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今はたくさんの桃で良し

ご覧になってくださり、ありがとうございます★

 子供用自転車の姿をした彼の右隣。

 そこで彼女は視線を落として彼のことをみている。

 幼い、まだ十年も生きていないであろう、そんな背格好な、彼女はこう見えても魔女なのであった。


 幼い体の魔女は、シイニという男性に問いかけている。


「どうしてトゥが、キンシちゃんに攻撃をしようとしているのよ?」


「そんなもん、手前などが知っているはずもねえでしょうよ」


 幼い体の魔女に問われた、シイニは思ったままの言葉だけを返している。

 それは、彼にしては珍しく本心から成る言葉であった。


 というよりかは、シイニにしてみればこれまでの、魔法使いたちの行動こそ不可解そのものでしなかった。


「どうして、どうして? 手前の体をグチャグチャに解剖しようとしていた魔法使いたちが、今は、県下一触発の状態になっているってんだよ」


 シイニが不思議そうにしていると、それに反応した魔法使いの一人が彼の方に近づいてきていた。


「…………」


 無言をたもっている、それはトゥーイの姿であった。

 彼は雨に濡れる銀色の長い髪の毛を頬に付着させながら、それの拭おうともせずに、シイニに向き合おうとしている。


「…………」


「……な、なんだよ」


 トゥーイの、アメジストのような鮮やかな紫路をしている瞳が、ジッと視線を固定させている。

 彼の瞳に見つめられている、シイニは居心地の悪そうな声を発していた。


 どうやらトゥーイの怒りは、キンシはもちろんのこと、しかしてそれ以上にこの子供用自転車の姿をした彼の方を主体としているらしかった。


「え、何? 結局手前に何か文句でも?」


 状況、というよりかは、シイニは目の前に立っている青年魔法使いの心理が読めないままでいる。


 子供用自転車の姿をしている彼が、自分の感情をまるで理解していない。

 そのことをすぐに把握した、トゥーイは首元のに巻き付けてある発声補助装置を使うことにした。


「私が怒る過程をして、それはおそらく私は無関心です」


 青年の白い首元、そこに首輪のように巻き付けてある発声補助装置。

 見ようによっては、銀細工のパンキッシュなアクセサリーにも見えなくはない。

 そこから発せられる電子音は、トゥーイ本人の持つ音声に限りなく近づかせた電子音が奏でられる。


「処女を卒業していない娘に初めて体験談を伝えるために、全体としてどの様なエチケットコースを受講しましたか?」


 疑問文としての体、ただそれだけのリズムだけが、シイニが理解することの出来た内容であった。


「よくわからない、けれど……うん、キミは、トゥーイ君は、あの女の子のことをとても大事に思っているんだね」


 今の青年の言葉から、いったいどのような感情を読み取ったというのだろう?

 シイニは、直観的にこの目の前に立っている、犬耳の銀髪な青年にある種の親近感なるモノを覚えそうになっていた。


「お……手前にも、命を懸けてでも大切にしたい女がいるんだよ」


 シイニは自力で立っている。

 その姿は子供用自転車のようなそれでしかない、本来ならば何かに支えられていなければ、まともに直立することすら難しい。


 そんな体を、シイニは己のなかの魔力を使って、自立をたもち続けている。


 自立する自転車の体と、青年の銀色をした長い髪の毛が向かい合う。


「すまなかったとは、思っているよ」


 シイニはまず最初に、自分がすべきであった謝罪文を言葉の上に用意している。


「あの子の抱えている秘密は、おそらく……自分が想像している以上に深く、深く、暗いものがあるんだろう」


 彼らのやりとりを聞いていた、メイは話の無いようについていくことが出来ないでいる。


「それでも? 呪いについて知りたいっていう、彼女の夢は変わらないんだろう?」


 どうやらキンシについてのことを話しているらしい。

 メイは頭の中で思考を巡らせる。


 「呪い」と呼ばれる、この世界に存在している病気、疾患、症例の一つとされるもの。


 思えば、シイニの体に刻まれている呪いの形を知りたい、というのが、この場面におけるそもそもの欲求ではあった。


 それが、なんともイヤな緊迫感まで引き延ばされることになるとは。

 少なくとも、望んでいるものはいなかったはずである。


「いや、手前の質問文の失礼さが、主たる要因であることは否めないよね」


 攻撃力満タンのトゥーイの近くにいる影響なのか、シイニは珍しく自分を卑下する方法を選んでいるらしかった。


「普通、魔術師みたいに自発的に魔導の道に進もうとした人と、魔法使いっていうのは、決定的に要素が異なっているんだよね」


「そう……なの」


 夜の暗がりのなか、太陽の熱はすでにそのほとんどを暗黒の冷たさの中に溶かし尽くされてしまっている。


 都市の外灯に照らされる、メイはトゥーイの横顔に滲む陰に問いかけていた。


 幼い体の魔女に、彼女の紅色をした瞳に見つめられた。


「……………」


 シイニは彼女の問いに答えようと、とっさの動作に唇を開きかけた。


「……………」


 だが唇の奥、咥内の舌のぬめり、喉奥の声帯、肺の膨らみ。

 言葉を、声を、音声を作りだすべき器官、それらのどれもがトゥーイの心を無視していた。


「……………」

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