座ってミスター食べてミスター
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メイはぷりぷりと怒っていた。
「まったくもう! なんてひどいことをするのかしら! この子は」
両の指に握り拳を作り、それを腰の左右にかっちりと密着させている。
腰に手を当てながら、メイはトゥーイに向けて頬をぷっくりとふくらませていた。
「そんな悪いことをするコは、今晩のハンバーグはぬきにしますからね!」
トゥーイがシイニに働こうとした悪事について、メイは最大限の叱責を送っている。
「…………」
彼女に叱られている。
トゥーイは耳を、柴犬のような厚みのある白い耳をぺたり、と平らにしている。
彼と彼女が叱責をやり取りしている。
その光景は、一人の人間にとっては当たり前の光景であった。
「やれやれ、ですよ」
キンシはため息交じりに、目の前の光景を穏やかそうな様子で眺めている。
「またあのお二方は、くだらない喧嘩をしているんですから」
魔法使いの少女は、見慣れた光景に安心感のようなものを覚えている。
落ち着いている魔法少女。
そんな彼女と相対するように、彼女の右隣にたたずむシイニは得も言われぬ感覚を抱いていた。
「いやいやいや、いや、そんなリラックスできるような光景じゃないだろ……」
にこやかな魔法少女を横目に、シイニは目の前の奇妙さにたじろいでいる。
「何あれ……成人男性が齢十にも満たない幼女に超ガチめに叱られてるんだけど?」
シイニが表現している。
それはおおむね間違いのない表現であった。
幼い魔女と青年魔法使い。
その取り合わせは、見慣れぬ者にとっては奇妙なものとしての存在感を放っている。
「ちょっと……頃合いを見て誰かが止めないと、職務質問されそうだぜ?」
シイニが不安がっている。
彼の言葉に、キンシが不思議そうに耳をかたむけていた。
「質問? 今日の晩御飯のハンバーグにつなぎの玉ねぎが入るか、入らないかについてですかね?」
「どこの誰がキミんちの晩飯の具合を知りたがるってんだよ」
シイニの皮肉も、キンシの黒猫のような聴覚器官にはあまり意味を為さないようであった。
「私たちのことを大事に思うのもけっこうだけど、あんまり押しがつよいオトコはきらわれるわよ?」
シイニとキンシが、相容れないやり取りを交わしている。
その間に、メイはトゥーイに向けた叱責をいくらか片付け終えようとしていた。
「たしかにあのお客様は、いいお客さまとはいえないわ。それは、私もアナタとおなじいけんよ」
白く細い人差し指を、ピンと点にむけて伸ばしている。
その手を固定したままで、メイはトゥーイの周りをトコトコと歩いている。
「ヒトのヒミツをしりたがる、時代が時代ならセクシャルハラスメントで法廷でのたたかいを繰り広げたかもしれない。でもね、だからといってひどいことをしていいってわけじゃないのよ?」
メイはトゥーイをなだめすかすように話している。
「いい……? 手前、そんな風に思われてたのか……」
幼い魔女が語っている内容を、耳にしたシイニが一人傷ついたように言葉をこぼしている。
「気にしない方が良いですよ」
落ち込んでいる、子供用自転車の姿をした彼にキンシがアドバイスをしている。
「お嬢さんは、あの人は魔女なんです。なのですから、男の人を傷つけることを、何よりの得意としているんですよ!」
「何故に謎に自慢げ……?」
肉の少ない胸を張っているキンシに対して、シイニは冷静そうなツッコミを入れている。
「っていうか、キミみたいな子にそんな風に思われるって……。あの魔女っ娘さんも、人畜無害そうな見た目と態度にそぐわず、意外にもかなりな危険人物なのかも……?」
こんな風に、子供用自転車の姿をした彼が、小鳥系ロリータの批評をしている。
魔法少女と彼が、どうにも緊張感に欠けるやりとりを交わしている。
その間にも、メイとトゥーイは叱責を重ね合せていた。
「たしかに、たしかによ? 呪いについてのわだいはデリケートすぎたかもしれない。でも、でも! いきなりぼうりょくてきな行為にはしるのは、あなたらしくないわよ。ねえ? トゥ」
「…………」
依然として語調を荒げたまま、その調子をたもち続けているメイ。
彼女と相対を成すようにして、トゥーイの方はいよいよ意気消沈といった様子で、その白くフワフワとした耳をさらに垂れ下げていた。
あからさまに落ち込んでいる。
そんな青年に対して、メイは少しずつ止めを刺すように、丁寧に言葉を選びながら叱り続けている。
「いずれにせよ、これ以上シイニさんになにかぼうりょくじみたことを働こうなら、そろそろほかのだれかからもっとひどいおしかりをうけることになりそうね」
恐ろしい予想をたてている。
メイは、その紅色をした瞳を、どこか遠い場所に差し向けている。
幼い魔女がここでは無い何処かに視線を向けている。
「…………」
その様子、瞳、眼球が向かうべき場所。
それを求めるかのように、トゥーイも、鮮やかな紫色をしている瞳を遠くに向けようとしている。
だが、トゥーイはどうしても別の場所を見ることが出来ないでいた。
青年はあくまでも、この場面に生じている問題にしか視線を向けられないでいた。




