私の翼を差し向ける
はだしのままに、
揺らめきは実体のないその体を確実に拡大し、とある形状を形成する。
最初はその不確かさゆえに、神話に登場する清らかな天使を連想させたが、ある程度の成長を終えた安定期に到達すると、それはむしろ人の指に近づいている気がした。
鳥の羽にしては細やかすぎて、人の指にしては骨格が雄大すぎる、どっちつかずな形。
何とも形容しがたいその爪は、人間や鳥類の上半身に備え付けられているそれらとは異なり、一本だけが発芽した新芽のような格好で幼女の腰から文字通り「生えてきて」いた。
メイが少し苦しげに、湿り気のある吐息を吐く。
彼女の呼吸と呼応してプロングが震え、その枝先に光明を透かす。
「うわあ………、綺麗だな………」
幼女の体から発生する見たことのない現象とその美しさにキンシは見とれ、純粋なる感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。
葉脈に佇む朝露のような輝きはすでに成長を終え、彼女の体を中心の支点として飛び立つ前の小鳥と似た動作でプロングの先端を広々と広げる。
メイは自分の体の下に眠るミッタのことを凝視して、しながらもどこか遠い別の場所へ思考を馳せ、引き絞られた弦のような緊張感を全身に満たす。
やがて、大きな手のような、あるいは大きな羽のような、もしくはそのどちらでもない大きな爪が、
パキリ、ポキリ、
と硬質な音を立てて開きったその先端を屈折させた。
連続する折れ曲がり、迅速な動作によってプロングは少ししおれた若葉のようにその体を幼女の上でうな垂れさせる。
メイが浅く息を吸い込み、ぼやけていた視線と意識を一気にミッタへと注ぎ込む。
すると同時にそれまでは目的もなく存在していたはずのそれが、彼女の意思に基づいた命令によって忠実に行動を開始した。
プロングと呼べる爪の先、裁縫針のように鋭い先端がミッタの頭部へ容赦なく、ズプズプと刺し込まれるのを見て、キンシはつい変な悲鳴を漏らしたくなる。
針に似た形をしている先端が幼子の頭部に挿入されたのを体で感じ取ると、メイはとりあえずの安堵を薄桃色の柔らかい唇から吐き出す。
薄い皮膚が二段に重なり合う瞼を細めると、血液の色を強く反映している瞳孔が疲労によってじんわりと潤みを帯び始める。
心ここにあらず、それでいてこれからの未来を憂い続ける。
一人素性も知らぬ女性の肉体から放たれる、とろりと熱を帯びた感情の感触に、なぜかキンシは胸の中がそわそわとざわつくのを覚える。
迅速に限られた短い時間でメイのプロングは何かしらの動作と処置をミッタの体に施す。
ややあって周囲に鼻孔をくすぐる芳香が漂うと、キンシはあることを察知した。
「………(‐-‐)」
なんということだろう、
ミッタの顔面を支配していた不健康な発熱が見る見るうちに薄れ、後にはいたって健康な人間の子供が持つべき、春先の午後のように平坦で平穏な体温だけを残したのだった。
消えていきました。




