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どうせみんな中身は気持ち悪い

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 トゥーイの鎖に締め上げられた、怪物の中身がズルリズルリとあらわにされていた。

 それはマシュマロのような外観からは、とても想像し難い造形をしていた。


 最初に出てきたのは頭蓋骨、人間の骨格のそれと似たような形を持った骨の塊だった。

 脳味噌が詰まっていそうな、そこは通常の人間のそれと比べ物にならぬほどの大きさがある。


 巨大な頭蓋骨から、その下に頸椎(けいつい)と思わしき骨の連続が続いた。

 それは異様に細く長く、波打ち際に打ちあげられた流木のような曲線を描いている。


 長い首の下には、あばら骨のようなもの。だがそれもとても人間のそれとは呼べそうにない、空洞もなにも無い一つの塊のようにしか見えなかった。


 骨の塊をあらわにしながら、怪物はマシュマロの肉体から骨格を引きずり出している。

 それは人間の骨格を彷彿とさせながら、それと同時に決定的なまでに人間とはかけ離れている。

 異形の骨、形、姿としか表現できそうにない。そんな骨の塊であった。


「きもちわるい……ッ!」


 メイがなんの装飾も皮肉も無しに、思うがままの言葉をそのまま唇に叫んでいる。

 生理的嫌悪感をもよおす造形であること。

 それはこの場所に存在しているおおよその人間、その大体に共通している思考の形であった。


「なんなの、あれは……!」


 恐怖を呼び覚ます、姿かたちにメイが怯えを抱いている。

 幼い魔女が恐怖心を抱いている、その左隣でキンシは戦闘の意識を継続させることに強く集中力を割いていた。


「なんであれ、関係ありません! 攻撃を継続しなくては!」


 変化に恐れを抱くよりも、それ以上に戦闘がまだ継続されていること。それこそが最大で、重要である。

 ただ一つだけの事実を胸に、キンシは再び怪物めがけて、重力の向きを変更していた。


「キンシちゃん! あぶないわよ?! まずは様子をみなくちゃ!」


 メイのもっともらしいアドバイスを聞くこともせずに、キンシはただ最前線を目指して体を落とし続けている。


 まっすぐ落ちてくる魔法の少女の姿を、怪物の方でもしっかりと感覚の内に認識しているらしかった。


「A-A= あ   あ」


 槍のような武器を体の付近に漂わせつつ、再び蹴り技を食らわせようとしている。

 接近してくる体を、今度は怪物の方が紙一重で回避するところだった。


「くっ……!」


 攻撃が外れたことにキンシが気付く。


 魔法少女が次の行動を起こそうとした。

 それよりもはるかにはやい速度で、怪物は新たな行動をその肉体に実行している。


 骨の部分、巨大な頭蓋骨に大きな穴がガパリ、と開かれた。

 それは人間の骨格に当てはめるとしたら、ちょうど顎の部分にあたる場所だった。


 顎を開いた、黒い骨の中身は首を伸ばしている。

 伸ばした先、狙いを済ました、その場所にはキンシの脇腹があった。


 蹴りを外した、動作の後に生まれた油断。怪物はそれを逃さなかった。

 噛みつかれる、強い圧迫感がキンシの腹部に生じていた。


 黒い骨の顎が、前歯と思わしき僅かな部分に獲物、つまりは魔法少女の腹部を捕らえいていた。

 怪物にとってはほんの一欠けら、しかしながら獲物、キンシにしてみれば充分すぎるほどのダメージであった。


 ブチブチと肉が噛み切られた。

 引き千切られた部分に、少女の新鮮な血液が激しく噴出する。


「うぎ……っ?!」


 なにが起きたのか、状況は喰いちぎられたキンシ本人が誰よりも知っている。そのはずだった。

 内側に着用している白いワイシャツに、真っ赤な跡が滲み出ている。


 ダメージを受けた、キンシの体が地面の上に再び転げ落ちている。

 ごろんごろん。落ちてきた体はろくに受け身もとらないままで、ただ黒い塊のような物体に成り下がっている。


「……ッ!」


 メイは悲鳴をあげようとした。

 だが実際に喉元を振動させるよりも先にするべきことがあった。

 魔女は少女の容体を急ぎ、確認することを優先していた。


 メイが駆け寄る。

 足音を聞きながら、キンシはアスファルトの上に体重を預けている。


「キンシちゃん……ッ!」


 少女が怪我をしていることは、確認するまでもなく、明白なことであった。

 幼い魔女に見つめられている、視線の先では新鮮な傷口から漏出が勢いよく発生していた。


 キンシがアスファルトの上であおむけになり、左の指で損傷の具合を自己確認している。

 皮膚が突っ張るような衝撃は、すでに大部分が通り過ぎていた。


 指先がヌルリとした感触、そして生温かさらしきものに触れている。

 ぬるい、そこはキンシの左わき腹の辺り。


 濡れそぼつ部分に指を這わせる。

 引き裂かれたワイシャツの布部分が断絶している、その内側に柔らかさが露出していた。


 ほんの一瞬だけ、指先にその部分の感触が伝えられる。

 柔らかい、ぐちゃぐちゃになったプリンのような感触。


 触り心地に気付いた。


「う、(つう)っ……!」


 その次の瞬間には、キンシの脳みそが損傷の存在を強く訴えかけていた。

 左わき腹、あばら骨より少し下、キンシはそこを怪物の「顎」に食い千切られていた。


 「顎」のような器官、それは間違いなく怪物の所有する器官である。

 損傷をこうむった、キンシ本人が誰よりもその事実を知っていた。


 知っている。

 その上で、キンシは起きた事象の異常さについて、考えずにはいられないでいた。

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