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倍速でバラバラバラり

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 メイは今すぐにでも決定的な要素を見つけたいようだった。


「ううん……声とか声帯とか、ブルブルとふるえるか、ふるえないかなんて、今はどうでもいいのよね」


 シイニの体に触れていた指を、メイはそっと離している。


「そんな、喋ることが無駄だなんて、悲しいこと言わないでおくんなまし……」


 メイの指が離れた感触に、シイニが敏感に気付いている。


 子供用自転車の姿を持つ、彼が何事かを主張している。

 だが、彼の言葉は幼い魔女になんら意味をもたらさなかった。


 白く細い、かすかに羽毛の生えている指を口元に運ぶ。

 少しだけ鋭く伸びている爪の先を、下唇と皮膚の境い目あたりに、わずかに押し込んでいる。


「その……「呪い」がどんなものか、確かめるためには、やっぱり心臓を第一にさがしたほうがいいはず。……よね? トゥ?」


 爪の先を唇から離しながら、メイは視線をトゥーイのいる方にチラリと向けている。


 メイの、彼女の紅色をした瞳が、丸く見つめている。

 彼女の視線の先では、トゥーイが引き続きシイニの体を台座の上に押さえつけ続けていた。


 幼い魔女に同意を求められた。

 トゥーイはほんの少しだけ思考を巡らせた、その後に。


「…………。同意します」


 首元に首輪のように巻き付けてある発声補助装置にて、幼い魔女に対する同意を簡単に伝えていた。


 トゥーイの、白い柴犬のような聴覚器官が向けられている。

 彼の返事を受け取った、メイはあらためて自らの思考に確信のようなものを作り上げようとしていた。


「そうとなれば、心臓をさがすためのお目めがひつようになるわね」


 フムフムと、考えを巡らせるように、メイは紅色の瞳をくるりと周囲に小さく巡らせている。


 まるで方法を直接探すかのようにしている。

 幼い魔女の探索に、答える声が一つあった。


「眼球が必要なら、ここにありますよ、お嬢さん」


「キンシちゃん」


 メイは首を左側に向ける。

 そこではキンシが、口元にニコニコと笑みを浮かべながら立っているのが見えた。


「検索ですよね? 心臓のありかを探すための方法ならば、ぜひとも! 僕におまかせください!」


 元気いっぱいに迫ろうとしている。

 キンシはすでに、その表情にいくらかの達成感のようなものを滲ませているようだった。


「まかせるって……どうするつもりなの……?」


 若干の圧の強さに、メイは戸惑いのほうを隠しきれないでいる。


 戸惑っている彼女に、検索の対象とされそうになっているシイニがアドバイスを一つしていた。


「それはもちろん、キンシ君が魔法使いとして生きていくうえで、必要になった「呪い」を使うんだろう?」


 シイニが丁寧に説明をしようとしている。

 だが、メイはやはり彼の言葉に耳をかたむけようとしなかった。


「んー……どういうことなのかしら……?」


 幼い魔女が困惑している。


「……いい加減、手前の話にも耳を貸してはくれないのかい……?」


 キンシはお構いなしといった様子で行動を起こそうとしていた。


 キンシはメイの隣に立ちながら、左の指を自らの顔面に触れ合せている。


「んんんんー……!」


 気合を入れるかのような、そんな声を喉の奥からしぼりだしている。


 メイが見上げている先、そこではキンシが左手を左の目にかざしているのが見えていた。


 そこはちょうど、現在の話題の中心である「呪い」を受けた部分であった。

 

 かつての幼い日に、父親の喪失と共に身に受けた呪い。

 その欠落を埋めるように、キンシの左眼窩(がんか)には、宝石によって作り上げられた義眼が埋め込まれていた。


 体外に排出された血液のように深い赤色を持っている。

 赤黒い琥珀のような宝石が、左手に反応してかすかな光を明滅させていた。


 ドクドク……ドクドク……ドクドク……。


 持ち主であるキンシの意識に従い、左目の宝石が心臓の検索を行っている。


 ドクンッ……!


 しばらく体を眺めまわした後に、キンシの左目がある部分に強く反応を示していた。


「おや……?」


 左目ごと、キンシの両の目が小さく見開かれている。


「なにか、見つけたの?」


 キンシの反応を見ていた、メイが強い関心をこめた視線を送っている。


「キンシちゃん……?」


 メイが問いかけている。

 しかしながら彼女からの声に対して、キンシはどうにも要領の得ない音声しか返せないでいた。


「あれぇーあれれぇー? おっかしいなあ……」


 キンシは首をかしげながら、その鮮やかな緑色をした瞳の中に疑問の気配を増幅させている。


「おやおや、キンシ君、どうしたんだい?」


 そんな魔法少女に、シイニは軽く確認をするかのような声をかけていた。


「そんな、精神年齢だけ大人の名探偵みたいな声を出して」


 冗談めかすように、シイニは謎めいた表現をしている。


「いえ、僕は体も心もまだまだ未熟のガキンチョですけれども」


 シイニの冗談に、キンシが真面目ぶった様子で受け答えをしている。


「いや、何でもないんだ……」


 少し笑っているのは、彼が恥ずかしさをごまかすつもりで作った感情表現の一つであった。


 シイニがはぐらかしている。

 その部分を、キンシは追及しようとしていた。

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