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問答は後回しにしよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想、とても励みになります!

 ルーフは右手を空中にかざしていた。

 まだ何も握られていない、何も現れていない、空の手の平が空気に触れる。


 走行するバイクの上、風圧がルーフの腕を圧迫していた。

 びゅうびゅうと風が唸る。


 風の気配を腕全体に感じ取りながら、ルーフは頭の中で魔法についてを考えていた。


 魔法を使おうとする。そのための段階が、思考が働いたと同時に発動するのを肉体に感じ取っていた。

 魔法のことについて考える。


 皮膚の下の血液、赤い体液に含まれる魔力が熱を帯びる。

 生まれた温かさが、雨と灰に染まる空気と触れ合い、温度差を生み出す。


 目に見えることの無い透明な薄い壁、そこに光の揺らめきが生まれる。

 光の揺らめき、その後にルーフの手の平へ道具の重さが発現していた。


 ズシリ、とした重さ。

 一丁の猟銃。

 ボルトアクション式のライフル、……にとてもよく似た魔法の道具がルーフの手元に姿を現していた。


 右の手の平に発現させた道具を、ルーフは取り逃すまいと懸命に握りしめている。


「で、出た! 使えた!!」


 なんといってもルーフにとって、実際の戦闘場所で魔法を使う場面はまだ指に数えられる位しか経験していない。

 

 いかにも初心者らしく、あたふたと慌てふためいている。


「落ち着いてえな、ルーフ君」


 そんなルーフに、ミナモはまず冷静さを保つことを推奨していた。


「道具が用意出来たのなら、中身に弾を込めなあかんよ」


「あ、ああ……!」


 ミナモに指示をされた。

 ルーフは彼女の言うとおりに、身に着けている小型のリュックサックのポケットから五発、専用の弾を取り出し、武器の内部にはめ込んでいく。


 弾を装填した。

 ルーフは武器を両手に抱えながら、同時にバイクから振り落とされないように体の平衡を保とうとする。


「おっとと……!」


「落ちんように、気ぃつけて!」


 ルーフに注意をしながら、ミナモは道の上でハンドルを左にかたむけている。


 車輪の推進力が弱まり、バイクの推進が道路の上で一旦停止させられていた。


 ドルンドルンと、エンジンは活動し続けている。

 振動を尾てい骨に感じながら、ルーフは動きを止めた光景の中に怪物の姿を探そうとする。


 視線を少しだけ巡らせる。

 傷という分かりやすい現象があるゆえに、怪物の姿はすぐに見つけ出すことが出来ていた。


 空間を引き裂いた、ほのかに青みがかった白い輝きのなか。

 くすんだ銀色の爪が、先ほどよりもさらにその姿を変容させていた。


 ルーフは爪を、怪物の姿を見る。


「増えてやがる……?!」


 少年が形容したとおり、傷口から発現している爪の数はあからさまに増えていた。


 最初は一本だけであったものが、今見てみると四本増えていた。

 爪は細く長く、先端は巨人の針のように鋭い。


 ただ最初の一本を現した時よりも、他の足の勢いは弱々しいもののように思われた。


 ウゴウゴと蠢いている。


「……」


 四本の足は空中を撫でるばかりで、いまいち正体が掴めそうにない。


「……何してんだ、あれ?」


「なんか、動きにくそうやね」


 バイクに乗ったままの姿勢で、ミナモとルーフは怪物の様子を観察している。

 注意深く見ようとする……までもなく、ルーフは怪物の状況をすぐさま把握していた。


「もしかして……最初に出した足が引っ掛かってるんじゃねえか?」


 ルーフとミナモの肉を狙って放った。

 最初の一撃が地面、アスファルトに深々と刺さり、抜け出せないままでいるらしかった。


「相手の不足に感謝感激雨あられ、じゃの」


「うわ?!」


 ルーフが怪物の様子をみていると、いきなり右側の耳に語りかける声があった。


「ミッタ!」


 話しかけてきた、ルーフは灰色の幼女の名前を呼んでいる。


「やあやあ、ミッタじゃよ、ご主人」


 少年に名前を呼ばれた、ミッタはその体を空中にふわふわと漂わせながら、穏やかそうな笑みを彼に向けている。


「元気しておるか? ご主人よ」


「いやいや、ンなこと言ってる場合かよ?!」


 平然としているミッタに、ルーフは信じ難いものを見るかのような視線を向けている。


「っていうか、お前……さっきからいないと思ったら、どこに行ってたんだよ?」


 武器を両腕に抱えながら、ルーフはミッタに質問文を叩き付けていた。


 目をこぼれんばかりに見開いている。

 ルーフに対して、ミッタはさらりと受け流すような態度を保ち続けていた。


「もう忘れよったのか? わしはこのように、実体を持たぬ浮遊霊みたいなものじゃからの。突然姿を消すことなど、造作もないわい」


「なんつうか、都合が良いのか悪いのかよく分かんねえな?!」


 だが今はそのことについて深く考えている場合ではなかった。

 思い出を再生するよりかは、ルーフはいくらか理性的な選択を実行していた。


「とりあえず、相手が動きを止めている間に、なんか……こっち側で手を打てることは無いのか?」


 ルーフが思考を働かせようとしている。

 そのすぐ近くで、ハンドルを握りしめたままのミナモが合いの手のようなものを入れていた。


「先手必勝か。エエね、魔法使いはそのぐらい威勢が良くないと!」


「嬉しがってる場合じゃねえだろ……」


 ルーフはてっきり、ミナモに冗談を言われたものだと思っていた。

 だが、どうやら少年の予想は外れていたらしい。

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