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小さき体の寄り添いは偽物で

別にいいんだよ、

 何を、彼女は何をしていて、一体これから何をするつもりなのだろうか?

 キンシには皆目見当もつかなかった。


 周囲の、兄一人を除いたすべての人間の興味津々な視線を一身に浴びながら、メイはいよいよ組み敷く姿勢になるまで幼子との距離を詰める。


 己の体重によって相手の体を繭ごと押し潰さぬよう踏ん張っている両腕は、細々としていながらも何かしらの強い意志がガッチリと込められ、硬く鋭い爪が地面に食い込む。


 メイがごくごく小さな、羽虫の羽音のような声で幼子に語りかける。


「あなたも、私といっしょで、あのおおきくてまっ黒なお化けにたべられたのね」


「………(‐-‐)」


 幼子は声もなく、呼吸だけを空気に伝える。

 

 どうやら相手は眠りについてしまったらしい。

 普通だったならば、意思の疎通などは無理と判断する。

 

 だが、彼女にとってそれは選択の内に入らなかったらしい。


 メイが幼子に向けて、至極普通そうに語りかける。


「そう、お互い大変大変だったわね。私もまさか生まれて初めての遠出で、オタマジャクシの巨大お化けに飲み込まれるとは思いもよらなかったもの」


「………(‐。‐)」


「うふふ、そうね、その通りだわ。あなたっておもしろい人ね、よかったらお名前おしえてくれない?」


「………っ、………(‐ω‐)」


 どうやら、どうやら? 彼女は何かしらのコンタクトを幼子と結んでいる。

 

 と、いうことは察せられても、しかし目の前で繰り広げられている、頑張って肯定的に見たとしてもどうしてもメイの一方的な会話劇。

 

 ………、言ってしまえば以上に不気味な一人芝居にしか見えない。


「ありがとう、私のなまえはメイよ」


「………(‐₃‐)」


「………あのー……」


 いたたまれないというか、これ以上は耐えられそうにないというか、見かねたキンシが声をかけようとすると。


 じっと、

 ルーフが人差し指を唇に当てて


「とりあえず、まだ喋るな」


 といった感じのジェスチャーを向けてきたので、キンシは溜め息を飲み込んでとりあえず成り行きを見守ることにした。


「そう、そうなの………」


 メイはまるで心理カウンセラーのように、いたって優しげな声音で無言の幼子に話しかけることを続ける。


「今話したくないなら、無理に話さなくていいわ」


 そして彼女は幼子の名乗る名前を声に出して呼ぶ。


「今はおやすみなさい、ミッタちゃん」


 ?

 ミッタとは、このちびっ子の名前のことだろうか。

 キンシは不可解な光景から与えられる、限りなく少ない限られた情報を頼りに予測を立てる。


 そうか、この子はミッタという名前なのか。


 りんごを一口かじったようなさわやかさのある名前だと、キンシは勝手な感想を抱く。


 と、同時に何か、空気中にとある気配を感じ取った。


 ざわざわと背筋を這い登り、するりするりと皮膚を撫でる。

 気温の低い早朝に蛇口から落ちてくる水に触れたときに感じる、個体のない冷たい違和感。


 灰笛に充満している空気をぎゅうぎゅうに、塩おにぎりのように圧縮した、

 そんな感じの、上手く言葉では形容できない気配。

 

 それが、普通ではない匂いが、どういうわけか人の体。

 つまりはメイの体から匂いのきつい芳香剤の如く立ち込めているのだ。


 不審に思ったキンシは、純粋な疑問として彼女の背中を凝視する。

 

 そうして次に魔法使いが感覚したのは、にわかには信じ難い痺れるような恐怖心だった。 

恋と謳いました。

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