一緒に地獄へまいりましょう
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ミナモがアクセルを握りしめる。
指先の屈折から発せられる命令文に、ミナモの魔法の道具は素直に答えていた。
ぶるるん!
低く唸り声をあげているのはミナモが乗っている魔法の道具。
二輪式のバイクのそれと、とてもよく似ている。
バイクと思わしき機構が活動を再開させ、車輪が地面に食らいつく。
「この後は? どうするんだ?!」
三度バイクに乗り込んだ。
ルーフはミナモの尻のすきま、空いている座席の部分に身を寄せるのに戸惑っている。
少年が背後でもぞもぞと、もごもごと、相談事を訴えかけている。
「本体……ゲホッ! たぶん?! ぜぇ、ぜぇ、本体だと思うヤツが、……出てきたんですけど?!」
すでに息切れを寸前。
苦しげにしている。
息も絶え絶えになりながら、ルーフは自らが負う疲労感の質量に打ちのめされそうになっている。
おかしい……いくらなんでも、疲労感が大きすぎる。
肩を上下させながら息をしている。
そんな少年の疑問が、言葉となって発せられる。
生暖かい温度をうなじの辺りに感じとりながら、ミナモは困惑したようすで情報を少年に提供していた
「いきなり一発目あないな大量のモノを撃ち出すやもん、そら血ぃが少なくなって、大変なことになるで」
ミナモの声色には、特に真剣な様子は見受けられそうにない。
ただ当たり前のことを、優しげなえみのなかで伝えている。
「スポーツドリンクか、お塩ををちょびっといれた飲み物飲んで、しばらく横になってゆっくりすれば、すぐ治るから!」
「……そうしているか、それよりも前に、あれの餌食になりそうだけどな!」
ミナモの方に向けられていたルーフの視線は、またしても空に移る。
少年が引き裂かれた隙間から現れた、怪物の姿に強く注目している。
彼らがやり取りをしている間に、怪物は身体の内に安定感を求めようとしているらしかった。
「ぁぁ あ ぁ あ ぁぃぇう」
本体である肉塊が鳴く。
一体あの肉体のどこに、発生器官があるのだろうか?
そうして、ルーフが怪物のなき声に耳を傾けている。
すると、地面の上を這っているばかりの肉塊に動きが生まれ始めた。
この状況に対し、ただ単に驚き慌てふためくだけに過ぎない。
何ら知識を持ち合わせていないルーフにも、怪物がこれから何をしようとしているのか、言葉では説明しがたい予感を覚えていた
少年が怯える目線で見つめている。
加えてその他の視線を合わせるように、怪物はついにこの世界に発現しきっていた。
五本の爪で地面に触れ、中心の肉塊を支えている。
全体図を確認してようやく分かったことではあるが、どうやら爪は本当の意味で怪物の足として機能しているらしかった。
本来ならば六本あったはずの足は、しかしながら残された五本でしっかりと中心の肉塊を支えている。
「あー あー あー -あ」
最初の叫び声、産声のごとく生命力があふれかえっていた声。
あの声ほどの勢いは既に失われてしまっていた。
コツン、コツン。
硬いもの同士がぶつかり合う、硬質な音色がルーフの耳元に響いてくる。
近付いてくる、それは怪物の足音だった。
銀色に伸びる五本の爪を四方八方に伸ばしながら、怪物は傷が発生した場所から移動をしようとしている。
「あれ……?」
怪物がのっそりと、緩慢な動きでこの世界を歩き始めた。
コツン、コツン。
とても動きが遅い。
まるで、丈の長いウエディングドレスを身に着けた花嫁のような足取りで、そろりそろりと歩を進ませている。
「ずいぶんと……動きが遅いな」
ルーフがじっと観察をしている。
そのすぐ横で、ミナモが少しだけ高まった声色で話している。
「どないしよ? もう一回先手必勝、キメちゃう?」
前輪をほんの少し斜めに傾ける。
指はアクセルに引っ掛けられたまま。
あとはそれを握りしめるだけで、再びの風圧と少しの不安、を凌駕するスピードとスリルの快感が女と少年のもとに訪れるのだろう。
誘いは甘美なものであった。
だが、残念ながらルーフには優先すべき、……と考えらえる案が一つあった。
「弱点はあの、真ん中のでっけえ梅干しなんだろ?」




