焼き具合はレアがお好き
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子供用自転車のような姿かたちをしている、シイニという名の男性がキンシに提案をしていた。
「焼却処分なら、手前にお任せあれ!」
「え、え?」
任されようとしている、シイニの行動をキンシが上手く理解できないでいる。
魔法少女が状況を把握しかけた、その頃にはすでに、シイニは行動を起こしていた。
「あーん」
口を開けた時の擬音を言葉の上に発しながら、シイニは自転車の体を変形させている。
正面のライトの辺りに空間のひずみが生まれ、開かれたそこから捕食器官と思わしき器官が現れている。
それはまるでワニのような形をしている。
牙がずらりと並んでいるそこから、喉の奥にかけて空気が深く、深く吸い込まれていく。
何が起きようとしているのか、キンシが不理解のままに動けないでいる。
魔法少女の背後から、彼女の左肩を激しく掴む腕があった。
「うわ」
急に起こる引力にキンシが驚いている。
だが引いてくる力の正体を見出すよりも先に、キンシの目の前でもっと決定的な変化が訪れていた。
「熱っ」
熱を感じた。
ゴウウッ……! と何かの質量が激しく移動、変化する音が空間に低く響く。
光が明滅した、それは大きな炎が燃焼をする気配であった。
キンシは目と鼻の先の距離で、シイニがワニのような口から大きな炎を吐きだしているのを見ていた。
開かれた口の間から、轟々と燃える炎が排出されている。
それは通常の有機物を燃焼させる時の、オレンジ色のそれとは大きく異なる色を持っている。
青色に輝く、炎は魔力を燃料にしている炎であることの証明であった。
マッチ一本どころの話ではない。
大量の炎の存在に、キンシは自らの肉が焦げるか焦げないかの、危険性すらも忘れて見惚れそうになっている。
青色に輝き、揺らめく炎は怪物の肉を舐めとっていた。
着火の勢いは申し分なく、おまけにたかってきていたプランクトンの数匹も巻き込んで燃やしていた。
めらめらと怪物の肉が燃えている。
焚火のように炎が安定しているのを見た、シイニは捕食器官を剥き出しにしたままで、ケタケタと笑っている。
「ほーら、一気にウェルダンだよ」
「……」
楽しそうにしているシイニに対して、キンシは当然の疑問を叫んでいた。
「あ、危ないでしょうがっ! 僕ごとまる焦げにする気ですかっ?!」
キンシはそこでようやく、自分の身に降りかかりかけた凶事に怯えを覚え始めていた。
「と、トゥーイさんが守ってくれなきゃ、今ごろどうなっていたか……」
冷や汗を大量に分泌させながら、キンシは左腕を掴んでいる青年に感謝の意を伝えている。
「ありがとうございます……トゥーイさん」
「…………」
少女に礼を伝えられた、トゥーイは無言のなかで彼女の無事を視界のなかに認めている。
怪我や火傷が無いことを確認し終えた。
次の瞬間には、トゥーイは刺すような視線でシイニの方を睨みつけている。
「おお、こわいこわい」
青年に睨まれている。
シイニはしかしてなんてことも無さそうに、状況を受け流すばかりであった。
「これでもう、お片付けはだいたい終わったのよね! そうなのよね!」
場に流れる緊迫感を、メイが取り繕うようにして介入してきている。
幼い魔女が確認してきている事柄を、キンシは返事のなかで認めていた。
「そうですね、あとは骨を回収して、それを事務所経由でうえに納品すれば、僕たちのお仕事はこれで終わりです」
これから起こすべき行動を簡単に語っている。
事務的なやり取りを交わしている、その間にキンシはいくばかりか冷静さを体に取り戻しているようだった。
シイニが少女に問いかける。
「その、依頼人のハリさんから受け取ったメモには、ここに同業者が現れることが書かれていたんだろう?」
同業者と、そう表現をしている。
怪物のことを話している、キンシは彼に質問に対する同意を伝えていた。
「そうですね、メモにはここに怪物の気配が報告されている、そういった旨の事も書かれていました」
「そうだったの?」
今更な事実にメイが驚き、その詳細をより確認したがる、好奇心のようなものを呼び覚ましていた。
「ちょっと、そのメモっていうのを見せてちょうだい」
「ええ、いいですよ」
特に何の問題も無いと、そう言わんばかりの気軽さで、キンシはメイにメモを見せている。
「……」
見せられた、メイは少しの間黙りこくっている。
まばたきをひとつ、ふたつ。
「えええ?!」
三秒ほど経過した後で、メイはメモの内容にひどく驚愕させられていた。
「なによこれ、なんにも書いていないじゃない!」
メイが内容についてを、出来るだけ簡潔に言葉にしている。
彼女がそう表現しているとおり、そのメモ用紙には文字による情報が、ほとんど解析できそうになかったのである。
特に皮肉めいた言い回しを思いついたわけでも無かった。
幼い魔女は心の内に生じた素直な感想、眼球に確認でき得る事象を、そのまま言葉にしているにすぎない。
メイが驚いているのに対して、キンシが謎に取り繕うような素振りを作ってみせている。
「そんなことありませんよ、お嬢さん。ほら、こことか、こことか……見ようによっては、きちんと文字に、文章になっている部分もございますって」




