きらめいて見えていたとしても
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
ご感想、ブックマーク、ポイント評価、まことに感謝いたします!
怪物の爪は一本だけ破壊した。
後の残り、五本残された部分が空中を掻いている。
捉えるべき場所を見つけられないままで、ただ意味もなく先端で虚空を撫でるばかりだった。
五本の鋭さたちが目的を見つけられたのは、傷から本体と思わしき肉塊が落下してきた、その後の出来事であった。
バランスボールほどの大きさがある、本体と思わしき肉の塊。
表面はいくらかのおうとつがある。
表皮の暗い赤色も相まって、ルーフは壺の中の梅干しを想起させていた。
巨大な梅干しのような体を持つ、怪物は鳴き声を発しながら地面の上を這っている。
「あ あああ あああ あああ ----あ あーー」
腹を空かせた赤ん坊か、あるいは発情期を迎えた野良猫のような、そんな鳴き声を発している。
怪物は赤い肉塊を地面にこすりつけながら、その体から生えている五本の爪で地面を探っている。
ふらりふらりとさまよっている。
やがて数秒ほど経過した、爪の先端たちはそれぞれに一本ずつ、把握すべき地面を導き出していた。
残された五本の爪を支えに、怪物は肉塊を地面から持ち上げようとする。
その動作を観察しているなかで、ルーフはその怪物について二つの情報を収集していた。
一つは、怪物の爪は肉塊を均等に取り囲むように生えていること。
ルーフ自身が武器で破壊した一本を合わせれば、ちょうど六本、等間隔で怪物の中心点を支える。
怪物の肉体は、その様な構造になっているらしかった。
爪がどうさのゆくすえを一本、また一本と見つけ出している。
ルーフは怪物に中止しながら、次の動作を頭のなかでシミュレーションする。
だがやはり、とでもいうべきなのだろか。
考えを否定したがる程に、思考能力まるで機能してくれそうにない
怪物が存在している方角。
ルーフは大量の恐怖心を抱いたままで、爪たちの中点に座す。
肉塊、と思わしき本体がゆっくりと、だがしかし確実に、地面との触れ合いに別れをつけたがっているようだった
梅干しのような造りがなされている。
怪物は自らに与えられた器官、六本の爪を使って移動を開始しようとしていた。
カコン、カラコロン。
五本たちがつかみ所を見いだし、しっかりと体重を支えるための活力を爪全体みなぎらせる。
その動作を見た。
ルーフはもう一つ、あの怪物についての弱点を導きだしている。
考えるまでもなかろう。
ルーフの頭のなかで、結論を口頭で語る男の声が聞こえてきた。
「あの真ん中の、産まれたばかりの赤ん坊のように肉が柔らかいところそこを狙えばいいんだよ」
とても聞き覚えのある……。
とは、とても言いきれそうになかった。
聞こえてくる声は祖父のものだった。
何かしらにつけて、一方的な流れのなかでルーフはそれに親近感、あるいは後悔を思い残す。
どうして、どうして?
既にこの世界には彼の魂も、肉体さえも失われてしまった。
彼を、愛するべき唯一の肉親であった。
彼は優秀な研究者だった。
彼の知識も、ルーフはこの手で全ての未来を拒絶してしまったのだ。
「ルーフ」
ルーフが記憶に捕らわれつつあると、そこに発破をかけるような声が叩きつけられていた。
「ない、このような場所で妄想に耽っておられるのう!」
どうやら長く考え過ぎていたらしい。
パッとルーフが幼女よ、ミッタの声がした方角を探そうとしている。
しかし少年が試験を左右に向けてみても、灰色の幼女の姿は見つけられそうになかった。
「ここ、ここじゃよ、ご主人」
またしてもすぐちかくにミッタの声がした。
今度は自身から見ても、あからさまに距離感が近すぎている。
声の気配の強烈さに、ルーフはその勢いのままで武器を構えそうになる。
「わー! ちょ、ちょ、ちょいとおまち!」
激しく振り払おうとしている、 ルーフは自らの腕にまとわりついているものの正体を見つけていた。
「みった?! お前、何してんだよ?!」
対象の情報をすぐ認識している。
とたんにルーフは、この戦闘の場面にミッタが関わろうとしていること、その事実に怒鳴るようしてしまっている。
「あぶねぇだろ! どっか安全な場所に隠れてろ!」
怒りの初期症状のままで訴えかけてきている。
少年の激しい心配も、やはりというべきか、ミッタは真剣そうに聞き入れるつもりなど毛頭無いようであった。
「じゃから、わしの身体はまだ実態すらも確立させておらんというのに……。幽霊みたいなものに、まいどまいどいたわられても逆に困るわ」
ミッタは自らの形について、空中でフワリフワリと漂いながら解説を勝手に締め括っている。
しかしながら、灰色の幼女が語る内容のみであると、ルーフの疑問点は更なる複雑化を余儀なくされていた。
「逃げれるんだったら! ここは危ないからはやく! 安全な場所で隠れてろよ!」
用意したいくつかの提案を言葉にしている。
感情と状況を込みに、ルーフはまるでミッタに向けて説教をしているかのような雰囲気をかもし出していた。
「お二人さん、イチャイチャするのは勝手やけれど」
ミナモが、にやにやにやりと少年と幼女のやり取りを微笑ましく眺めている。
だがその間にも、ミナモはハンドルを握る手を緊張させ続けていた。




