女学生に馬鹿にされそう
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どうしてそれを知っているのだろうか?
ルーフはミッタに問いかけようとした。
だが、頭のなかに思い付いたはずの質問文は、頭のなかに再生された映像に押し潰されていった。
「…………どうして」
頭のなかに再生されようとしている、思い出の質量にルーフは思考を圧迫されている。
ミッタが口にした言葉が、ルーフの頭のなか、頭蓋骨の内側で別の人間の声に変換される。
思い出された、声は祖父のものだった。
カハヅ博士と呼ばれていた、祖父は魔導の探求者であった。
日々研究に明け暮れている人だった。
祖父は常に何かを探し求めるような眼光を放っていた。
いつだって、どんなときだって、物事の真実を追い求めていた。
その欲求の手は、時としてこの世界の常識すらも疑おうとしていた。
そんな祖父が、いつの日だったか、ルーフに向けて問いかけていた。
…………。
「呪いだよ、ルーフ。人間が、人間と呼ばれ、それを自覚する生命体、それらの全ての事柄は、呪いによって産み出されているんだ」
遠い、灰笛とは異なる、ルーフが幼い時分を妹と共にすごした故郷の土地。
静かな家のなか、そこで祖父はルーフと妹のメイに向けて、呪いについてを語っていた。
「君の額に浮かぶそれも呪いであるとするのなら、人の業は当人だけに限定される訳じゃない、……ってことになるな」
何のことを話しているのだろうか?
ルーフは疑問を抱いていた。
彼が話したことについての、内容を深く掘り下げようとしていた。
だがそれは上手くできなかった。
…………。
「……くん?」
現実に引き戻されつつある。
ルーフの頭の中に、女の声が響いてきている。
聞こえてくる、それらが少年の脳内にて、空想の音響と奇妙に混ざりあう。
「ルーフ君!」
「は、はいッ?!」
名前を大声で呼ばれた。
鼓膜にガンガンと反響する、音の質量にルーフの思い出はかき消されていった。
「どうしたん、またボーっとしちゃって?」
霧散した想像の世界のあと、残された現実空間のなか。
目の前に差し出されている、ティーカップからの熱源にルーフはあたふたと戸惑っている。
ルーフがポカンとしていると、ミッタが彼の耳元に囁きかけるようにしていた。
「どうしたのじゃ? ご主人さまよ。奥方が用意した茶を、飲まんのか?」
ミッタにそう示された通りに、ルーフの目の前にはアツアツの紅茶が用意されていた。
「あ、ああ……えっと……?」
空想のなかでハッキリとした答えを見つけられないままで、ルーフはただ差しだされたティーカップを右の手に受け取っていた。
カップの取っ手に指を絡ませ、一杯分の紅茶を内蔵した重さを右手の中に認めている。
指の震えに合わせて、カップの中身はユラユラと揺らめいている。
紅色をした小さな揺らめき。
揺れるそこから、白い湯気が現れては空気の中に溶けて消えていく。
湯気に含まれる香りは、ルーフにそれを飲料として摂取する、単純だが確かな欲望を呼び覚ましていた。
「いただきます……」
必要最低限の礼として、ルーフはミナモに向けて食前の挨拶を小さく呟く。
相手にその言葉がきちんと聞こえていたかどうか、確かめる術もなく、ルーフは喉の奥に飲料を受け入れている。
「熱つつッ……!」
ぼんやりとしていた手前、熱の量に対応できずに火傷を起こしそうになっている。
熱の多さが瞬間的に強烈な影響をもたらそうとした。
だがそれ以上に、ルーフの味覚に紅茶の風味が、喜ばしき情報として脳に伝達されていた。
「美味い……」
深く、濃厚な香りが味となり、己の肉体に取り入れるべき対象としての確信を深めさせている。
「そう、それは良かったわ」
ルーフが呟いた感想を、ミナモは微笑みのなかで受け取っていた。
「それね? お城で採れた植物から作ったお茶なんよ」
「お城?」
ミナモが話している、場所についてをルーフは頭の中で検索している。
「それって……古城のことか?」
答えと思わしき場所を、ルーフはさして時間をかけることなく探し当てていた。
「うん、そうそう」
ルーフが古城のことについて話しているのを、ミナモはにこやかな様子で同意していた。
「ほら、あそこっていろんな植物が生えているやろ?」
「……まあ、確かに、鬱蒼としてはいるな」
ほんの少し前、古城の主じきじきに招かれた。
最上階と思わしき空間では、大量の植物が群生をしていた。
「でもあれって、あいつの趣味じゃなかったか……?」
そこはモアという名前を持つ少女の、プライベートルームと呼ぶべき空間であった。
「そそ、あそこには本当にいろんな植物が生えとってね」
ルーフが記憶を検索している。
そのすぐ近くで、ミナモの方でも同じと思わしき空間を想像しているようであった。
「黄色くてちーちゃな、可愛らしいお花が咲く植物。このお茶は、その植物から採れるものなんよ」
説明をしながら、ミナモの方でもティーカップの中身に視線を落としている。
彼女の深い茶色をした瞳が、紅色の揺らめきをとらえていた。
「美味しいやろ? 落ち着くやろ?」
「…………」
ルーフが黙っていると、沈黙を埋め合わせるようにミッタが受け答えをしていた。
「まあ、悪くないの」
「ああ、よかったわ」
彼女たちのやりとりを、ルーフはもうひとくち、茶を口に含みながら聞いていた。




