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人類の新作にご期待ください

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「十二月七日、僕はこの世界に生を受けました」


 キンシが語る、具体的な数字にメイが予想外の驚きをくちにしていた。


「あら、だとすると……もうすぐお誕生日ね、キンシちゃん」


「誕生日ぱーてぃーのご予定は、また今度にしてくださいね」


 少しでも逸れそうになる話題を、キンシは努めて正しい方向性に保とうとしている。


「災害時の混乱に紛れ込みながらキンシは、……えっと、僕から見て先代にあたるキンシなんですけども」


「ややこしいわね、お父さまでいいんじゃないかしら?」


 メイからのアドバイスを受けながら、キンシは話を静かに進めていく。


「なにぶん幼い時分の出来事ですから……。記憶が曖昧なところは詳細のところを語れないのは、どうかお許しをいただきたいところですね」


 何かしら、誰かしらに許しをこうように、前置きのようなものをひとつ置いている。


 進行形のような速度で準備を整えながら、キンシは思い出せる分だけの情報を言葉に変換していた。


「先代のキンシは大災厄の時の混乱に乗じて、身元不明でありながらこの灰笛(はいふえ)にアパートを一部屋、間借りしていたんですよ」


「おやおや、それは随分と冒険的行動力でございますね」


 キンシが語る「先代のキンシ」に対して、シイニが小さく感心の意をこぼしていた。


「いまどき、身分証明書の一つも用意しないで家を間借りできるなんて、よっぽどのアドベンチャーであろうとも」


「……なんだか、魔法使いなのに、ずいぶんとゲンジツテキなお悩みをかかえているのね……」


 せっかく「魔法使い」という存在を語っているのならば、もう少しファンタジックに、見境なしな生活様式の一つや二つ、送っていてもおかしくない、はず。


 メイが勝手な空想に対して、まるで裏切られたかのような事実を突きつけられている。


「お嬢さん……あなた、魔法使いをいったい何だと思っていらっしゃるんですか」


 キンシは幼い魔女にたいして、形容しがたい疑問の視線を送っている。


 どことなく不満の気配を匂わせている、魔法使いの少女にメイはかすかに慌てた様子で言い訳を用意していた。


「んんと……ごめんなさいね、なんだかみんな、もっとキンシちゃんみたいに向こう見ずでみさかい無しみたいな生活をおくっているものだと、そう思っていたものだから……」


 メイの言葉にはふざけている様子はあまりなく、どうやら本当に、本気で「魔法使い」のことをそう考えていたようである。


 幼い魔女の様子に、キンシはいよいよ心外といった様子で視線の中に暗さを含ませている。


「そんな単細胞みたいな生活、僕はとても我慢できそうにないですね」


「おや、そうかい?」


 メイにたいしてキンシが反論を用意している。

 その言葉に対して、シイニが意外さに驚くかのような反応を露わにしていた。


「オレ……じゃなくて、手前は、単細胞的生活が送れるのならば今すぐにでも、この身の半分以上を悪魔の宝石に捧げる用意が出来ているというのに!」


 魔法少女の意見に対して否定の異を唱えている。


「シイニさん……」


 まるで世捨て人のようなだべりをこぼしている。

 シイニに対して、キンシは理解しがたいモノを見るかのような視線を送りつけている。


「とにかく、僕は先代のキンシのもとで、生まれたてほやほやの赤ん坊状態から、なんとか自分の足で立って歩いて言葉を使えるぐらいには、なんとか、どうにか成長しておりましたよ」


 気を取りなおして、キンシは自身の内側にある記憶、思い出を言葉の上に削り、崩し落としていく。


 …………。


 やがては少女になる幼女がそこにいた。


「だれでもみんな、さいしょはヨウジョだったのね」


「そりゃあもちろん、たとえオスであろうとメスであろうと、ヒトはみな心の中に幼女の一人や二人を飼い慣らしているものなのさ……」


「お嬢さん、シイニさん、少し黙っててもらえませんか?」


 幼女であった。


 まだ、ただの幼女でしかなかった。

 彼女は優しい優しい、それはそれは優しいお父さんと一緒に、平和な生活を送っていた。


「えー? でも、その先代のキンシも魔法使いだったんだろ?」


「ええ、そうですよシイニさん」


「だったら、やっぱり毎日毎日、ずっと手前のような怪物を相手に戦って日銭を稼いでいたんだろ? それで、平穏な一日であるとはとても言えないんじゃないかなあー?」


「なるほど、貴重なご意見感謝します」


 そうして、日々を暮している内に、彼らのもとに変化が訪れた。


「お! ようやくイベントの登場か、ここまで無駄に無駄に、無駄に! 長かったなあ」


「お待たせしてすみません」


 謝罪をしている。

 かつては幼女のうちの一人であった、彼女のもとに一人の青年が訪れていた。


「セイネン……?」


 メイが小首をかしげて、キンシの述べた言葉の意味を考えようとしている。


 魔女が頭の中に明確な意味を作りだそうとした。

 だが、それよりも先にキンシは単純な答えだけを、湿った舌の上に用意していた。


「トゥーイさんが、異世界からこの世界に、転移魔法を使って来訪してきたんですよ」


 そう言いながら、キンシは視線を別の場所に移そうとしている。

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