明日になったら違う自分になっていればいいのに
こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
レビュー、とても励みなります!
右手に魔力を意識する。そうすることで、かすかな光の後にルーフの手元に魔法が、魔法のための武器が発現していた。
ずしりと重みがルーフの指先、手首、そして腕全体に伝達される。
重力を感じるとともに、ルーフは武器の存在を自らの腕に実感している。
一丁の猟銃のような形状をしている、武器を構えて対峙する。
ルーフが動作をしていると、それに同調するように、模造品の彼女も戦闘のための準備を開始していた。
「んじゅる、んじゅるるる」
鳴き声ともつかぬ、摩擦音のようなものを口の間から発しながら、模造品の彼女は両の腕を変形させている。
柔らかなそこ、骨を必要とせずに自立している肉体の一部。人間基準で考えて、ちょうど両の腕に当たる部分、そこが平たく形を変えていた。
ものの数秒と掛からずに、彼女の両腕は二振りの巨大な刃のようなものへと変形している。
形を見て、ルーフは頭の中に鎌を想像していた。
故郷で暮らしていた時、庭に繁茂した雑草を狩り取る時につかった道具。
とても鋭そうに見える、刃の姿を見てルーフは幾らか感情を動かしていた。
最初は恐怖だと、そう思い込もうとしていた。
だが、ルーフは割かしすぐに自分が恐怖など抱いていないこと、そのことに気付かされていた。
恐怖と呼ぶにはあまりにもあたたかすぎる、ルーフは目の前の相手の刃の形に、ある種の興奮のようなものを抱いている。
欲望の姿を自覚した、途端に目の前に立つ刃そのものが動き出していた。
「んじゅるるる!」
叫び声のようなものを発しながら、模造品の彼女がルーフめがけて突進をしてきていた。
こちら側が所持している武器の仕様、基本的な攻撃様式の都合。
それらを考慮すると、あまり距離を詰められるのはよろしくない。
と、ルーフがそう考えていると、外野からアドバイスのようなものが響いてきていた。
「近接距離用の仕様があるはずや、それ使ってみい!」
「え、オプション?!」
いきなりの指示に、ルーフは考えるよりも手のなかの道具にそれを望んでいた。
持ち主の意思に従い、魔法武器に組み込まれていた魔術式が意識に反応している。
シャキン! と空気を切り裂くような音が発せられた。
と同時に、ルーフは武器の先端に新しい重さが追加されているのを感じ取っていた。
「刃?」
それは刃であった。
ちょうど銃剣のような具合になるように、魔力によって構成された刃物が銃の先端に発現していた。
「これが、オプション……ッ」
道具の便利さ、それに支配されている。
理屈や理由を理解するよりも先にやるべきことがあった。
何よりも優先すべきこととして、ルーフは目の前に接近してきている模造品、彼女の刃を受け止めていた。
ガキィンッ!
硬いものと硬いものがぶつかり、擦れ合う音が空間に鳴り響く。
模造品の彼女の腕力は、規格外的に協力という訳ではなかった。
そこはやはり、ルーフの魔力から発生した模造品らしく、せいぜい少女一人分の腕力しか許されていない。
ルーフの腕力でもやり過ごせる上に、彼女は今のところ片腕の刃しか使用していなかった。
せっかく両腕を変形させたというのに、右手のそれだけを振り回すのだけで精一杯といった様子であった。
それもそのはずだった、この模造品の彼女はついさっき生まれたばかりの、赤ん坊にも等しい存在なのである。
それがどうして自分と戦っているのか、理由を考えたくなった。
だが考えるよりも先に、ルーフは攻撃のための動作を起こしていた。
考えるよりも、ここは殺した方が早い。それがルーフの選んだ選択だった。
姿勢を少し低くする。
息を深く吸い込み、つばぜり合いのような格好になっている、状況に深く集中をする。
模造品の彼女が左腕を使うために、体の重力を少しだけ傾けさせている。
そこに生まれた隙に、ルーフはすかさず攻撃の手を伸ばしていた。
硬く組み合わせていた銃剣の部分を、強く摩擦させるように前へと突き入れている。
ガリリガリリ! と、彼女の刃とルーフの刃が擦れ合う音が空間の中に鳴り響いた。
刃を前へと突き出す。
突進力のままに、武器を大きく右に薙いだ。
柔らかいものが大きく削り取られる音がした。
ルーフは模造品の首の辺りに刃が炸裂したのを、視覚で確認するよりも先に腕にかかる重さに感じ取っていた。
「おおらあッ!」
人間や怪物のそれと比べてみても、かなり柔らかった。
ジェルの集合体を、ルーフはしっかりと気合を込めて薙ぎ払っていた。
…………。
ルーフに大きく切りつけられていた、模造品の彼女はぐったりと体を地面の上に倒していた。
「お見事、お見事ですよ」
ルーフが肩で息をしていると、そこにハリの声が伸びてきていた。
「どうしたんです? 魔力の採集をしていたのではなかったんですか?」
ハリはふらふらとした様子で外の空気を吸い込んでいる。
そんな魔法使いに、ミナモが笑みを含んだ声で話しかけていた。
「せっかく採取するんやったら、もっとやる気があがる方が楽しくてエエやろおもてな」
特に悪びれる様子もなく、ミナモは期待できた結果が集められたことに、軽やかな満足感を覚えているようだった。




