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死にたがりの志願者たち

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ご感想などなど、とても励みになります!

 地面から少し離れた場所、そこに空間のひずみは生まれようとしている。

 生まれて、影響を与えつつある違和感。

 そこにキンシは左手を、左腕をまっすぐかざしていた。


 魔法使いの少女の左腕、そこにはかつて「呪い」によって焼かれた後の、火傷の痕が刻みつけられていた。


 伸ばした左腕に、右の指が滑りこまされる。

 しゅるり、しゅるり、と音がする、その次には少女の左手を包んでいた包帯が外されていた。


 白色の布によって構成されていた保護が外れる。

 それと同時に、布の内側に守られていたはずの部分が空気中にあらわになっていた。


 否、守られていたという言い方は、その部分に使用するにはいくらか優しさと呼ぶべきものが多すぎていた。

 それは守られていたのではなく、隠されいただけだった。


 あらわにされた左手には、ほとんど人間らしい皮膚は残されいなかった。

 人間の持つ、表皮のしわと毛穴のある、温度を感じさせる器官が、そこには許されていなかった。


 異様なまでに表面がツルツルとしている、鉱物のような組織が肉体の一部として存在をしている。

 体の、ほんの一部が水晶に無理やり変換させられてしまったかのような、そんな違和感が大量に含まれていた。


 水晶のようなくすんだ透明さは、キンシの左手のほとんどを覆い尽くしていた。

 まるで、けものの爪に引っかかれたかのような無造作がある。

 しかしながら、同時にある種の文様のような規則正しさも見えなくはない。 


 それらがいわゆる所の「呪い」であり、同時にキンシと自らを名乗る少女が、魔法使いであることの何よりの証でもあった。


 魔法使いとしての証明を見せながら、キンシはそこに意識を強く巡らせている。

 思考能力を使う、それは魔法を使うための準備としての意味合いが強かった。


 魔法を使うために、思考を動かしている。

 見つめている先、そこでは光の筋が更なる増幅を継続させていた。

 

 秒を跨ぐほどに光の範囲は広がり続けている。

 あともう少しで決定的な変化が訪れる、その前触れといっても差し支えない程の異様さであった。


 キンシは急いで魔法の準備を整える。

 思考力に緊急さが付加される、途端に少女の左腕に強い熱が巡っていた。


 血液の熱、血中に含まれる魔力が左腕に集中する。

 あたたかさが、雨に濡れる空気と触れ合う。

 

 温度差のなかで、キンシの左手にも光のようなものが生まれていた。

 光はちょうど怪物が現れようとしている空間の、それとよく似た気配を有している。


 ただ異なっているのが、キンシの手元のそれの方が緊急性を持っていることだった。

 光の明滅の後に、キンシの手元に道具が発現していた。


 それは一本のペンのように見える、空間に現れた途端にペンはその形状を変化させていた。

 大きく拡大される、ペンは瞬く間に一振りの槍へと変化し終えていた。


 キンシは左腕に槍を携える。

 槍は万年筆を大きく拡大させたかのような、そんな特徴的な刃を持っていた。


 細やかな刻印が幾つも見える、銀色の刃をキンシは両手に構える。

 魔法使いが魔法のための武器を用意し終えていた。


 それよりも少し遅めの速度で、空間に生まれたひずみからも決定的な変化が現れようとしていた。


「ようし、こっちの準備は万端、ですよ……!」


 魔法の武器、銀色の槍を両腕に構えつつ、キンシはあらためて空間のひずみに視線を固定している。


 魔法少女が戦うための準備を整えている。

 そのすぐ近く、少女から見て右隣にて、メイも戦いのための準備をし終えていた。


「えっと、これで……大丈夫なのよね?」


 誰かに確認をするかのようにして、メイはポーチの中にしまっていた一丁の拳銃、のような武器を手に握りしめている。


 それは配給されたもので、メイにも使いやすくカスタマイズされた、簡易的な武器の一つであった。


 彼女たちが武器の準備を整えている。

 その間に、ついに空間のひずみから決定的な要素がこぼれ落ちようとしていた。


「…………」


 そこに言葉は存在していなかった、あるのは無言だけであった。


 ズルリズルリ、柔らかいものかあるいは湿ったものが下に落ちる。

 かすかな音が、雨音にまぎれて鼓膜を振動させる。


 隙間から溢れている、それは丸みを帯びた薄い桃色をしていた。


「なにかしら、あれ……?」


 分かりきっているはずのことを、メイはそれでもひとつずつ言葉にして確かめずにはいられないでいた。

 ふくらむ彼女の白い羽毛、そのふわふわとした先端の数々に、キンシは事実を伝えている。


「怪物さんの、頭かおしりか、そのどちらかですね」


 地面から少し上、空間に開かれたひずみ。

 その隙間から、プルンと柔らかそうな肉の塊がはみ出ていた。


「……ruru,……ruru」


 かすかに聞こえる鳴き声のような音。

 音を発しながら、肉の塊は段々とその膨らみを増していっている。


 増えていると思いそうになる。それは空間の隙間に隠されていた部分が、空気の中に現れているのであった。

 重力に従いながら、肉の大部分が空間の中に現れようとしている。


「……!」


 体が半分ほどあらわになった。

 その所で、ついに魔法使いの方から先に行動を起こしていた。

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