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肉も骨もバラバラに分解しよう

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「ただの爆発、例えばガス爆発や粉塵(ふんじん)爆発と、魔力の暴発……それらは性質こそ異なれども、周辺に与える影響力は、同等の列に語れるほどに強力なものだったんだ」


 語っているシイニに、キンシが小さな声で問いかけていた。


「シイニさんは、その……この場所に起きた災害について、なにか知っていることがあるんですか?」


 キンシという名の、魔法使いの少女に問いかけられた。

 シイニは昔の事を思い出すような、そんな溜め息を使っていた。


「いや、直接ここに居合わせた訳ではないな。その頃には、オレはまだ……──」


 少しだけ語ろうとした所で、シイニは思い至るように声の調子を変えている。


「いや、手前はまだこの世界のお世話になっていなかったからなあ」


「それって、どういう意味かしら?」


 メイが首をかしげている。

 幼い魔女の様子に対して、シイニははぐらかすような笑みを台詞の中にこぼしていた。


「それはもちろん、手前がこの世界に召喚される前の事だよ」


 シイニが事実を解明しているのに対して、キンシはすかさず追及の手を伸ばしていた。


「この世界に来る前に起きたことを、よくごぞんじですね」


「そりゃあもちろん、イマドキは検索さえすれば何でもかんでも、隣のあの子の下着の色ですら調べられちゃう時代、だからね」


 よく分からない表現の仕方を使っている。

 シイニの言葉の使いかたを受け流すように、メイは「大災厄」についての情報を語り続けていた。


「その事象が人体に有害であった、その決定的な要素は、魔力の形質変化によるものだったわ」


「そうそう、空気中の魔力がまるで灰みたいになって、みんなの喉もとや肺機能をズタズタのボロボロにしたんだよね」


 メイが記憶の中に検索した言葉を、シイニが補足するようにしている。


 彼ら語っている内容に合わせるように、便乗するように、キンシは自分の事を再び語りなおしていた。


「あの空に広がる傷口が生まれた日と、同じ日に僕はこの場所に生を受けました」


 そんなことを言いながら、キンシは左の指先をつい、と空のうえに向けている。


「…………」


 魔法少女の指先が示している、その方向にトゥーイという名の青年が目線で追いかけていた。

 

 キンシと同じ魔法使いである。

 鮮やかな紫色をしている瞳が追いかけた。


 その先には、灰笛(はいふえ)の空が広がっていた。

 夜の暗黒に染まりきっている、星空は分厚い雨雲に覆い隠されていた。


 ときどき思い出したかのように雨の粒を、ポツポツと雨の雫を垂らし、吐きだしている。


 夜の雨雲。

 しかしてそこには完全なる暗黒は、訪れてはいなかった。


 本当の黒色は、ここには存在していない。

 雨雲は地上から照らされる、都市の明るさを薄く、仄かにまとっている。


 雨雲は、空の上に存在している光の塊に、その身を深く傷つけられていた。


「夜が来ると、余計に目立って仕方がなさそうだね」


 トゥーイが見上げている先を、軽く追いかけるようにシイニが言葉にしていた。


「あの空に浮かんでいる傷、あれがかつてこの場所に訪れた大災厄の置き土産、ということになるのかな?」


 シイニがそう表現をしている。

 彼らが見上げている先、そこには空間に穿たれた裂け目が深々と刻みつけらている。


 空間の傷、それはまるで鉱脈の眠る岩石を砕き割ったかのような、そんな輝きを有していた。


 広く広く、深々と刻みつけられている割れ目。

 その内部には大量の魔力鉱物が含まれている。


 紫水晶(アメジスト)のような輝きを持つ。

 裂け目は地上から見上げてもかなりの大きさが見受けられる。


 もしも魔法でも使って空を飛び、浮かぶそれらを間近に観察するとしたら、どのくらいの大きさがあるのだろうか。


 おそらくは、水泳用プールの長さと似たような範囲を持っているに違いない。

 

 そう、トゥーイは独りでに予想をしていた。


 魔法使いの青年が想像している。

 その視線の先で、空間の裂け目はその傷口をキラキラ、キラキラときらめかせ続けていた。


 雨雲の中に介入している、傷口の内部にはかすかに空の色が混ざりこんでいた。


 傷口の向こう側に広がっている、それは天空の色を持っている。

 もう日はすっかり暮れているため、分かりやすい色を確認することは出来そうにない。


 そこにあるのはただの夜の暗闇と、傷口に含まれる宝石たちの集まり。


 ただの宝石たちの集まり。

 形を成さない粒の集合体。


 そこからドクドクと、ドクドクと溢れてくる魔力は、空間を構成する血液の役割と同じだった。


「この場所が世界でも類を見ない魔力文化、文明を構築することができた。その理由、いや……原因とでも呼ぶべきなんだろうか?」


 シイニが、まるで他の誰かに問いかけるようにして、空に浮かぶ傷口についてを語っている。


 子供用自転車の姿をしている、彼に返事を用意していたのはキンシの声だった。


「僕は……僕は、あの空の輝きと同じ日に、この世界に生まれ落ちたんです」


 メイが驚いたように、パッと首の向きをキンシのいるほうに向けている。


 魔女に見つめられている。

 そのほかの視線にも見つめられている。


 視線の先々で、キンシは語り始めていた。

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