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カメリアの花を彫り出す風

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、まことに感謝いたします!

 ミナモがなんのことを言っているのか。

 その答えを得るためには、ルーフは少しばかり思考を巡らせる必要があった。


 彼女が爪について、怪物の体から生えている五本の爪についてを語っている。

 それだけの前提を理解した上で、ルーフはミナモの反論についてを考察しようとする。


 少年がひとり、脳みそを稼働させている。

 その間にも、怪物は己の存在を主張するかのように、この世界における生命活動を継続させていた。


「 ああ  ああ  あああ  」


 開かれた唇の隙間から声を漏らす。

 軒先に垂れる雨水の(したた)りのようなリズムを持つ鳴き声。

 声は形容しがたい不安定さを、この世界の人間たちの鼓膜にもたらしていた。


 大通りから少し離れた路地。

 人通りは少ない、雨だけがアスファルトに暗く硬く舗装されている道の上に重さをもたらしている。


 人間の気配が少ない、ただ遠くにメインストリートの上を走る車両たちの気配がかすかに滑りこんでくる。


 道の上を怪物の爪が伝う。

 その足取りは緩慢なもので、素早さというものはほとんど見受けられなかった。


 コツン……コツン……。


 ハリのように鋭い爪の先端が触れる、音がルーフの耳に届けられている。


 わずかな音を聞きながら、ルーフはもう一つ、怪物に対する予想を描き出している。


「……そうか、あの長ぇ爪を使って、周囲の情報を集めているのか」


 ルーフの予想を自動的に確立するように、怪物は爪の先端における検索を続行している。


「体が小さすぎるから、感覚器官が発達しなかった……。その代わりに、別の感覚器官を発達させた、……その結果があの形、なのか……?」


 ルーフが予想をたてている。

 そのすぐ前、バイクの運転席にて、ミナモが次なる行動の予定を企てていた。


「せやったら、その感覚器官? を直接潰しちゃえば、敵さんにはとんでもないダメージが入るかもしれへんね!」


 ミナモはそう言いながら、再びバイクのアクセルを握りしめようとしている。


「そういうことなら、ルーフ君、君がもう一度敵さんの爪を武器で破壊してみればエエんとちゃう?」


 ミナモからの提案を、しかしながらルーフは快諾(かいだく)しかねていた。


「でもなあ……一発弾を撃つと、次を装填するのに時間がかかるんだよな」


 可能ならば怪物の感覚器官を破壊した瞬間、相手が動揺しきっている隙を狙って攻撃がしたかった。

 そうでもしなければ先ほどのミッタのように、巨大な歯並びに噛み砕かれるか、あるいは喉の奥に丸呑みされるか。

 そのどちらかであった。


「うーん、爪を壊して、それと同時に決め手になる一発を食らわせるためには、ルーフ君ひとりの力じゃどうにもならへんねえ」


 ミナモが悩ましげに考えている。

 彼女が悩んでいると、そこに提案をもたらす声が囁きかけてきた。


「そういう事なら、わしが協力しても構わぬぞ?」


「ミッタ?」灰色の幼女の提案に驚いているのはルーフの声であった。


「お前、……そんな体のままで怪物を相手になんて出来るのか?」


 ルーフは彼女の状態を気掛かりにしている。


「心配せずとも、わしはいつでも戦えるぞ?」


 少年に心配された、ミッタは自分の体の状態については、特に何の問題もないことを主張していた。


「体は半分喰われてしまったが、それでもまだ半分残っておるではないか」


 下半身は依然として空白のままで、上半身だけがふわふわと浮遊している。

 その様子は、どうしようもないほどにチープなマジックショーのような風体をなしている。


「そんな単純な理屈でどうにかなる話なのか?」


 ルーフが不安がっている。

 少年の表情を包む不安の陰りに、ミッタはどこまでも一方的な推進力で流し込もうとしていた。


「ええい、(おのこ)がそのようにいつまでもぐちぐちと不安ばかり抱えおって。ご主人、わしは眷属として恥ずかしいぞ!」


「ンなこと言われたってな」


「あーはいはい! 痴話喧嘩は後にしてくれへん?」


 始まりかけていた少年と幼女の言い争いを、ミナモが手早く鎮めようとしていた。


「別に……痴話喧嘩なんて……」


 彼女の表現の仕方に拒否感を抱いた、ルーフが反論を停止して訂正を加えようとした。


 しかし少年が全てを言い終えるよりも先に、幼女の方が決定的な行動を起こしていた。


「では、わしの妙法をとくと見受けるがよい!」


 そう言いながら、ミッタは二度目の突進を怪物に向けて行っていた。


「ミッタ!」


 話の流れを理解できないままで、ただひたすらに進み続ける状況に戸惑うばかりのルーフ。


 少年をひとり置いてけぼりにしたままで、戦いの状況は次々と変化を現していた。


「あーもう! 仕方ねえなあ!」


 これ以上の言葉は必要ない。

 必要とされるものがあるのならば、それはおそらく魔法か、それに近しい行為にのみ限定されている。


 その事実、その現実だけをさとった。

 ルーフは諦めるかのように、再び武器を腕の中に構えている。


「……」


 そうしていると、ルーフの耳元へ囁きかける声の姿があった。


「?」


 耳を済ませてもう一度、声が聞こえる。


「ご主人」


 それはミッタの声であった。

 どうやら彼女は、行動のなかでルーフに確認したい事項があるらしかった。

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