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その例えは少し恥ずかしいわね

ホップホップ、

 嘘! そんな馬鹿な?

 

 情報を飲み下すより先にキンシは反射的な反応で体を、眼球の向く先を怪物の死肉が集まっている場所へと注ぐ。


 一瞬、ほんの、一秒にも満たないごく僅かな時の流れにおいて、キンシはあまりにも確実すぎる感覚として彼方の、自らが打ち倒したはずの怪物が再び呼吸を取り戻した気配を感じ取った。


 砂だらけの地面に膝をついたままの姿勢で、腰をぐるりと回転しながら怪物を、死体の周囲をじっと凝視する。


 揺り籠は、彼方と呼ばれる怪物の生命線、巨大なガラス玉にそっくりの器官はやはり自分が破壊して、粉々に壊したそのままに地面に転がっている。

 

 そして弾を取り囲んでいた肉も、骨も、皮も脂も、きちんと死体らしく弛緩してもれなく生き物として正しい腐食を順調に開始している。


 だが、しかし、この夕暮れの海面のようにベタベタとした匂いのある気配は、間違いなく紛うことなく………。


 ………いや、変に現実逃避をするべきではないな。

 キンシは冷たい汗を首筋に滲ませながら、自虐気味に視線をもとの場所へ、

 

 ミッタと自らを名乗った幼子に覆いかぶさっている幼女の方へと戻す。


 メイと呼ばれている彼女は、今にも鼻先が触れあいそうなほどミッタに寄り添い、無言の相手に静かな命令を下した。


「動かないで、じっとしていて」


 メイのおさげが、三つの筋を組み合わせて織り込まれていた三つ編みが、匂いのする「何か」とぶつかり引っ掛かり、するりとあっけなく解ける。


 生まれ持ったままの後天的な加工を一切していない、不安を覚えるほどに色素が足りない頭髪が、彼女の背後で発生する動きと連動して、風に流される羽毛のようにゆらゆらと揺らぐ。


 キンシは、そしてずっとキンシのそばにいたトゥーイは、彼女の背後に発生している動きに、

 水に溶かした砂糖のような空間の揺らめきに、眼球の向く先を釘付けにした。


 ゆらゆらと、

 揺らめきは瞬きの間に変化を続け、

 

 きらきらと、

 やがて雪の結晶のように頼りない、しかし確かな存在を構築し、あっという間にメイの背中一面を覆い尽くしてしまう。


 その姿、格好はまるで。


「て、天使?」


 キンシは驚きのあまり、自分で己の言葉に退いてしまいたくなるほどのクサい台詞を、しかし同時に我ながら深々と納得してしまう形容詞を、自然な口の動きとして言葉にしてしまっていた。


 魔法使いが呟いた言葉のとおり、それ以外の例えを考える方が難しいくらいに、彼女の体から発生している現象は不可思議で、奇妙で、理解し難しい。


 だが、とても分かりやすく、優しく、今すぐにでも抱きしめたくなる可愛らしさであった。


 神話と呼ばれる文化の根本に位置する、美しい物語(フィクション)に登場しても遜色を感じさせないであろう。


 大きな大きな獣の爪に似た器官が幼女の背中、腰部と臀部のちょうど境目辺りにヤドリギの如く自然に生えてきて、メキメキとある一点を目指して成長していた。

レトルトカレーを食べましょう。

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