忘れないってステキかも
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シイニに問いかけられた、キンシはなんてことも無さそうに答えを返していた。
「そりゃあもちろん、集団ですよ集団」
しかし帰ってきた答えはどうにも要領を得ない、アバウトが過ぎるものでしかなかった。
それはひとえに、キンシ本人がそれ以上の情報を持ち合せていないこと、その証明でもあった。
それなのに、どうしてなのだろう?
「……」
キンシの話に耳をかたむけていた、メイは知らず知らずのうちに右の指で胸の辺りをまさぐっていた。
しぐさは頼りない。不安が指の間を通り抜けてくるようだった。
肉の少ない、骨と皮ぐらいしかない胸の内。
細く白く均等に並ぶあばら骨のした、心の臓がトクン……トクン……と規則正しく鼓動している。
感覚が、幼い魔女の白く細い、かすかに羽毛の生えている指へ伝わってくる。
生命活動の証、メイと言う人間の個体が生き続ける限り、途絶えることの無い音色。
鼓動が内側を揺らす、くぐもった音色に耳をすます。
考えられる限り、それが今のところメイに出来る、最大限のリラックスの方法だった。
だが、残念なことにその行為で魔女の不安が拭うことは、期待できそうになかった。
「集団……ね……」
なんてこともない、ただの単語。
そのはずなのに、どうしてこんなにも心がざわめくというのか。
メイがひとり、不安にさいなまれている。
彼女の不安定をよそに、シイニはあっけらかんとした様子でキンシと会話をしていた。
「して、その集団というのは、いかようなものなんだい?」
シイニに問いかけられた、キンシはただ単純な答えだけを返している。
「それはもちろん、最近灰笛のぴーぽーを騒がす怪しげな集団ですよ」
聞かれた分だけの内容を言葉にしようとしている。
しかしながら、魔法使いの少女はことの詳細をうまい具合に思い出せないでいるらしかった。
「えーっと? たしか名前のようなものが……あったような、なかったような」
キンシは左の指で、下唇をふにふにといじくっている。
魔法使いの少女の記憶力、それはよすがにするにはあまりにも不安定すぎる要因であった。
「ハルモニア。あのヒトたちの名前よ」
魔法少女が記憶に再検索をする。
それとほぼ同時か、あるいはもう少し早かったかもしれない。
とにかく、どちらにせよ、先に言葉を、名前を口にしていたのはメイの唇であった。
「ふむ」
幼い魔女の、薄紅色をした小さな唇から発せられた固有名詞。
それを聞いた、シイニは思惟に耽るような声音を使っていた。
「その集団に関しては、手前も少し気になっている部分があるね」
「おや、そうなんですか?」
「ああ。でも……──」
シイニは、自分の事を語る前に、気になる事項を一つずつ片すことを選んだようだった。
「その集団に関しては、キミ達の方がもっと詳しいことを話せるんじゃないかな?」
そんなことを言いながら、シイニは前輪を、警戒用ライトの方向をメイがいる方角に固定していた。
「……」
隠せるものなら、誤魔化せるものなら、このままなあなあのままで受け流したかった。
だがそうはならなかった。
「そう……ね、私たち、その人たちにはとってもお世話になったわ」
視線を向けられている。
そのことを肌に、白い羽毛に感じ取っている。
メイが、シイニに向けて少し昔の出来事、過去に起きた事件のあれこれを話そうとした。
だが、メイが実際に唇を動かす、それよりも前に、彼女よりも早く行動を起こす影が一つあった。
「…………」
「……ん?」
不意に重さを感じた。
シイニは自らの体に跨る、青年の重さを全身に受け止めていた。
「え、ちょ、ちょっと? トゥーイ君?」
トゥーイが、そう呼ばれている魔法使いの青年が、シイニの上に跨ろうとしている。
子供用自転車の姿。
せいぜい十代中盤までの年齢層しか対応していないであろう、そのぐらいの大きさしかない。
少なくとも、確実に大人向けのそれでは無い。
小さなそれに無理やり跨ろうとしている、トゥーイの姿は何処か滑稽な雰囲気を漂わせていた。
「ちょ、やめておくれよ……」
シイニの方も、最初の数秒だけは冗談めかした態度を作れる分の余裕を持っていた。
しかしながら、その状態も長くは続かなかった。
「…………」
「ちょ、おい! 痛い痛い痛い!!」
五秒と待たずに、シイニは青年の腕力に耐え難い不快感を覚えていた。
拒絶感を主張している。
だがトゥーイの方は、それに構うことなく己の凶行を続行させていた。
シイニの、子供用自転車の姿の上に覆いかぶさる。
決して小柄とは言えそうにない、平均身長より一回りサイズのある体躯が、シイニの体を押し潰そうとしていた。
「トゥーイさん?!」
青年の行動に驚いている。
それはキンシだけに限定されたものではなかった。
「トゥ!!」
周囲の空気がピリッと変わる。
激しい声を発したのは、メイの小さな体だった。
「やめなさい! いやがってるでしょ!」
小さな体の、一体全体どこにそのような声量をひそませていたというのだろうか。
とにもかくにも、魔法使いの青年の凶行は、幼い体の魔女の一声で抑制されることとなった。




