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私のデータをバックアップして

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「怪物だ……!」


 すでに確認するまでもないことを、ルーフはあらためて言葉の上に変換している。


「怪物なんだよな……アレは?」


 そう考える根拠としては、空間からはみ出していた細長い爪が自分たちを襲おうとしているからだった。


 この世界において、人間という名前の生命体をおそう害はあまりにも数多く存在している。

 その中で、ルーフは直感的に怪物の存在を選び取っている。


 この思考ルーティーン自体が、すでにこの灰笛(はいふえ)という名の都市に毒されていることに、ルーフはまだ気づきの瞬間を迎えていない。


 どのみち、少年が自らを再認識するよりも早く、ミナモが自らの魔法の道具に新たなる命令文を発令させていた。


「せやから、まずは逃げるんやで!!」


 ルーフがそれの名前を、怪物を意味する言葉を選んでいた。

 声を背後に、ミナモは乗り込んだ魔法の道具のアクセルを握りしめている。


 ブゥルルルルン!


 銀色に輝く鉄パイプの群れ、その下でエンジンが低く唸り声をあげている。

 内蔵した燃料を燃焼し、硬い内側で爆発が起こる。


 どるんどるんと爆発の音色が重なり合い、内部から推進力が激しく排出される。


 活動力が前後に並ぶ車輪を回し、搭乗しているミナモとルーフの体を運び始めた。


 引力が腹部から後方、背中にかけて体を直線状に走る。

 

 ブゥウウン! ブゥウウウン!


 けたたましいエンジン音と共に、バイクにとてもよく似た魔法の道具が前進する。

 最初の瞬間は緩慢だった。

 しかしてすぐに持ち主の指が握りしめるアクセルに反応して、速度が瞬く間に増幅される。


 後ろ側に引っ張られる身体を支えるために、ルーフは咄嗟にミナモの体に腕を回していた。


 彼女の肉の少ない腰に腕を回す、体と体を密着させる、動作はごく自然なものでしかなかった。

 ルーフが触れている。

 その感触を頼りに、ミナモは続けて推進力を自らの道具、魔法のバイクに指示を発していた。

 

 低く唸るエンジン音、機械的な音色と共にスピードが安定感を持ち始める。


 バイクの走行が平均を保っている。

 そのタイミングを見計らって、ルーフは運転席に座るミナモに問いを投げかけている。


「それで? これに乗ってどうすんだよ?!!」


 風圧が奏でる音色にかき消されぬよう、ルーフは懸命に声を張り上げている。

 

 すぐ後ろで質問をされた、ミナモは現状語れる分だけの、おおよそすべての作戦を少年に伝えている。


「とりあえず逃げて、敵さんの様子をうかがった方がエエんとちゃう?」


「……ずいぶんとアバウトだな!!」


 何かしらの画期的な、思わず目を見張りたくなるような、そんな作戦をひとり勝手に期待していた。

 ルーフにとって、ミナモから伝えられた作戦内容は、ひどく頼りないもののように思われて仕方がなかった。


 しかしすでにバイクには搭乗してしまっている。

 ということは、その時点でルーフの行動はある程度、ミナモの意思に支配されているという見方も出来てしまう。


 ルーフは引き続き、ミナモの作戦内容を聞くことにした。


「様子をみた後は、どうするんだ?」


「ルーフ君が魔法を使って、これからこの場所に現れようとしている敵さんの弱点を潰していくんやで」


「俺が?!」


 作戦内容の主軸に自分が組み込まれている。

 そのことを理解したルーフは、しかしながら実際の行動をどうするべきか、答えを導き出せないでいる。


「それって……どうするんだよ?!」


「なあに、難しいことなんてなんもあらへんよルーフ君」


 困惑しているルーフと相対をなすかのように、ミナモの声音は落ち着きはらったものでしかなかった。


「さっき、うち守ろうとしてくれた時に、なにか道具を使いたいって思ったやろ?」


「……!」


 指摘をされた。

 ルーフはそれに沈黙のなかで再確認をさせられていた。


 怪物がこの世界に現れるよりも前、傷と呼ばれる自然現象が発生した。

 その時点、ルーフは魔法についてを考えていた。


「考えようとした、その内容をもっと具体的に! カッチリシッカリとイメージしてみるんやで!」


「ンなこといきなり言われても……?!」


「大丈夫、ダイジョーブ! ルーフ君になら出来る! なんてったって、あのカハヅ博士のお孫さんなんやからね!」


 祖父の名前を出された。

 ルーフは途端に意識を過去に戻されそうになった。


 今は特に、過去のことなど思い出している場合ではない。

 理性ではそう理解しているとはいうものの、脳みその反応は止まりそうにもなかった。


 川の水が海に流れていくように、ごく自然な現象でしかなかった。

 脳裏に再生される、祖父の姿はルーフにこう語りかけていた……。


「貰いもんの武器を、借り物の手段を使い尽くせ!」


「いきなりそんなこと言われても!!?」


 ルーフはひとりでに叫んでいる。


 少年の独り言が響く。

 しかしてその音響はあまりにも頼りなく、走るバイクの風の音にいとも容易く消滅させらている。


 どのみち答えは決まりきっているようだった。


「クソ……ッ! しゃあねえなあ……ッ!!」


 文句を言いながら、ルーフはただ自分に許された行動だけを実行しようとした。


 少年は右手をかざす。

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