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四肢切断にご興味がおありで?

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「う、動いてる?!」


 動きを見逃さなかった、ルーフが驚愕を言葉の上に大きく発している。


「生きてるのか? あれ」


 地面から十メートル離れた場所に穿たれた、巨大な傷口からはみ出ているのは、やはり規格外的に大きい鉄パイプらしき器官であった。


 先端が針のように鋭い。

 ……いや、あの大きさはもはや針というよりかは、真冬の軒先に発生するつららのような存在感があった。


 銀色のつららは傷口の中からはみ出て、動くほどに透明な空間の合間から零れ落ちそうになっている。


「何か……奥にいるのか……?」


 空間を引き裂く傷を見上げながら、そろそろ痛み始める首の筋もそこそこに、ルーフは奥にひそむ「何か」を見ようとする。


 だが、少年の観察は唐突に中断されていた。


 腕を引っ張られた。

 引力は強力で、ルーフは途端に体のバランスを崩しそうになる。


 だが倒れ切るよりも先に、ルーフの体を支える腕の感触が存在していた。


「ミナモ?!」


 ルーフは自らの体を引っ張る女の名前を叫んでいる。

 少年に名前を呼ばれた、しかしてミナモはそれに答えることをしなかった。


 彼女は黙ったままで、少年の肉の少ない腕を引っ張り続けている。


 その動きはまるで、なにか危険なものから逃れようとするほどの緊迫感があった。


「……」


 ミナモはルーフの腕を掴んだまま、深く息を吸い込んだ。

 彼女の体内に空気が満たされる。


 気管を通り抜けて、肺に空気が取り込まれる。

 雨に濡れる空気、肺に満たされた空気。


 決して清純とは呼べない、いくつかの要素を含んだ空気が彼女の体に循環する。

 空気を含んだ、血液が新鮮な熱を発生させる。


 血液が彼女の全身、指先に巡る。

 熱が生まれる、皮膚を雨が濡らした。


 光の気配がミナモの指先に発現する。

 それは魔法の気配であった。


 ミナモはどうやら魔法を使おうとしているらしかった。


 何故?

 ルーフは理由を考えようとする。


 だが少年が答えを導き出すよりも先に、ミナモの指先に魔法の結晶が発現していた。


 光の瞬き、その後にひとつの道具が現れる。


 姿を現した、それは小さな道具という訳ではなさそうであった。

 少なくとも頭上に広がる傷口よりかは小さい。


 それは一メートル半ほどのサイズがある。

 金属のパイプがいくつも複雑に重なり合い、その下に二揃いの黒く大きな車輪が地面にしっとりと触れ合っている。

 革製で作られた座席と思わしき部分。

 その先には二本のハンドルと思わしき器具が伸び、その間に円いガラスに保護された計量器らしきものが取り付けられている。


 見慣れぬ道具、だが全くの未知なる存在という訳ではなさそうであった。


「それって……」


 ルーフは目にした道具の正体を言葉にしようとする。


「バイクじゃねえか!?」


 ルーフがそう表現している。

 実際に言葉にした通りに、ルーフは目にした道具、乗り物への認識を深めている。


 どうしていきなりこの場所にバイクが現れたというのか。

 ルーフは理由を考えようとする。


 しかし考えるまでもなく、少年はこの現象に含まれる決定的な要素を再認識させられていた。


「それが……ミナモ、あんたにとっての魔法の道具になるのか?」


 腕を引っ張られたままで、痛みを訴えかけるよりも先に、ルーフはミナモに魔法についての質問をしている。


「そうやで」


 少年からの質問に、ミナモは短い言葉だけで返答をしていた。

 全てを説明し終えるよりも早くに、ミナモは発現させた魔法、バイクのように見える道具に乗り込んでいる。


「乗って!!」


 バイクに跨りながら、ミナモはルーフに向けて指示を出していた。


 ミナモに叫ばれた、声の圧力に誘導される形で、ルーフは口を開くよりも先に彼女の言うことを聞きいれている。


 バイクの座席の後ろ側、少しだけ空いているスペースに体をねじ込ませている。


 狭苦しい。

 だが文句を言っていられる場合でもなさそうだった。


 背後に少年の重さ、濃厚な気配を感じ取った。

 ミナモはその瞬間に確認を全てし終えていた。


 ハンドルに触れる。

 彼女は頭の中、心の中で自らの道具に命令を下していた。


 アクセルを握る。

 動作のいくつかを認証した、バイクが低く唸るような音をたてて作動し始めていた。


 ルーフとミナモがバイクに乗りこんでいる。

 その間に、上空の傷では彼らと同様に、現れた「モノ」が次々と変化を起こそうとしていた。


 ギャッキィィィィィンンンンッッッ!!!!


 何かが激しく、硬いものを穿つ音が鳴り響いた。


 不快な音を探ろうと、ルーフは首の向きを後ろ側にかたむける。


 振り向いた、その先では傷口から現れた巨大な鉄パイプらしきものが、その先端をさらに空間の中に伸ばされているのが見えた。


 傷口からはみ出ている、鈍い銀色をしている細さが地面に突き刺さっていた。


 艶やかな皮膚に注射針を差し入れるかのように、「それ」の器官はアスファルトを易々と砕き、その奥の地面に深く突き刺さっている。


「あ、危ね……ッ!」


 あのまま、傷口のすぐ下で待機していたら、下手をすればあの金属のような爪に脳天をかち割られていたかもしれない。


 恐怖心が、ルーフに傷の奥にひそむモノの正体を再認識させていた。 

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