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まわるまわる間の悪さ

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマークなどなど、とても嬉しいです!

「はいはい、うちに帰ろうな」


 そんなことを呟いている。ミナモは地面の上に転がっているジェルを、元のケースに拾い集めていた。

 ルーフが呆然とした心持ちでその様子を眺めている、すると彼の左側から人の動く気配がしていた。


「手伝いましょう、ミセス」


 ハリがミナモに向けてそう話しかけている。それと同時に、ハリは速やかなる動作のなかで、地面のジェルをかき集める作業に参加していた。


「あ、えと……じゃあ俺も……」


 周辺の空気に誘導される格好にて、ルーフもジェル集めの作業に手を貸すことにしていた。

 地面に伸びているジェルに触れる。

 すると形を失ったはずのそれらが、にゅるにゅるとルーフの肌に吸い付いてきていた。


「うわ……気持ちわる……」


 ドロリとした感触、腐敗した桃のようなそれらに、ルーフが率直な感想を呟いている。

 単純な感想をこぼした後で、ルーフはこのジェルが先ほどまで自分と丁々発止(ちょうちょうはっし)を繰り広げていた相手であることを思い出していた。


「ルーフ君?」


 ルーフがジェルを片手に停止をしていると、ハリが彼に視線を静かに固定していた。


「どうしたんです? そんな物憂げなお顔をして」


 ハリは無表情のなかで考えを巡らせる。

 そしてすぐに、パッと瞳にひらめきの輝きをちらつかせていた。


「あ、もしかして先ほどの模造品さんに同情しちゃったり、しているんですか?」


 ハリはまるで面白い思い付きでもしたかのように、ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべている。


「お気持ちは分かりますが、その心の持ち方はあまりよろしくないですよ、ルーフ君」


「……どういう意味だよ」


 魔法使いに指摘をされた。

 ルーフは自身の心を見透かされたかのような、そんな気分になりながら質問をしている。


 心を見透かされて不機嫌になっている少年に、ハリはサラサラとした語り口を続行するだけであった。


「倒してしまった気になっているようですが、残念ながら先ほどの攻撃方法では、このジェルジェルさんたちを殺すことは出来ないんですよ」


 魔法使いに教えられた、ルーフはその内容をすぐに理解することは出来なかった。


「どういうことだよ?」


 疑問点を強く抱きながら、言葉を考えると同時に状況だけを把握しようとする。


「俺の攻撃だけじゃ、コイツを殺すことは最初から出来なかった。ということか?」


「おお、お話が早いですね、さすがです」


 簡単な賞賛の言葉をおくっている。

 しかしハリは、ルーフが求めている言葉がそれでは無いことを、聞くまでもなく承知しているようだった。


「だったら、どうしたらこの方たちが死ぬのかを、お教えせねばなりませんよね」


 話題の順番が巡ってきた程度の重要度しか含ませない。

 あくまでもリラックスをした様子で、ハリは怪物の殺し方についてを少年に説明していた。


「彼らを殺すためには、もっと直接的な殺意が必要になります。例えばこのように……」


 口を動かすと同時に、自然な動作でハリは右腕を少し上にかざしている。

 魔法使いの左腕、そこには呪いによって焼かれた火傷の痕、存在が半透明になった肉体が生えている。


 そこに空気が集まり、かすかな光の明滅の後に一振りの刀が発現していた。

 ハリはその鞘を滑らかな手つきで外し、剥き出しになった刀身でジェルのひと塊を突き刺していた。


 ハリ本人の手によって地面の上にかき集められた、ジェルは上から振り落とされた刃を為す術もなく、素直にその身に受け入れていた。


 ぐちゅり。

 柔らかいものが潰れる、かすかな音色のなかでルーフは一連の動作を見つめ続けていた。


 見ている先、右目と左目。

 性質の異なる眼球の二揃いが、ハリの刃の下で起きた変化に気付いていた。


「……あ」


 刃に刺された、ジェルの部分から見るからに生命力と呼べる気配が失われていた。

 具体的になにが失われたのか、と問われると曖昧な返事しか用意できそうにない。


 それは例えば熱、心臓が鼓動し血液が循環する、脈拍が生み出す温度の気配。

 それは例えば重さ、魂の重さというものがぽっかりと、抜け落ちた空虚。


 それは、それは……。考え出すときりがない。

 とにもかくにも、生命力に満ち満ちていたはずのジェルの一欠けらが、魔法使いの刃の一刺しによって死を迎えていた。


 その事実だけが、ルーフの眼球に現実として突きつけられていた。


「こんな感じに、刃物で直接傷つけると、より効率的に生命活動を停止させることが可能になるのです!」


 まるでビデオ教材のような明るさ。

 そんな明朗さのなかで、ハリはルーフに怪物の殺し方を教えていた。


「何しとん!」


 教えている最中に、ハリの後頭部をミナモがぺしん、とはたいていた。


「貴重なジェル素材が、無駄になっちゃったやんか!」


 もうすでにジェルのほとんどを仕舞い終えている、カップを片手にミナモは魔法使いの行動に不満を唱えていた。


「もう、最近はこういったプランクトンもなかなか見つからへんっちゅうのに……」


 ハリの行動を諌めている。

 ルーフに怪物の殺し方を教えた、その事に対しては特に何もコメントは無いようであった。

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