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プレイングはキミしだい

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 これ以上は、あまり話すべき内容ではないと、ミナモは話題を逸らそうとしている。


「そんなことより、まずはお茶でも飲まへん?」


 ミナモは胸の前でポンッと手を合わせ、トレーの上にあるティーカップに手を伸ばしている。


「ルーフ君は、お茶の中になにか入れたりする?」


「あ、え? あー……俺は、その……」


 せっかく飲むのならミルクティーが飲みたい。

 と、ルーフの内の無意識に近しい声が、いまいち緊張感の無い要求をしている。


 単純であるがゆえに正しさに近いと思われる、希望はしかしてルーフ自身の手によって握り潰されていた。


「……俺は! 今はそんなことどうでもよくてだな!」


「どうでもいいとはなんじゃ、この無礼者が」


 ルーフが追及の手を伸ばそうとした。

 そのタイミングにて、ミッタがルーフの耳元にフウッと、息を吹きかけていた。


「うひぃぃぃぃいいッッ!!?」


 左耳に訪れた不快感の吐息に、ルーフの全身の毛穴が縮小していた。

 鳥肌をポツポツと作っている、ルーフに向けてミッタが叱責の言葉を叩き付けている。


「せっかく茶を馳走になるというのに、飲む前からそんなくだらない話にうつつをぬかしおって。せっかくのハチミツ入り紅茶が冷めてしまうではないか!」


「お前……! ただ茶ァ飲みたいだけじゃねえか?!」


「当り前であろう! 目の前に差し出された熱い茶と、おぬしの下らぬ呪いの話、どっちの方が重要か、考えるまでもないじゃろう」


 ミッタはぷりぷりと怒っている。


 そんな幼女に向けて、ミナモが柔らかくたしなめるような声音を使っていた。


「まあまあミッタちゃん、甘ーいお茶でも飲んでリラックス、リラックス!」


 言いながら、ミナモは湯気の立つティーカップをミッタのもとに差し出している。

 そうしている所で、ミナモはふと目を少し見開いていた。


「あ、でも実体がないから、カップが掴めないんやないかしら?」


「おう、その心配にはおよばぬよ」


 ミナモが気にかけていることを、ミッタはなんてこともなさそうに受け答えていた。


「ちょうど良い。ご主人の額の呪いから、茶を一服できる分の魔力を徴収せしめることにするかの」


「ちょ、おい……?」


 ミッタの発したわがままに、ルーフは不満をこぼすよりも先に彼女の手のひらをその身に受け止めていた。


「せいやっ!」


 ミッタは右の手のひらをめいっぱい開く。

 そして展開したそれを、ルーフの額めがけて真っ直ぐ叩き付けていた。


 ぶつかる!

 と思った、ルーフはミッタの手のひらだけが触れる感触を、ひんやりと感じていた。


 指先からその存在をあやふやなものにしている。

 ミッタの指先は、まるで冬の風のようにルーフの肌を冷やすばかりであった。


「冷たい……」


 ルーフが感触を意味する言葉を呟いている。

 だが覚えたはずの感触は、次の瞬間にはまるで異なる状態へと変化していた。


「あ、あつ、熱う……ッ?!」


 ミッタの氷のように透き通っている指先。

 そこが触れている場所に、まるで熱湯を注ぎ入れたかのような熱の感触が発現していた。


 ルーフはとっさに身を後退させた。

 後ずさった、その後に見えたのはミッタの指先であった。


 白く細く、楓の葉のように小さい手の平。

 右側の五本、それがきちんと見えている。その事実に、ルーフはすぐさま事態の変化を読み取っていた。


「透き通っていない……透明じゃなくなった……?」


「その通り。これで、ようやく茶を一服楽しむことができる」


 ルーフが驚いている先で、ミッタはティーカップをミナモから受け取っている。

 取っ手を指で挟むように持ち上げ、内側に満たされた紅色のあたたかな飲料をひとくち、口に含む。


 ゴクリ、細い首元が飲み物を受け入れ、かすかに上下する。


「ふう、美味じゃのう」


 文字通り一服ついた。

 タイミングを見計らうように、ルーフはまず一つずつ状況が意味するところを解明しようとした。


「えっと、とりあえず……さっきのは……?」


「ああ、あれはご主人、おぬしの魔力をその額の呪いから直接吸収した。ただそれだけの事じゃよ」


 ミッタはそう説明しながら、もう一度ティーカップの縁に唇を寄せ、紅茶を喉の奥に流し込んでいる。

 もう一度ひとくち、紅茶飲み込んだ、その後でミッタは続けての解説をしていた。


「さて、次は何について話すべきだったかの?」


「おいおい、しっかりしてくれよ」


 まず最初にとぼけるような素振りを作っている。

 ミッタはルーフが戸惑っている様子を、さながら茶菓子の代わりに嗜んでいるようであった。


「そうじゃった、そうじゃった、右目についてのことじゃな」


 紅茶によって湿らされたミッタの口元が、饒舌そうに少年の肉体についてを語っていた。


「とはいえ、今更語る必要も無いと思うがの。その左目も、おぬしの額と同じく呪いの結果によるものじゃよ」


「呪い……また呪いか……」


「そうじゃよ、全てのモノは呪いにより始まり、呪いに向けて帰結する。……と言ったのは、どこの有識者じゃったかの」


「……知らねえよ、誰だよ」


 ルーフは最初の数秒間だけ、知らない素振りを作ろうとした。

 しかし、それは上手くいかなかった。

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