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素直なミスターご飯を食べよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「えっー……と……」


 少年が、声を発しながら思考をくるり、と巡らせている。


「その……あんたは、エミルと結婚しているんだよな?」


「そうやで」


「って、言うことは……あんたはアゲハ夫人って呼ぶべきなんだろうな」


 ルーフという名の少年が、目の前の女性に向けて提案のようなものをしている。

 それを聞いた、女性はおかしそうに微笑んでいた。


「今まで生きてきた人生で、ウチのことをそないな風に呼ぶ人、片腕だけで数えきれるくらいしかおらへんかったなあ」


 少年の提案を否定うする意味の、そんな過去語りをしている。


 少し昔の事を思い出すようにしている。

 女性に対して、ルーフは困惑したように視線を泳がせていた。


「そんなこと言われても……ミナモ……さんって呼ぶのも、なんつうか、その……」


 ルーフは女性の名前を口にしながら、しかしてどうにも締りの効かない語調をダラリダラリと舌の上に並べている。


「なあに?」


 語調を濁している少年に対し、ミナモは面白いもの、興味深いものを見つけたかのような視線を送っている。


「うら若き人妻を目の前にして、少年のオスの部分がむくむくと目を覚まそうとしているのかしら?」


「ンな訳ねえだろうが!」


 ミナモの冗談に対して、ルーフは真剣な面持ちで拒絶のような否定をしていた。


「冗談やって」


 真剣そうに否定をしている、ルーフの様子をミナモは面白そうに、可笑しそうに眺めていた。


「まあ、冗談はそこそこにしておいて、さっさと作業を終わらせな」


「誰のせいで、こんな風になっているって……」


 冗談を吹っ掛けられながら、それをサラリと流されそうになっている。

 ミナモの語調に流されまいと、ルーフは抵抗を試みようとしている。


 だが、少年の言葉は実際に喉の奥を震動さえることなく、ミナモの指の動きによって遮られていた。


「う……」


 右の足、が……あるべき場所にミナモの指が触れている。


 ルーフの右足。

 正確な表現をすると、そこには少年の肉と骨と皮によって構成された、歩行のための器官は既に存在していなかった。


 怪物に喰い千切られた。

 ルーフの右足は数日前に、完全にこの世界から消失してしまっていた。


 であれば、ミナモの指が触れているのは何であるか。

 その答えもまた、ルーフの右足が怪物に喰われた事と同様、単純な事実でしかない。


「うーん、見れば見るほど、見事なまでに精巧な作りの義足やねえ」


 ルーフの()()にあたる部分、そこに備え付けられている道具に触れている。

 ミナモが、心の底から感心するような声音で、ルーフの義足についての自己評価を語っていた。


「さすが、古城における伝説とも言われる造形師、アゲハが作った義体やね」


「……あんたの名前もアゲハだろ」


「ああ、うん、そうやったね」


 ルーフからのツッコミなどまるで気にかけずに、ミナモは彼の身に着けている義足に、引き続き注目をし続けていた。


「この質感、揺れた指先、指紋の溝の一つ一つに吸い付くような質感。これは……生き物の骨を砕いて素材に混ぜ込んであるかもしれへんね」


「いい……そんな気持ち悪い素材があるのか?」


 ルーフが嫌悪感を覚えている。

 しかして少年の感情などお構いなしに、ミナモは何処か興奮のような気配を滲ませたままで語りを続けていた。


「技法としてはそんなに珍しいことでもあらへんよ? 陶器とかに、家畜の骨を混ぜて焼いて造ったものもあるんやし」


 例え話をしている。

 だがそれはルーフが抱いた嫌悪を払拭するためというよりかは、この先の話をスムーズに進めるために、ただ作業的に他人の感情を片づけている。

 その様な、ある種の冷たさとぞんざいさを感じさせる語調が聞き取れそうであった。


「でも、ここまで人間の皮膚に親和を持たせる素材が、どうしたら手に入るのかしらねえ?」


「そんなこと、俺に聞かれても……」


 問いかけるような口調に、ルーフが素直な心持ちで反応をしている。


「うん、分からないことをちゃんと分からないって言う。君のそういう素直なところ、ウチけっこー気に入っとるで」


「……そりゃどうも……」


 それこそどうにも反応に困りそうな。

 そんな言葉を与えられた、ルーフが言い様のない困惑を覚えている。


 そしてやはり、ルーフの困惑などお構いなしといった様子のままで、ミナモは義足に関するレビューを続行させている。


「この現代鉄の国で手に入れられる材料……かあ」


 鉄の国、というのは彼らが暮らしている土地の、名称の一つである。

 ミナモは自らが属し、暮らしている土地の文明、文化の具合を頭のなかで再確認しようとしている。


 そうすることによって、義足に関心を持つ彼女は、その対象の正体を少しでも多く、具体的に把握しようとしているらしかった。


「ねえ、ルーフ君」


 ミナモは目線を左斜め上に向けたまま、近くにいるルーフに問いを投げかけている。


「君は、聞いたことがあるかしら? 骨のように滑らかな材料を、手っ取り早く集められるツールって言うものを」


「そんなん俺が知ってるわけ……」


 すぐに答えようとした。

 だが、ルーフは全てを素直に否定することが出来ないでいた。

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