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失望の彼女みたいだ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 メイが提案したのは、このようなことであった。


「どうして気づけなかったのかしら?」


 さも嬉しいことを思いついたかのように、メイという名の幼い魔女は声音を弾ませている。

 白く小さな、かすかに羽毛の生えている手を、そっと胸のあたりで合わせている。


 願い事をするかのようなかっこうを作りながら、メイは次なる展開を提案していた。


「心臓がかくされて、見つからないのなら……。心臓が、見つかるまでこのカラダをバラバラに、しつくしちゃえばいいのよ!」


 メイはまるで、これ以上ない妙案を見つけ出したかのようにしている。


 事実、幼い魔女が発案したそれは、この場面に存在しているある一定の人数に好意的な意味合いをもたらしていた。


「なるほど……?」


 キンシは最初の瞬間、呆けたような曖昧な感情のなかで、ただ魔女の言葉を頭の中で噛むようにしていた。


 偶蹄目(ぐうていもく)の動物が地面の上に生えた草を食むように。

 もぐもぐ、もぐもぐ、とメイの発案を頭の中で噛みしめている。


 時間にして、三秒以上ぐらいは必要としていた。

 理解力が遅かった。

 と言うのも、キンシは空腹を覚えていたため、その肉体はそろそろ栄養の摂取を求めているからだった。


 しかしながら、そのような言い訳じみた理由は、いまこの場面、この瞬間にはあまり意味を為さない。


 どのみち、腹部を食物を満たすまでもなく、魔法使いの少女は魔女の言葉の意味をするところを理解していた。


「あ、あーあー! なるほど、なるほど! そういうことですね!」


 三秒を超えて、四秒以上のあたり。

 そのあたりで、キンシという名の魔法使いの少女は、すでに次の行動のための準備を左腕に整えようとしていた。


「お部屋のなかからオモチャが見つからないのなら……お部屋ごとショベルカーで徹底的に、グチャグチャに掻き乱して、跡形もなく破壊し尽くせばいいんですね!」


 謎の表現方法を選んでいる。


 それを聞いた、シイニはまず戸惑いを胸の中に灯らせていた。


「はあ?!」


 いい加減、台座に縛り付けられる体制に、そろそそろ辟易(へきえき)とした感覚を、覚えないでもいなかった。


 体の自由がほとんど聞かない、そんな最中にて、シイニは聴覚的に得られる情報だけを頼りにしている。


 それ故なのか、シイニはキンシよりも早いタイミングで、メイからの提案を頭の中で理解していたようであった。


「ちょっと……待ってくれよ」


 その様なこと、呟き、言葉を発したのかもしれない。

 それは刹那の叫びであった。


 先に待ち受けているであろう、凶事を先に予感してしまった、それがゆえの恐怖心。

 

「なぜもっと、早くに気付けなかったのでしょうね」


 抱いた恐れは、キンシの行動によって確かな存在感を持ち始めていた。


 魔法使いの少女は、左側の上着のポケットから万年筆を一本、取り出していた。


 それはキンシにとっての、魔法を使うための道具であった。

 例えば怪物を殺すための武器になる。


 キンシは道具を左手の中に用意する。

 そして、次の瞬間には其れに魔力を巡らせていた。


 かすかな光の明滅。

 魔法少女の体内に巡る血液、そこに含まれる魔力がペンの内外を包み込んだ。


 空気が流れる、風の気配がキンシの左手の辺りを撫でる。


 あっという間に、簡単にキンシの左手には一振りの槍、のような武器が握りしめられていた。


「うわあ」


 シイニが驚いている。

 だが声音に感情表現の気配は見受けられなかった。


 ただ目の前の、あり得るはずの無い状況が、ただただ信じられないといった様子であった。


 子供用自転車の姿をした彼が、失望しきった様子で見つめている。


 瞳の色を見ることができない、視線の先にて、キンシは魔法の武器を右手に構えていた。


「これで、完全に体を破壊してしまいましょう!」


 銀色に輝く槍。

 その穂先をキンシは、トゥーイが押さえつけているシイニの方に固定している。


「さあ、れっつ……──」


 魔法の武器に力を込める。

 魔力の形が揺らめきとなり、海の波のように空間を揺らめかせようとした。


「ちょいちょいちょい! ちょちょ、ちょぉぉぉおおおおおおおおおおおおぃいッ!」


 魔法使いの少女が、武器を使った一撃を食らわせようとしていた。

 そこに、シイニの叫び声が盾の代わりとなって立ち塞がっていた。


「どうして、どうしてッ?! キミたちは、キミたちって言うのは、そう極論しか用意できないんだよッ?!」


 どうにも、こうにも。

 どうしたって信じられそうにない。


 そんなモノを見つけてしまった。

 あるいは今更になって、魔法使いたちの正体に気付いてしまった。


 自分の理解力を憎むかのように、シイニは彼らの異常性を今更、再確認するように叫んでいた。


「第一、手前の体をそんな……見るからに危ない武器でバラバラのグチャグチャに破壊し尽くしたら、知りたいこともなにも、全部無くなるでしょーがッ?!」


 当然の意見を声に発している。


 だがそれに、同意の感情を向けられることは無かった。


「…………チッ」


「え?」


 舌打ちが聞こえてきた。

 感情表現の海のなか、普遍的に苛立ちを表現するための、それは充分に意味を持つ小さな音色であった。


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