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近くで舞うキミと再会しよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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 あれやこれやと頭を悩ませている。そんなルーフに対して、ミナモは明るい声音で提案をしていた。


「よし、まずはあそこにツッコんでみよっか!」


「え……は?」


 流石にもうすでに、ルーフはこのミナモという名の女に対して、名案を導き出すタイプの策士ではないことを把握していた。


 その上で、それでもルーフは彼女の無茶振りに驚きを隠しきれないでいる。


「いま、……なんて?」


「だから、このままあそこに近づいて、最初の一撃を食らわせようって。そういう話よ」


 ミナモが分かりやすい説明をしようとしている。

 だがルーフにしてみれば話の分かりやすさよりも、その内容こそが受け入れ難いものでしかなかった。


「いやいや、いやいやいや……?!」


 ボルトアクション式ライフルによく似た武器を腕の中に抱えながら、ルーフはミナモからの無茶振りに強く拒否の意を表している。


「何とんでもないこと言ってんだよアンタは?! どうしてわざわざ近付いて……? その後には、どうすればいいんだよ?!」


 ルーフが作戦内容について追及をしている。

 動揺しきっているルーフに対して、ミナモはあくまでも淡々と実行することを求めていた。


「大丈夫やって。ウチがこのコを使ってあそこに近づくから……──」


 作戦内容を言いながら、ミナモはちらりと視線を自らの道具に向けている。

 濃厚な麦茶のような色を持つ瞳が、バイクによく似た魔法の道具を反射している。


「ルーフ君、あんたは自分の、その道具で敵さんの肢を撃つんやで」


「え、ちょ……ッ?」


「そいじゃあ、レッツゴー!!」


 ルーフの返事を待つことも無く、結果は分かりきっていると、ミナモは再びアクセルを握りしめていた。


 エンジン音が鳴り響く。

 後輪がぐるりと回転し、前輪がアスファルトを強く噛みしめる。


 車輪が前進する。

 引力が再び背中を引っ張る。


 ルーフの困惑を置いてけぼりにしたままで、車輪は再び怪物の爪に接近しようとしていた。


「あー! もう! こなくそ!」


 いきなり流鏑馬(やぶさめ)じみた技を要求させられた。

 求められた作業の高難易度に文句を言う暇も無く、ルーフは武器を構えるより他はなかった。


 接近する。

 低く低く振動するエンジン音。

 振動を肉体に感じつつ、ルーフは武器を構えようとする。


 安全装置はすでに解除されている。

 五発分の弾を装填している、かすかに追加された重さを腕に感じ取る。


 木製の深い茶色の艶やかなグリップに頬を密着させる。

 よく使いこまれた木材の質感、雨に濡れるひんやりとした温度がルーフの右頬に触れ合う。


 引き金に指をかける。

 

 そしてルーフは銃口を向ける。

 銃口先端部分にある円形の照準器、内側に組まれた十字の中心に怪物の肉体の一部分を定める。


 怪物の爪、アスファルトに突き刺さっている一本に狙いを定めた。

 引き金を引く。


 ガァン!

 耳をつんざく爆発音の後に、銃口から魔法の弾が撃ち出されていた。


 普通の弾丸とは大きく性質を異ならせている。

 弾自体には実体を持っていない、藍色の光を放つ光の一閃だった。


 それはルーフの魔力そのものだった。

 攻撃の意識を大量に含む、輝きが怪物の爪に炸裂していた。


「当たった!」


 構えを一旦解いて、ルーフは弾の行方を目でしっかりと確認していた。


 ルーフが見つめる先。

 そこでは魔法の弾によって、怪物の細く長い肢の一本が破壊されているのが確認できた。


 地面に突き刺さっていた一本、それが折られている。


「おみごと!」


 ミナモがルーフに賞賛の言葉を贈っている。


 彼女は車輪の推進力を弱め、再び停止しようとしている。

 怪物とある程度の距離を保ちつつ、ルーフとミナモの体が地面の上に留まっていた。


「よし……! このまま……!」


 ルーフは再び武器を構えようとする。


「ちょっと待って」


 だが少年の動きをミナモは短い言葉で制止していた。


 彼女に動きを止められた。

 ルーフはそのことに疑問を抱こうとした。


 だがそれよりも先に、少年の視界にもっと注目すべき変化が現れていた。


 変化、それは傷の下、怪物の肉体に生じ始めていた。


「……あ」


 何か、かすかに鳴き声のようなものが聞こえたような気がした。

 空耳かもしれないとルーフは最初、一秒ほどそう思い込もうとした。


 だが少年の期待は、どこまでも、果てしなく継続する現実の前に、すぐさま否定されることになった。


「ああああー ----あ  ア  あああああー -‐‐‐‐‐アア あー」


 輝く傷口からこぼれ落ちた。

 怪物の肉体から鳴き声が聞こえてきた。


 それは人間の赤ん坊の産声にも似ている。

 人間の限りなく淡彩にさせられた本能、そこから再検索を強引にさせる。

 本能的に焦らせる、鳴き声にルーフは強く集中を余儀無くさせられていた。


 人間のいくつかの視線を表面に浴びながら、怪物はその傷口の隙間から這い出している。


 落ちたのは傷から見て真下。

 ちょうど最初に発現した爪があった場所。

 ルーフが魔法の武器で破壊したばかりの爪、それらの残骸が転げ落ちている地面の上。


 そこに怪物の本体、内側に骨と心臓、血液を湛えた肉の塊が落下していた。


 ベチャリ。

 

 湿った音を奏でながら。

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