛ぶ車もバイクも、ここじゃそんなに珍しいものでもないやん?」


「そ、そうだな……」


 しまった、つい田舎者っぽい反応をしてしまった。

 ルーフはいったん閉じた唇のなかで静かに反省している。


 とはいうものの、まさかこのバイクにまで空を飛ぶための機能が内臓されていたとは。

 思ってもみなかった。


「最初にバイクって説明したやろ? ちゃんと空を飛ぶから、モトラドとは表現しませんでした」


「……いや、その辺の違いはよく分かんねえけども」


 とにかく、空を飛びながらバイクは怪物に急接近をしている。


「よし、このまま敵さんの真上にまで移動するで!」


 まるで自分自身に言い聞かせるかのようにして、ミナモは自分の近くにいる人間たち、ルーフに向けて指示を発している。


「まかした!」


 彼女の叫び声を耳にい受け入れた、ミッタがさらに魔法のリボンを強く操作する。


 小さく柔らかい手を握りしめる。

 灰色の幼女の下半身からなるリボンたちが、怪物の五本の爪をさらに圧縮する。


 ぎゅうぎゅうと、狭まれた爪たちはすでに剣山のように一まとめにさせられてしまっている。

 バランスを崩し、転倒するには後は時間の問題であった。


 倒れる前に仕留めておきたい。

 ルーフの直感が腕に伝わり、抱えている武器に熱を灯らせる。

 

 バイクが空を飛ぶ。

 あともう少しで、ゆらゆらと揺れ動く怪物の真上に到達しようとした。


 その所で。


「飛べ!」


 ルーフに命令をしていたのはミッタの声だった。

 ほんの少しの勇気を必要とする行為を、灰色の幼女に求められた。


「こなくそ!」


 しかし、迷っている暇など無かった。

 自分はこれから魔法使いとして、人を喰らう怪物を殺さなくてはならない。


 でなければ、自分が喰われてお終いになる。

 ただそれだけの事だった。


 バイクの後部座席、とも呼べそうにないささいな隙間から体を飛びださせる。

 体が落ちる。

 後の事は、あまり考えていなかった。


 どうとでもなる。

 今は、怪物を殺せるのならば、何でもよかった。


 それは一種の諦めに似た感情だったのかもしれない。

 少なくとも、少年の怪物に対する殺意は確かなものだった。


 ふうわり。

 体を引っ張っていたはずの重力が、ほんの僅かだが軽減された感覚がおこる。


「?!」


 ルーフは驚き、自らの肉体に近しい所で発生した魔力、魔術式の気配を即座に検索する。


 探そうとした、だが目を凝らすまでもなく、魔術式の正体はあまりにもルーフの近くに存在していた。


 ポオゥウウ……。

 ルーフの右足、怪物に喰われて欠落した空白を埋める、義足がかすかに発光をしている。

 

 蛍火(ほたるび)のようにかすかな光は、確かに魔力が発動している証でもあった。


 右足の義足が作動する。

 魔術式が世界の理に干渉する。


 ふうわり。

 ルーフの体が少しだけ軽くなる。

 浮遊する、落ちる勢いが弱まった。


 空気中に滞在することの出来る時間が増幅した。

 これは儲けものだと思うことにして、ルーフは仕組みの理由を理解するよりも先に、自分に課せられた役割を果たそうとする。


 銃を、そう呼称される機構によく似た魔法の武器を構える。


 構えた。

 瞬間、ルーフの脳内に先ほど教えられた内容が再生される。


 …………。


「……その武器には、きちんとしたルールにのっとって使用しなければ発動しない、特別な機構が存在しておる」


 少年に武器の使い方を教えているのは、ミッタの囁き声であった。


 そよ風のように耳の内側を撫でる、幼女の声がルーフに伝える。


「なに、難しいことなどなにも無い。呪文のようなものを唱えるだけじゃ」


「呪文?」


 記憶のなかでルーフが首を傾げている。

 意識の外側、癖のようにおこなっている動作。


 それを見ていた、ミッタは唱えるべき呪文をルーフに教えようとする。


「よいか? 三つじゃ、大事なのは三つ言葉を重ねることなんじゃよ」


 …………。


 記憶が現在に引き戻される。


 色々と思い出すことがたくさんあった、ような気がする。


 だが今は、たった一つの事をおこなえば良い。

 その筈であった。

 ルーフはそれを、それだけを信じようとする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ