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さようならば肉を焦がす

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、とても感謝です!

 モアからの指摘に、ルーフは割かし冷静そうな心持ちにて、反応のようなものを示していた。


「そう……なんだろうな……」


「あら、いやに素直じゃない」


 モアはルーフの様子に、少しだけ意外そうな声音を発している。


 少し音程を高くした声がする方に、ルーフはおもむろに視線を向けている。


 そこにはモアの白い、なめらかな体が確認できた。


 服はまだ着用していない、上から下まで生の柔らかい表面が露になったままである。


 バスタオルで髪をいくらか拭いた。


 明るい色合いを持つ、長い金髪はまだまだ大量に水分を含んでいる。


 水の重さにしっとりと垂れ下がる。

 濡れそぼつ毛先をやり過ごしながら、モアは脱衣所に備え付けられている棚の上に腕を伸ばしている。


「ふぅ、ボディを濡れたまま放置すると、あの人に怒られちゃうのよね」


 モアはそのようなことをぼやいている。

 ぼやきながら、その腕は棚の上に置かれていた下着へと伸ばされていた。


 モアが白い色の、シンプルな作りのブラジャーを身に付けようとしている。


 細いレースがあしらわれている、ブラジャーのひもを肉の少なそうな肩にひっかけている。


 そこまでの動作を見ていたところで、ルーフは思い出したように、慌てて視線をそらしていた。


「俺がお前を襲わないって、よく信じられるな」


 自らの視線をひとり、ごまかすようにしている。


 ルーフの様子、その表情をモアは直接は確認していなかった。


 あえて目で確認するまでもなく、少女は少年の動向を把握しているらしかった。


「えー? だってルーフ君、あなた、あたしに全然欲情しないんでしょ」


 モアはブラジャーのホックを、背中で器用に留めている。


 下着に内蔵されているワイヤーが、少女の胸元に与えられている二つの柔らかさをよせ上げている。


 強調される陰影に、ルーフの肉体は現状素直な反応を現そうとしていた。


「据え膳を無視できるような、そんな気合い入れたヤツってわけじゃねえけどな」


 ルーフは自らの下半身に熱が集まるのを、無視することに意識のほとんどを割くようにしていた。


 我慢をする。

 それは目の前にいる、右足を欠落させたモアに対する礼儀、……という訳でもなかった。


「君の情欲が向かう相手はただ一人、一人だけの魔女に限定されている」


 ブラジャーを身に付け、モアは棚の上に置かれたパンツに手を伸ばしている。


 先に上から服を着るタイプなのか……。

 と、ルーフが少女に対する、新たなる発見をしている。


 そんな余所事を考える。

 そうすることで、ルーフはモアからの指摘を少しでも多く、やり過ごそうと試みているつもりであった。


 試みに期待する。

 だが少年の希望は、この場面では成就されることはなかった。


「君は、妹を心の底の底から愛している」


 ブラジャーと類似した白い、繊細そうなレースが縫い付けられているパンツ。


 女性用のそれを履き終えた。

 ルーフは少女の後ろ姿に、三度(みたび)視線を向けている。


 必要最低限の衣服をようやく、……ようやく! 身に付けてくれた。

 きっとそこには、ある程度の安心感が期待できるのではないか。


 ルーフはそう期待した。

 しかし、少年の抱いた期待は現状、残念ながら外れることになった。


「カン違いしちゃいけないわ、ルーフ君」


 パンツに内蔵されているゴムを、肌に合わせて直線を描くように指で整えている。

 

「まったくの無反応、いわゆるところの不能と呼ばれる疾患について話している訳じゃないのよ」


 白アスパラガスのような指で、下着の定位置を固定している。

 動作の一つ一つを、ルーフはすでに視界のなかで安定的に確認することが出来ていた。


「ほら、そうやって下着姿のあたしに対して、あなたの下半身はちゃんと勃起をしているもの」


「な、?」


 あまりにもあっさりとバラされてしまった。

 隠したいこと、隠すべきこと、隠さなくてはならないことをバラされてしまった。


「な……ッ。なななな……ッッ!」


 まるで今の今まで、少女に指摘されたその事実に気付いていなかったかのようにしている。

 だがルーフは、他でもない自分自身の肉体の反応を、他の誰よりも自覚しているにすぎなかった。


「おまッ……女がそんな、勃起だのなんだの……軽々しく口にするんじゃねえよ?!」


 ルーフは叫ぶ。

 右肩足のほとんどを欠落させている、片足の少女に向かって、声高に主張をしていた。


「もう、そんな怒ることないじゃない」


 体だけではなく、声までも大きく盛り上げようとしている。

 そんな少年に対して、モアはあくまでも平静そうな様子を崩そうとしなかった。


「そもそもよ? ルーフ君。勃起について語ることは、なにも恥ずかしくないことなのよ!」


 脱衣所の棚の上、そこにおかれていた着替えを右手に掴む。


 服を掴んだままで、モアはそれを戦旗のように大きく、わざとらしくひるがえしている。


「むしろ、むしろよ! あたしのようなうら若き乙女こそ、勃起について高らかに! 堂々と! 議論を交わすべきだと、そう思うのよ、あたしは」


 謎の倒置法を使いながら、モアはルーフに言葉の使いかたに関する主義主張を語っている。

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