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伝説を聞いた人の伝聞

こんばんは。こんにちは。おはようございます。

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

よろしければブックマークを、お願い致します!

 口を開いたのは、ミナモの方が先であった。


「あらあら、あらあらあら」


 なにかとても興味ぶかいもの、面白いものを見つけ出したかのように。

 ミナモはにやにやとした笑みを口元に浮かべながら、ルーフとミッタの様子を見つめている。


「大きな声がしたと思って、驚いて戻って来てみれば……。なんや、面白いことにふけこんでるやないの」


 右の指先を口元に添えながら、微笑みのなかでルーフの方を見ている。

 そんなミナモに対して、ルーフは慌てふためくように体を大きく動かしていた。


「ちッ?! 違う……違うってッッ?!!」


 ルーフはパッと掴んでいた指を離す。

 指が離れると、ミッタのワンピースの裾がふんわり、ゆったりと空気中にたゆたっていた。


 傍から見れば危険な場面にしか見えない。


 例えばちょっとした用事でこの場面から離れて、そうして戻ってきた、その時点での視点。

 いくらルーフという名の少年の事情を知っていたとして、幼女のスカートをめくり上げているという行為はすでに実行された後である。


「俺は別に……ッ? こいつのワンピースの下を見たかった訳じゃ……ッ?!」


 訂正をしようとしている。

 何か言い訳をしなくてはならない。

 そう思っている。 


 だが同時に、この場合には言葉を重ねれば重ねるごとに不信感が強まることも、ルーフは無意識の内に把握せずにはいられないでいた。


「おーいおいおい、イヤらしいのお」


 ただ静かに、しかして確実に狼狽の色を濃密なものにしている。

 そんな少年の隣で、ミッタという名の幼女がのんびりとした様子にて、少年の状況を言葉の上に表現していた。


「わしの衣服の裾を使って、己の不浄を拭ったっというのに。どうして、いかように他人行儀な面しか見せんではないか。わしは悲しいぞ、ご主人」


 ミッタはそのような事を言いながら、自らが身に着けているワンピースの裾を整えている。

 ルーフの唾液や鼻水、涙、その他諸々の体液に汚れている裾。

 乱れている布の形を、ミッタは手で軽くはたきながら整えている。


 白に近しく、しかし完全なる白とは言えない。

 小麦粉と砂糖の山に卵黄を一粒混ぜ込んだかのような、そんな柔らかな色合いを持っている。


 衣服はまるで現実のそれと遜色ないほどに、実体と実感を持ってそこに存在し続けていた。


「っていうか」揺らめきを見ながら、ルーフは一つ思い出すことがあった。


「お前って今、俺の魔力を使ってここに実体化、しているんだろ」


「おお、その通りじゃよ」


 ルーフが順序立てているのを、ミッタは少々大げさ気味に褒め称えている。


「よお分かっとるのお、えらいえらい、理解力が優れたご主人を持てて、わしは実に嬉しいことこの上なし、じゃよ」


 そう言いながら、ミッタはルーフの頭を「よし、よし」と撫でている。


「ちょ……おい、やめてくれよ……」


 まるで幼い子供にするかのような、そんな手つきをミッタに使われている。

 途端に、ルーフは何か気恥ずかしい気分に陥らずにはいられなかった。


 幼女が少年の頭を撫でる、そして彼が彼女の行動を静かに拒絶している。


 その様子をみたミナモが、わざわざ見るまでもなく彼らの安否を確認していた。


「まあ、元気そうならなんでもエエけど……」


 微笑みを口元に滲ませながら、ミナモは手元にある容器の蓋に触れている。


「あんまり大きな声出すと、ご近所迷惑で怒られるかもしれへんよ?」


「それは、すまない……」


 ミナモからの柔らかな叱責に、ルーフは定型文的な謝罪文だけを口にしている。

 とりあえずの謝罪文の後に、ルーフはふと気付かされることがあった。


「あ、あれ? ミナモ、服を着ているが……?」


 ルーフが指摘をしている。

 少年が自身の視覚に信頼をおいているのならば、ミナモは下着姿ではなく、簡単な衣服を身にまとっていた。


「あらあら、今更になって気付いたのね」


 桃色を基調としたパステルカラーの布地は、裾と袖にゆったりとした余裕を持たせている。

 長袖の下に、下半身には柔らかく伸縮の効きそうな布地で織られた長ズボンを履いている。


「いややわー、ルーフ君ったら、やっぱりあなたは妹さんみたいな……小さな女の子にしか性的興奮を覚えない……」


「違う、断じて違うッ!」


 ミナモがとんでもない予想をしているのに、ルーフは必死になって否定をしていた。


「俺はただ……! 顔を拭こうとして……ッ!」


 弁明をしようとしている。

 しかしながら、当人であるはずのミッタは、いつのまにやらこの話題とは別のことを考えているようであった。


「それはそれとして、お前さんはどうして服を着ておるのじゃ?」


 慌てふためいている、ルーフとは相対を成すかのように、ミッタは平坦な様子でミナモの姿を見ている。


 幼女に問いかけられた。

 ミナモは、なんてこともなさそうに事の詳細を語っている。


「それはもちろん、これからお出かけをしなくちゃあかんから、わざわざ服を着たのよ」


 ミナモは笑顔のままで、幼女と少年にこれからの行動を語っている。


「このままだとルーフ君と、……もしかしたら、ミッタちゃんの体はモアさんの魔力に蝕まれて、腐って落ちちゃうかもしれへんからね!」

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