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謎の係長が笑っているよ

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

ブックマーク、ご感想、ありがとうございます。

書く活力になります、とても感謝です!

「ええデータが採れたわ、ありがとうね」


 まだ戦闘の興奮度が離れきっていない、ルーフはのぼせたような心持ちでミナモの声を聞いていた。


「これだけの情報が採れれば、エミル君に文句を言われることも無いやろうしな」


 そろそろと忍び寄るような、そんな足取りで、ミナモは倒されたばかりの模造品に近づいている。

 最初は模造品の彼女に警戒心を抱いているものだと、ルーフはそう思い込みそうになった。


 だが彼女の視線を受けて、どうやらミナモは自分に警戒心を抱いているらしい事に気付かされる。

 それはつまり、ミナモにとって模造品の彼女は危険対象ではないことでもあった。


「さーて、後片付けをせえへんとな」


 地方言葉の独特な訛りを唇に呟きながら、ミナモは濃い麦茶色の瞳を模造品の方に落とし込んでいる。

 視線を落とすと、彼女の頭部に生えているタヌキのような聴覚器官がかすかに震えているのが見えた。


「はーい、ソルト用意しまーす」


 ミナモはそのような言葉を口にしている。

 「ソルト」とは? 何のことであるのだろうか。


 ルーフは呼吸と心拍数を整えながら、人形遣いである彼女の言葉の意味を考えようとする。

 言葉をそのままの意味でとらえるとするならば、彼女は「塩」を用意したがっているようだった。


 ルーフの頭の中に、赤い蓋に密封された調味料の姿が浮上してきた。

 考えたところで、ルーフはすぐに自らの思考を否定している。


 ……こんなところで塩を用意して、いったい何になるというのだろう。

 常識的なイメージを持とうとした。しかして、その考え方もどうだろうと、新たな疑問が脳裏をかすめていった。


 塩が必要であるということは、それがこの状況に求められる何か、何かしらの要素を持っている。

 ということではないだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、です」


 ミナモが動こうとした、それよりも先にルーフは行動を起こそうと画策した。


「台所に塩の瓶があったはず……。ちょっと、取りに行ってくるっす」


 そう言いながら、ルーフは武器を持ったままで、アパートの中に戻ろうとしていた。


「あー、ちょい待ちちょい待ち!」


 駈け出さんとしている、少年の動きをミナモが慌てて制止していた。


「ソルトって、そういう意味ちゃうから。ちょお落ち着いてな」


 少年の足を呼び止めつつ、ミナモは困惑した笑みを浮かべたままで、上着の腰ポケットから道具を取り出していた。


「君が気ぃ使わんでも、ちゃんとこっちで用意できるから……」


 そう言いながら、ミナモが取り出したのは一本のカトラリーであった。


 カトラリー、つまりは広く一般的に、日常生活に置いて多く使用される刃物のこと。

 ミナモが手にしているのは、食器などに使われるであろう、小型のナイフらしきものであった。


 銀色に輝く、もしかしたら本当に銀製かもしれないもの。

 周辺の光をキラリキラリと白く反射する、小さなナイフ、カトラリーをミナモは指の中に握りしめている。


「アレが、ミナモさんにとっての魔法の道具、ですよ」


 疑問に思っている、ルーフの耳元にハリの声色がささやきかけていた。

 ルーフが少し驚いて視線を移すと、いつのまにやら魔法使いが彼のすぐ近くに佇んでいるのが見えた。


「ミナモにとっての魔法道具……?」


 問いかけるような言葉のなか、ルーフはついミナモのことを勝手に呼び捨てにしている。

 しかしながらハリはその事には追及をせずに、それよりもと、自分の語った説明の補足を唇に優先させていた。


「ええ、アゲハ・ミナモなる人が魔法のために使用するモノ……それがあのカトラリーなのですよ」


 ハリは小さなナイフのことを、わざわざ聞き慣れぬ方の呼び方でよんでいる。

 眼鏡の奥、楕円形の薄いレンズの内側、翡翠のように深い緑色をした瞳が、彼女の道具にしっかりと集中している。


「他人の魔法道具を、こんな安全な場面で凝視できるタイミングなんてそうそうございませんからね。この際、またとない機会として、しっかりきっちりちゃっかり、盗み見てしまいましょう」


 魔法使いは、どうやら若干興奮気味になっていること。

 ただそれだけが、ルーフが現状理解できた魔法使いの感情表現だった。


 彼らが注目している先。

 そこではミナモが道具を手に、集中力を凝らしているのが見えていた。


「すぅー、はぁー」


 ミナモは息を吸って吐いて、右の手に握りしめた小さな銀色の道具に意識を集中させている。

 彼女が呼吸を繰り返すと、その周辺に空気が流れ始めていた。


 それはそよ風と呼ぶべき気象の変化ではあるが、しかして人為的に起こされたものであること。

 それが、それだけがルーフに理解できたことだった。


 何故分かったのか、それはルーフが鼻腔に感じた違和感が大きな要因であった。

 甘い匂いがした。

 薫香は熟れた林檎のかすかにベタつく赤い果皮のような、そんな気配を有していた。


 甘い匂いの後に、ミナモはその麦茶のような色をした瞳の見つめる先に存在を確かめていた。

 ジッと見つめる、カトラリーの切っ先を小さくあやつり、そこで確信した要素を掴もうとしていた。


 その時ルーフは、ミナモの手の先に白く薄い光が生じているのを見ていた。

 否、生じているというよりは、させられている、と表現する方が正しいのかもしれない。


 カトラリーの刀身、柄の部分と比べてもかなり小さい刃。

 そこに「それら」は触れ合っていた。


 どう形容したものかと、ルーフの頭の中で想像力が合致する画像を探し求めた。

 急速なる検索の後、ルーフは頭の中にかき氷を思い浮かべていた。

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