白黒で単純に割り切りたい
こんばんは、ご覧になってくださり、ありがとうございます。
ブクマが減って悲しみの作者です。
ルーフがこの世界における怪物の扱いに違和感を、不思議な感想を抱いている。
気になる事項はそれ以外にも、様々な言葉の形となって彼の思考範囲を圧迫しようとしていた。
「ところで、なんだが……」
「ん? どうしたん、ルーフ君」
ちょっとしたアクシデントはありつつも、あらかたジェルを片付け終えた。
ミナモが、ルーフの様子に返事を寄越している。
彼女の麦茶色をした瞳に見つめられながら、ルーフは若干緊張の面持ちで彼女に疑問を打ち明けていた。
「その、集めた俺の魔力はどうするつもりなんだ……ですか」
相も変わらず下手くそな敬語を不器用に使いながら、ルーフは自分の内側から採取された「要素」についての疑問を投げかけている。
魔力の本来の持ち主である少年に問いかけられた。
ミナモは採取したばかりの魔力をたっぷりと含んだジェル、が密閉されているカップをかざしながら、用途についてを彼に説明している。
「そりゃあ、色々なものに使うことができるよ? これだけの高品質な魔力は、そこいらを探しても、そうそう見つけられるものとちゃうからな」
謎に自信ありげに、ミナモは採取したばかりの魔力の品質についてを語っている。
「練って鋭くするのもよし、あるいは広げて爆発力を高めるのもよし。んんー……でも、もっと別な、特別な要素を持たせてもええよなあ。なあ?」
こちら側が質問をしていたはずなのに、すぐさま問いかけられるような格好を作られている。
「いや、俺に聞かれてもよお分からんっての……」
ルーフが思ったままの解答だけを、ただ凡庸に舌の上に用意している。
少年のローテンションを置いてけぼりにしたままで、ミナモは自身の内側にむくむくとやる気を漲らせているようだった。
「あー! もう見つめているだけで、こっちの創作意欲がおったつ感じがするわー。止められへん、困ったもんやで、コレは」
興奮気味にしている、ルーフは彼女の感情の動きを理解できないままでいる。
「そうと決まれば早速、即行動、善は急げやで。急いでこれを持ち帰って、君にピッタリのものを拵えたるわ」
「こ、拵える……?」
なにを作ろうとしているのだろうか?
自分の魔力が何ものか、何かしらに運用されようとしている。
その事実、たったそれだけの事項を一方的に知らされた。
ルーフは継続して生まれ続けている疑問を、それまでと同じように疑問文に、言葉にしようとした。
「どうする、つ……もり……」
だが言葉を発しようとした所で、彼の口元は動作をするための活力を欠落させていた。
「あ、あ……あれ……?」
体から力が一気に抜けていく。
それは突発的に起きたものと形容するべきか、ルーフの肉体のなかで審議が問われている。
もとより魔力を、つまりは生命に必要とされるエネルギー源、要素をいくらか採取されている状態なのである。
それはすなわち、もっと単純で肉体に則した言い方をするならば、血液をかなり抜き取られた状態に等しい。
貧血、もとい貧魔力の状態になっている。
そのダメージ、影響が今になって一気に存在感を増していた。
「うっ……!」
ドキンドキンと、心臓の鼓動のひとつひとつが耐え難い重量感を主張している。
めまいがした、フラフラとした感覚は夢遊病者のようなステップを足元に漂わせている。
まばたきをする、瞼の肉が眼球の表面を上下するたびに、視界のなかには星のようなきらめきが増加していった。
キラキラとしている、きらめきは濃厚な紫色の靄の中に現れては消えるを止めどなく繰り返している。
貧血、もとい貧魔力の症状が出ていること、それだけは明確な事実であった。
あからさまな状態を直に体験している、ルーフはこの状況のなかで選ぶべき行動について考える。
本音を言うなら今すぐにでも、横たわって体を休めたかった。
しかしそうしたくない、意識を手放したくないという意見が、ルーフの脳内に強く根を張っていた。
聞かねばならぬこと、知らねばならぬことがまだ沢山ある。
誰に聞こうとしていたか? はて、誰だったか。
現在の状況すらも考えられなくなりつつある。
ぼやけた思考のなかで、欲求だけがルーフを地面の上に立たせていた。
「…………ッ」
しかしそれもすぐに限界が来ていた。
体力、肉体の気力がついに立つことさえままならぬほどの損失をこうむっていた。
倒れる、ルーフは顔面を地面にキスさせようとした。
衝撃に備えようとしたが、間に合わない。
「……?」
だが、危惧した衝撃が訪れることは無かった。
「やれやれ、ですね」
ハリの声がすると同時に、ルーフは左肩に引力を感じていた。
どうやら魔法使いが、倒れ行く少年の体をすんでのところで捕まえていたらしい。
倒れかけの柵のように、宙ぶらりんのような状態で、ルーフはぶつかるはずだった地面を見下ろしていた。
視界はすでに濃い紫を越えて、ほぼ暗黒に近しくなっている。
「ごくろうさま」
ねぎらいの言葉をかけているのは、ミナモの声だった。
「ありがとうね」
礼を伝えられる意味が分からなかった。
言葉の意味を考えようとした。しかしルーフの思考能力は、すでに限界を超えていた。
意識の領域を外れた、無意識の甘い、甘い眠りが彼の元に訪れようとしていた。
まぶたを閉じる、後の行動はそれだけに限られていた。




