朝の目覚めも見下げ果てた
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いかにも意味深な気配を言葉に混ぜ込んでいる。
ミナモの様子に、ルーフは銃を抱えながら不安を露わにしていた。
「あの……それで? 義足の様子はどうなってんだよ」
魔法の銃、まだ弾のこもっていない空のそれを腕の中に抱えながら、ルーフは真っ直ぐミナモの方を見つめている。
ルーフの、琥珀の左目と瑠璃色の右目に見つめられている。
視線の先にて、ミナモはしっかりと少年の瞳を見つめ返していた。
「ご心配には及ばず、義足はしっかりとルーフ君の体に同調をしているようやで」
ルーフに問いかけられた、ミナモは彼の考えている不安を払拭するための言葉を用意している。
「自分でも感じへん? 自分の肉体、魔力が義足と同調しようとしている、その働きが」
「……ンなこと言われてもなあ……。よく分かんねえよ……」
ミナモに問いかけられた内容に対して、ルーフはどうにも明確な答えを返せないでいる。
黙りこくって考える。モアという名の、古城の主である少女からもたらされた、やはり魔法の力を借りて動く義足を身に着けている。
与えられた、そしてそれを使用した。
使い始めたばかりの時分では、ただ勢いのままに異物感を受け流すことが出来ていた。
未知の体験、それを驚きとすることで、違和感を誤魔化そうとしていた。
それは一種の逃避であった、そのやり方にはすぐに限界が訪れていた。
最初は戸惑いがちな感覚であった、義足の存在は割かしすぐに異物感を伴ってルーフの肉体にのしかかっていた。
「ここで嘘を申しても仕方あるまい、正直な感想を申してみよ、ご主人」
嘘の感情を読み取ったのか、ミッタが少し呆れたように小さく溜め息をこぼしている。
「そう……だな……」
灰色の幼女の、呼吸の音色を聞きながら、ルーフは少しだけ勇気を出して本音を語ろうとした。
「ちょっと……いや、かなり? 異物感は否めないってかんじ、だな」
ルーフの感想を聞いた、ミナモが驚くようなボディランゲージを作ってみせている。
「なんと、それはあかんね」
右と左の手のひらをパッと開いて、驚きの意味を持ったポージングをしている。
ルーフにしてみれば、その中心にある剥き出しの胸部、描き出された谷間にしか視線が定まらなかった。
ルーフが凝視している。
ミナモがその視線に気付いているのか、いないのか、少年にはあずかり知らぬ事柄であった。
「でも大丈夫や、モーマンタイ、ご心配には及ばんで」
そんな眼球の焦点などまるでお構いなしといった様子のままで、ミナモはここぞと言わんばかりの提案を少年に伝えていた。
「うん、先々について、この先その義足といっしょに暮らしていくのが、不安で仕方がないってかんじなんやね、そうなんやね」
ミナモはそんな予想を作りながら、またしても両の手をルーフの肩に置いている。
「あ、ああ……。そう、なるんだろうな……?」
そこはかとなく威圧的な雰囲気も感じなくはない。
ミナモの瞳を見つめながら、ルーフはどうにもそこから目線を外せないでいる。
まるでこれから、彼女の方から何かしらの面倒くさそうな提案がなされること。
そのことをあらかじめ予測するような、そんな心持ちがルーフの胸の中にポツリ、と灯っている。
「うんうん、そうやね、そうやね」
ルーフの曖昧でいまいち要領を得ない返事。
ミナモはいかにもポジティブシンキングといった様子で、とりあえず自分にとって都合の良さそうな解釈だけを選んでいた。
「そうなんやよ、義足とルーフ君のシンクロ率は、今のところ……お世辞にも上々とは言えそうに無いんよ」
謎に申し訳なさそうにしている。
ミナモは少年の状態について、今のところの自らの見解をスラスラと語り始めていた。
「どうしても、もともとの持ち主が持っていた魔力含有率と、ルーフ君のド素人な魔力回路じゃ、スペック的に差がついちゃうのは仕方のないことやと思うんよ」
「へ、へえ……?」
同調を示されたと思えば、次の瞬間には何ごとやら、専門的な問題点を一方的に突きつけられている。
許容範囲外なミナモのペースに、ルーフはどうにかして追いつこうとするのに必死であった。
「あ、あれなのか? 最新機のソフトを型の古い機体で起動させようとしても、スペック不足でどうにもならないって。……そんな感じなのか……?」
「うん、よお分からへんけど。そんなことより!」
ルーフなりに一生懸命考えだしたイメージ図は、ミナモの一方的な問いかけの前に、いとも容易く押し潰されてしまっていた。
「……なんだよ?」
自分の意見をほぼ無視されてしまった。
そのことにルーフが不満を抱いている。
だがミナモの方は少年の不機嫌など、まるでお構いなしといった様子であった。
「ルーフ君的には何かあらへんの?」
「何かって、何がだよ」
「ほら、あれやって、義足を使う時の違和感的な? そういう不満事みたいの」
「不満事……?」
今更そのような事を問いかけられても。
何から説明をするべきなのだろうか、ルーフは改めて自分の状況を整理する必要性に駆られていた。
「そう……だな」
迷いながらも、ルーフが語る。




