夢と希望に溢れた違和感たち
こんばんは。こんにちは。おはようございます。
ご覧になってくださり、ありがとうございます。
ブックマーク、ご感想、ポイント評価、心から感謝いたします!
不満な点をピックアップしろと言われても、今更そのような作業を求められても……。
ルーフはまずその要求自体に強く疑問を抱かずにはいられないでいる。
だが、こんな所で無駄につまづいていても仕方ないと、ルーフは懸命に脳味噌を働かせている。
「そうだな……えーっと、……ムズムズするかんじがある……かな?」
「ムズムズ?」
ルーフが口にした感想に、ミナモは実に興味深そうに耳をかたむけている。
頭部に生えている彼女の聴覚器官。ノーマルな人間のそれでは無く、動物じみた、狸のそれによく似た聴覚器官。
黒いラインが目立つふわふわの体毛に包まれた、丸っこい形の耳が真っ直ぐ自分の方にかたむけられている。
その状況に負けじと、ルーフは謎の対抗心を胸の内にかすかにキラキラときらめかせている。
「そう……なんだ。なんつうの? ずっと正座をすると足がしびれるだろ」
「うんうん」
ルーフが考えようとしている例え話に、ミナモは少しだけ張り切った様子で聞き耳をたてている。
ミッタは、今のところは唇を閉じたままでいた。
「血行が留まって、それで神経がビリビリとする感じ……。……そうだ、あの感じがずっと右足にへばり付いているんだよ」
「なるほど、なるほど」
ルーフが語っている感想を、ミナモはうなずきのなかで聞き入れていた。
相手が話しをきちんと聞いている。
それを予感させる動作があるだけで、ルーフは謎に緊張感を覚えずにはいられないでいた。
「そうだ……それで昨日、この家で眠ろうとしたときも、外したはずの義足のあたりがピリピリと痛んで、うまく眠れなかったんだよ……」
撃ち明かした事実に、わざとらしく驚いて見せているのはミッタの声音であった。
「おお! それで、まるで水に三十分以上漬け込んだ麩菓子のように、腑抜けた声しか出しておらんかったのか。なあ、ご主人よ」
かなり傷つく形容をされたが、しかしてルーフはあえてそこに追及をすることをしなかった。
それよりも、伝えねばならない事柄が、急速に目の前に開けて仕方がなかったのである。
「義足をつけている間も痛ェし、外した後も痛ェから、もう……ロクに眠れなかったんだっつうの」
ルーフが事実を話していると、ミナモは同情をするかのようなうなずきを繰り返していた。
「そうかー、それは難儀やったなあ」
ミナモの方は、ルーフに向けてあえて厳しい言葉を向けることはしないようである。
とはいえ、彼女の方でもルーフの抱く不安を、真剣に取り合うつもりもなさそうであった。
「全然、真剣に聞いてくれそうにないっすね……」
「あらー? そんなことは無いわよー?」
ルーフから指摘をされた、ミナモは少しだけ慌てた様子をみせながら、訂正を加えていた。
「その症状は、たぶん……体内の魔力と義足に残っているモアさんの魔力が、たがいに反発しあって、肉体をずきずきと傷つけているから起きている症状やね」
「そんなん、大丈夫なのか……?」
「うん、あまり大丈夫とは言えへんね」
少年が抱いた不安をミナモはあまりにも、あまりにもあっさりと認証しているだけであった。
「たぶんやけど……そのままずっと放置してると、そのうち、皮がアレルギー反応みたいにグジュグジュになると思うで。……っていうか、すでになりつつあるんとちゃう?」
ミナモは軽々しくルーフの不調具合を予想している。
丁度良しと言わんばかりに、彼女は少年の右足の付け根の辺りをまさぐり始めていた。
「あーほらほら、ここ見える? 表皮が荒れているのを、このまま放置すると……」
「放置すると……?」
ルーフが集中力をかたむけて聞き入っている。
それを視界の上に認めながら、ミナモは明るめの声音で事実を報告した。
「炎症が肉を崩して、残っている健康な骨まで腐らせるかもねー」
「ひ、ひぃぃぃー??!」
かなりライトな様子で症状を予測している。
ミナモの表情と双極を成すかのように、ルーフの顔色は見る見るうちに青ざめていった。
「ヤバい……やべぇじゃねえかッ! 早く……早くッ! どうにかしねぇと……?!」
暗澹とした未来だけを一方的に告げられた。
まるで重病の末に医者から余命宣告を告げられたかのように、ルーフの思考は事実においてのみ圧迫されつつあった。
どうにかしなければならない。
だが、どうすることもできそうにない。
たまらずにあたふたと、早急にこの場所からの移動をしようとしている。
そんなルーフに、ミナモはゆったりとした声音で語りかけるだけであった。
「そんなに慌てんでも、どのみちここにある分の備品だけじゃ、その症状は軽減することは難しいんやって」
具体的な上場を把握したうえで、ミナモはどうやら今後の行動についてを患者、つまりはルーフに説明しようとしているらしかった。
「ルーフ君とモアさん、それぞれの魔力がぶつからないように、間に遮断する石を挟めばエエはず。絶縁体みたいな素材が必要になるんよ」
「絶縁体……。ゴムとかガラスとか……とか?」
慌てふためいて、あやふやになってしまっている。
ルーフはミナモの言葉を、それでもどこか冷静っぽく受け止める余裕を、無意識のなかで認めていた。




