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特別なことを話そうよ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、とても嬉しいです!

誤字脱字報告も助かります。

「そもそも、ルーフ君、キミは勃起の本来の意味を考えたことはあるかしら」


「……あるわけねぇだろ。むしろ、あった方が……なんつうか、その……おかしくないか?」


 質問された事に対して、ルーフはどうにも曖昧な疑問形だけしか返せないでいる。


 それは単純に、少女からに対する問いかけに値する解答を用意することが出来なかったこと。

 だがそれ以上に、この場面に展開されようしている議題に対する、拒絶感のようなものがルーフの言語機能を鈍らせていた。


 言葉をうまく選べないでいる。

 そんなルーフに対して、モアはなめらかに容赦なく意見を投げ続けていた。


「勃起、何かがむくむくと力強く起きようとしている。その状態は、現代において男性器の反応に使用されることが多いわ」


「それは……そのぐらいの事なら、俺だって知ってるっての……」


 既知であるか無知であるか。

 その対極は、しかして今のルーフにはあまり意味を為さなかった。


 彼にとっての問題は、その意味をよりにもよってモアに、彼女の口から語られていることであった。


「それで、その……()()が、俺のこれからにどう関係してくるってんだよ?」


 これ以上不必要に少女に語らせてはならない。

 意味不明に落とされて、なるものか。


 状況に貶められたルーフは、遅ればせながらの反旗を翻そうとした。


「この……もらったばかりの義足をミナモ、ここの奥さんに見せればいいのか?」


 ルーフは脱衣所の床に尻を密着させたままの格好で、片足立ちのモアにこれからの行動についてを問いかけている。


「どうして、奥さんにそんなことをしなくちゃいけないんだ?」


 簡単な疑問だけを伝えている。


 それが本来この場面で気にすべき事柄の主たる一つであったこと。

 口を動かしながら、ルーフは舌の上で自らの思考に、ほんの少しの整理をつけている。


「うーん、そうねえ……」


 ルーフにしてみれば単純な疑問でしかなかった。

 だが、モアは問われた内容に対し、どこか意味深な沈黙を引き延ばしている。


「……なんだよ?」


 予想していた以上に少女が困惑しているのに対し、ルーフは彼女の感情に同調しそうになる心ゆきを静かに制御していた。


「なんか、問題でもあったか?」


「有るか無しでいったら、いくつかあるわね」


 モアはルーフにそう説明している。

 説明しながら、彼女は手にしていた衣服を頭から、ずぽっと被っている。


 着替え、それはルーフの身に着けている上下に別れたタイプのそれでは無く、布が一つで繋がっているタイプのものであった。


 何処か赤みがかっている、限りなく黒に近しい色合いのワンピースを着用している。


 その動作のなかで、布に包まれたままの状態にて、モアはもぞもぞと唇を動かしていた。


「まず、あたしの義足を管理しているのは、ミナモさんってわけじゃないわ」


「そうなのか?」


 今の今までなんとなく仮定していた事柄、それをあっけなく否定された。


 ルーフは脱衣所の冷たい床に座り込みながら、腕の中にある義足に視線を落としている。


 視界を蒸気が立ち込める天井付近から、冷たい空気が沈む床の上に落とし込む。


 そうすると必然的に、ルーフの視界の中心には、モアから譲られたばかりの義足に定められていた。


 モアの、彼女の全体を覆いつくしている表面。

 彼女の他のボディ部分と、同様の素材が使用されているのだろう。


 人間のそれと遜色無い表面。

 皮膚という名称を持つに、十分な機能をはたしそうである。


 生皮に包まれている、渡された義足の断絶部分からは、血液と思わしき液体が垂れてきている。


 ポタ……ポタ……。

 ポタ……ポタ……。


 おそらくは皮膚の部分に、これまた人間のそれと同様、血液を循環させるための血管が張り巡らされているのだろう。


 はて? 人形に血液が、はたして必要なのであるか?


 ルーフは血の滴る義足を抱えながら、胸のうちに新たに生じつつある疑問を奥歯で噛み締めている。


 次から次へと、飽くことなく、湧き水のようにこんこんと生まれてくる少年の疑問


 それらに関して、モアはどうやらその表情のみでいくつかの察知をしていたらしい。


「どう見ても普通の義足じゃないって、そんなことを言いたそうね」


 ワンピースの首回りから、モアの頭頂部がにょっきりと生えてきている。


 黒地のワンピースに着替え終えた。

 モアは服のシワを整えながら、横目でチラリチラリとルーフの様子をうかがっている。


「それもそうよ、なんてったってあたしのボディは、古城のほこる魔術式、魔技術の最先端をゆく、いわば魔術師たちの知識の結晶と呼べる逸品なんだから!」


「……いや、そんな、自信満々に伝えられてもな……」


 どう反応を返したらよいものか。


 どうすれば、相手に出来るだけ不快感を与えぬやり取りが交わせるのか。


 ルーフは考えようとした。

 しかし、考えるまでもなく、納得のいく答えが作成できないことは、他でもないルーフ自身が知っていた。


 しかし会話劇の順番は今、自分の体に向けられている。


 隙間を一ミリも逃そうとしない沈黙の気配。


「……なあ」


 そのなかで、ルーフはひとつ、何気なく気にした疑問を言葉にしようとした。

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