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痛みの理由を毎夜考える自転車

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 シイニは、子供用自転車の姿のままで、自らの主張をハッキリと、しっかりと言葉にしていた。


「違和感……なんてやっすい言葉で片付けられるものではないな。うん! ナイナイ、まったくもって論外極まりない!」


 まるでいままで溜めこんでいたモノ……ストレス、とでも表現するべきなのだろうか。

 今まで集めてきた苛立ちを、吐きだすかのようにしている。


 シイニは少し上ずるような声で、自らの抱く感覚についての共有をメイに求めていた。


「これは、もはや痛みに近しい感覚だよ。剣山(けんざん)って分かる? ホラ、あの生け花をする時に使う台座の事だけど。あれ、あれあれ、あれで肌を優しく、やさしぃぃーく撫でられているような。そんな! 感覚を覚えたことは無いかね? ねえ、メイのお嬢さんよ」


「え、えと……?!」


 吹きつけられるように、一方的に与えられ続ける共感の要請に、メイが戸惑いながらも言葉の意味を考えようとしている。


 考えて、思考を動かした。

 その後にメイは思うがままの素直な感想、それだけを、返答としてシイニに伝えている。


「残念だけど……私、私はそんなふうに感じたことは、ないわね」


「そう、……そうかい」


 相手の同意を得られなかった。

 そのことにシイニは、とても分かりやすく声のトーンを落としていた。


「いや、この感覚に共感を得られたのは、今までほとんど無かったからねえ」


 口先ではそれらしい納得を用意している。

 言葉だけで理解力を示していながら、しかしてシイニはあからさまに落胆の気配を語気に含ませていた。


「そうか、そうかあ……痛みは感じないかあ、残念だなあ」


 いかにも相手を労わりそうな様子を作っている。

 用意された台詞のなかにはたっぷりの穏やかさ、優しさがこれでもかと演出されていた。


 だが残念ながらこの場合、この場面において、演出には限界があまりにも明確に指定されてしまっていた。


「痛くないか、そうじゃないか。それが一体どんな関係があるんでしょうか?」


 話題が移動してしまった事に関して、キンシが思い出したかのように軌道修正をおこなっていた。


「関係?」


 キンシに問いかけられた、シイニは一瞬だけ理解が至らぬような素振りを作ってみせている。


「そういうの、もう大丈夫です、間に合っています」


 だがキンシにしてみれば、今度は彼の演出を長引かせる予定も無いらしい。


「え? ああ、そう?」


 魔法使いの少女のテンションの低さに、シイニは少しばかり意外そうな声音を発していた。


「じゃあ、さっさとこの話題の本題に入ろうか」


 出来ることならもっともっと、長くムダ話をしたがっているかのような、そんな名残惜しさを言葉の中に含ませている。


「古城……と呼ばれる集団が構築した魔術式は、今現在、リアルタイムでこの灰笛(はいふえ)……という名の地方都市にはりめぐらされている。それが、手前の体を苛んで仕方がないんだよ」


 自身が抱く感覚、その正体と詳細をシイニは単純に語っている。


「痛いんだ、魔術式が放つ微粒子サイズの意味が、メタが! 何万本もの小さな針になって、……手前の体をチクチクと刺し続けているんだよ」


「小さい針」


「イメージとしては、尿管結石を想像してくれればいいかな?」


「おおう……具体的な症例をありがとうございます」


 一ミリも感謝の念を込めることなく、キンシはシイニの表現力だけに賞賛の言葉をおくっていた。


 小さな針が何本も束ねられた、イメージのなかでキンシはシイニの表面が傷つけられているのを想像している。


 呼吸をしている。

 小さく息を吐きだしているキンシに、シイニが一つの質問をしていた。


「この痛みは、……もしかすると、いや、もしかしなくとも、キミも常に感じている痛みといっしょかもしれないんだよ?」


 確認をするかのような、そんな語り口でシイニがキンシに話している。


「いっしょ、ですか?」


 シイニに確かめられている。

 キンシは最初、なんのことを言われているのか理解することができないでいた。


 理解力の無い魔法少女に対し、シイニは諦めることをしなかった。


 なんども何度も、丁寧に丁寧に、そこに確かに存在している事実を明白にしようとしている。


「その左目の義眼、それは……おそらくオレ、……じゃなくて、手前と同様の意味を持った材質によって構成されている。そうだろう?」


 シイニがキンシに指摘をしている。

 追及された、キンシはとっさに左手で左眼窩(ひだりがんか)を抑えている。


 魔法使いの少女が左目を手で覆い隠している。

 その動作を見ていた、シイニが隠されたものを追いかけるように、言葉を続けていた。


「その義眼は、この世界とは異なる存在、手前といっしょだ、異世界から訪れた生き物によって作りだされたものだ」


「なにを、根拠に?」


 キンシは表情を動かしていない。

 例えば怒りだとか、怯えだとか、単純に判別ができそうな感情は見受けられない。


 ただの無表情にしか見えない。

 無機質な視線のなかで、シイニは自身の考えた想像を仮定として、形を整えようとしていた。


「異なる世界、異世界から訪れたものであるのならば、キンシ君、キミは今こうして立っているだけで、左目が痛くて、痛くて、仕方がないんじゃないか?」

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