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忘れたいって気持ち、それは嘘じゃない

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 アゲハ・モアという名前の、魔術を使用することの出来る、少女の話をメイはつぶやいていた。


「あれは……ほんとうに、ほんとうにすごい……力を持った魔術師さんだったわ」


 その椿の花弁のような、鮮やかな紅緋色をした瞳。

 クルンと丸くきらめいているはずのそこは、ここでは無い何処か、いつかの時間帯に発生した事象についてを見つめているようだった。


 メイが、自らをそう名乗る幼い体の魔女が、言葉をそこでいったん止めている。

 比較的明るいところ、街灯の暖色をした明かりを反射していた。


「なんてったって、無抵抗のあいてをなすすべもないまま、なにひとつ反撃されることなく、目的のモノを奪っていっちゃうんだもの。お強いにきまっているわね」


 若干舌足らずな発音が所々に混じりこんでいるとしても、メイの語る過去に起きた事件のあらましは一旦の終幕をむかえているらしかった。


 幼い魔女の話し、語り、それらを言葉として受け止めた。

 シイニのほうには、二つの新たなイメージが生じていたらしかった。


「つまり、その古城の主である彼女は、この灰笛(はいふえ)という場所で、直接、対面して出会った。と、言うことになるのかな?」


 シイニが問いかけている。

 そのことにメイは唇に指を触れさせながら、ほんの少しだけ考えをめぐらせる姿勢を作って見せていた。


「そう……ねえ、であったことには、変わりはないと思うわ」


 メイがそう表現をしている。

 シイニはそれを、珍しくかなり強い関心と信頼を含ませた態度で、メイの方にずずい、と詰め寄ってきていた。


「どんな感じに? どこで、灰笛(はいふえ)のどこで、どこようにして出会ったというんです? どうか、どうか、手前にそれを教えてはくださいませんかッ!」


 地面から少し離れていた場所から、シイニは魔力を激しく消費しながら、浮遊したままのかっこうで魔女に詰め寄っている。


 子供用自転車の姿、今は前輪の枠の辺りから右腕だけを寂しく露出させている。


 中途半端に体を露出させいる。

 そのままのかっこうで、シイニはメイに先ほどまでの過去語りの詳細を、続けて確認したがっているようであった。


「ええと、だから……」


 予想外の相手の喰らいつきの良さに、メイは若干戸惑いがちな様子で受け答えをしている。


「だから、道端をあるいていたら、いきなりモアさんのほうが話しかけてきて、それで、……色々と喧嘩をしてしまって」


 メイは少しだけ嘘をついていた。

 あの日、あの時、あの場面に繰り広げられた凶事は、少なくともメイにとっては、この世で最も悪とされる行為に等しい出来事であった。


「なにか……彼女に酷いことでもされたのか?」


 シイニが、声のトーンを落として聞いてきている。

 それがタブーであることを自覚している、その上で彼はメイの様子、その正体を知りたがっているようであった。


「ええ、あれはサイアクだったわ。私の人生においても、五本の指に数えられるくらいの悪なことよ」


 いつになく真剣そうな。

 いつものように、柔らかく言葉を演出する余裕すらもないほどに。


 それほどに、メイはその少女についての、個人的な恨み辛みを静に語っていた。


「なにも知らない、ほとんど事情も知らないままのおにい……兄を、彼らはよってたかってボコボコにぶちのめしたわ」


「おお、おお、それはまさに災難でございましたな」


 メイの、ルビーのように煌めく紅色の視線。

 幼い魔女が視線に含ませている感情、その質量にシイニは早くも圧倒されるかのような震えを魂に感じていた。


「ええ、ええ……覚えていますとも、あのときのことは……」


 低く、地面のそこから這い上るかのような声音を使っている。


「私のお兄さま、んんと、兄……をあの人は、まず最初になにをしたと思う……?」


 生まれたての白蛇が、足首からシュルシュルと這い上るかのような、そんな具合の言葉遣い。


 それらを聞いた、シイニささすがにこれ以上深く詮索することはしない方が良いだろうと、胸のうちで判断したようだった。


 予想外のところで生じてしまった緊張感。

 シイニはそれを自らの手で払拭するように、この場面の会話文を雑に切り替えていた。


「ともあれ! ……手前をこの世界に召喚せしめた魔術師が、いたはずなんでございますよ」


 その子供用自転車の姿は、すでに字面の上、アスファルトの黒い表面へと再会を果たしていた。


 そうして地面の上に降りている、設置してある光景を見る。

 地面に降り立った、シイニの姿を見て、キンシはつくづくその体について疑問を抱かずにはいられなかった。


「もしもシイニさんの言っていることが、一から十まで全部、本当の真実、とぅるーであったとしたら、ですよ」


 アスファルトの上、前輪と後輪を同時に回転させている。


 子供用自転車の姿をした、彼に向けてキンシは称賛を贈らずにはいられないでいる。


「その、魔術師さんは封印の技法も、ここまで純度、完成度の高い結界を構築なされたんですね」


 知り得た情報語っていくうちに、キンシの鼻息はフウフウ、フゴゴフゴゴと荒さを増していく

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