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未然で終わる惨事たちに

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ?!」


 いよいよ助からないと、そう察したシイニが聞くに堪えない悲鳴をあげている。


「助けてぇーええッ?! 魔法使いたちにバラバラのグチャグチャにされるぅぅぅーーーーーーーううッ?!」


「うるさいですね」


 子供用自転車の姿をしている、彼の叫びを聞いたキンシが顔を少ししかめている。


「そんなに大きな声を出さなくても、もうこの展開は決まりきっているじゃないですか」


 まるで幼い子供をさとすかのような、そんな口ぶりで、キンシはおもむろに上着のポケットをまさぐっている。


「シイニさん、あなたはこれから僕たちに、バラバラのグチャグチャに分解されます。それは仕方のないことなのです!」


「何故にッ?! 何ゆえにッ?!」


 魔法使いの少女の、理解しがたい主張に、シイニが当然の事として反論を主張している。

 表情を直接確かめるまでもなく、言葉の気配だけで慌てふためいていることが、十二分に察することができる。


 全ての言葉が悲鳴に近しい気配を含む。

 シイニの叫びを耳に受け止めながら、キンシは淡々とした様子で状況を見つめるばかりであった。


「仕方ないじゃないですか、お二方が「呪い」についてを知りたいんですから。知的欲求の消費対象として、今はしっかりと欲のはけ口になってもらいましょう」


 キンシは理由を語りながら、左の指で眼鏡の位置を少しだけ整えている。

 円形を少しつぶしたような形の眼鏡のレンズ、その奥にある鮮やかな緑色をした瞳が、二人の人間を見ている。


 キンシという名の魔法少女に見つめられる。


 二人の人間の内の一人。

 台座の前でシイニの体を押さえつけている、青年がジッと彼の体を見下ろしていた。


「…………」


 唇は固く閉ざされたまま。

 無言のなか、青年の紫キャベツのような色をした瞳が、シイニの体を隈なく観察している。


「や、やめてくれ……ッ」


 何の感情も読み取れそうにない。

 無表情の青年に、シイニはなけなしの希望をぶちまけようとしていた。


「トゥーイ君ッ?! キミだって、こんなオッサンの体をあれこれ弄くり回したいだなんて、そんな……そんな奇特な性癖をここで暴露したいわけじゃないだろうッ?! そうだろうッ?!」


 再三の訴えかけも、すでにシイニ本人の内で無駄に終わる事を、それとなく予想できてしまえていた。


「…………」


 シイニの言葉を無視している。


 トゥーイと名前を呼ばれた。

 魔法使いの青年は、自らの魔力で構築した仮初(かりそめ)の台座の上に、シイニの体をしっかりと固定していた。


 キャリキャリ! キャリリ、キャリリッ!!

 ギギギギ、ギィリリリリィィィィーーーーーーイイ!!


 ガラスを一枚敷いたかのような、簡素で簡単な台座の上で、シイニの車輪が激しく回転している。

 現状に許された範囲において、彼が自己の意思で自由に動かせる部分がそこしかなかった。


 もしかすると、本気を出せばもっと別の何か……「何かしら」の要素が暴かれるかもしれない。


 シイニが、子供用自転車の体に隠れている彼が、内に隠している別の肉体。

 この状況がこのまま進行したら、もしかすると彼も秘密を暴いてしまうかもしれない!


 そんな期待がキンシの胸の内、不意に生えてきたキノコのように存在していた。


「さあさあ、シイニさん! 覚悟の準備はできていますか?」


 前輪と後輪を激しく回転させている。

 グルグルと回る車輪に向けて、キンシが昂ぶり気味の視線を浴びせかけていた。


「その無機質な体の奥に隠している……情欲たっぷりの肉体を露わにしちゃってください!」


「いやぁー……! いややぁー……! カンニンしてぇー……!」


「なんなの、その悪代官とまちむすめみたいなやりとり……」


 ドキドキと、興奮し始めている。

 魔法少女の様子とは異なり、メイはあくまでも冷静じみた態度を保ち続けていた。


「そりゃあ、……手前の柔肌が白日の下に暴かれ、曝されようとしているんだよ? 生娘(きむすめ)の悲鳴の一つや二つ、あげたくもなるさ……ッ!」


 幼い魔女から送られてくる冷めた視線に対して、シイニがせめてもの反論を言葉にしている。


「こんな所で中身をポロリしちゃったら、一体全体、手前は何のためにこの体をここに、この世界に構築したことになるんだっての!?」


 疑問を誰かに投げかけるようにしている。

 だが、子供用自転車の彼の投げかけた疑問に、答える声は今のところ、ここには存在していないようだった。


「…………」


 激しく回転している車輪には触れないようにしている。

 トゥーイが、魔法で構築した即席の台座の上で、シイニの体に指を這わせている。


「はわ、はわわわ……ッ?!」


 青年の指の感触を、シイニは確かに自分の感覚器官に覚える異物として認識しているようだった。


 その様子、反応の速度をしっかりと観察している。


 直接触れている、トゥーイが視線をそろりと別の場所に移していた。


「先生」


 電子音がトゥーイの体から発せられている。

 それはキンシに向けられた言葉で、青年の呼びかけを耳にしたキンシが彼と目線を交わしていた。

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