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夢はこの部屋の中に眠る

 それらが魔力、ないし魔法に近しい現象によって引き起こされていること。

 ルーフに理解できたことは、たったそれだけの事だった。


「な、何だこれ……!」


 逆説らしい話し方、考えかたをするならば、その程度の事しか理解できていない。

 まったくもって意味不明な状況に、ルーフはただただ慌てふためく事しか出来ないでいる。


 熱が、体中に塗りたくられているジェルから、謎の熱が次々と生まれていた。

 一欠けらにつき、一個の生命体を感じさせる温度がある。


 あたたかさは、一粒一粒にはせいぜいぬるま湯程度の影響力しかない。

 しかしながら、それらがひと塊となって全身を覆うとなると、雑に見逃すことの出来ない影響力へと変わりつつあった。


「熱っ、あっつう!」

 

 全身に蔓延る謎のぬくみ。

 熱の存在にルーフの毛穴が、汗腺が敏感に反応しようとしている。


 たまらずに全身に塗られたジェルを、指で直接剥がそうとしている。

 ルーフの腕の動きを、ミナモはある程度予期していたように阻もうとしていた。


「あーだめだめ、まだ剥がしちゃだめよ」


 ミナモは、自分の腕の中にすっぽりと納まる少年の体を抱えている。

 彼の動きを抑制するように、彼女はその耳元に声をかけ続けていた。


「男の子でしょー、この位のこと我慢せえへんといかんよー」


 地方言葉でやんわりと行動を否定されている。


「ンなこと、言われたって……ッ!」


 ルーフの我慢が限界を迎えるか、あるいはミナモの片腕が少年の体を捕らえきれなくなるか。

 どちらかが先に境界線を越えるか、ハッキリとした区別が着くよりも先に、ルーフは指先に別の「何か」を覚え始めていた。


「……?」


 最初に感触を覚えたのは、右の指先であった。

 何かしらの原因があって、そこが起点となったのかは、ルーフには判断が着けられそうになかった。


 もしかしたら視界に見やすい場所から、ジェルに変化が訪れていたのかもしれなかった。

 右の指先、少し伸び気味の爪の先端から、ふんわりふわり、とシャボン玉のような球体が生まれていた。


 指先にシャボン玉を確認した、途端にルーフの全身が炭酸水のようにはじけ始めていた。

 シュワシュワ、シュワリシュワリ。


 肌に密着しているジェルが、それぞれに直接炭酸でも注入されたかのような、そんな反応を起こしている。

 ルーフは訳が分からないままで、今はただ全身を覆うかすかな変化にこそばゆい感触を抱くばかりであった。


「ふぅー、なかなか反応が現れなかったから、ウチもちょっと焦っちゃったわよ」


 少年の全身から生まれるシャボン玉を、ミナモはそっと指で触れている。

 まさに割れ物を扱うかのような手つきで、彼女は球体を用意していたタッパーのような入れ物に一つ、一粒ずつ収めている。


「これで、ルーフ君の体に回っている魔力を一部だけ回収できるのよ。便利よねー」


 球体の中身に籠められているものが、ルーフが保有する魔力の一部であるらしかった。

 どうしてそんなものを必要とするのだろうか?


 ルーフが疑問に思っている。

 すると、ちょうど同じタイミングにて、ミナモがこの行為の理由らしき事柄を言葉にしていた。


「古城のモアちゃんから、早いうちに検体を回収してほしいって、そう頼まれたから」


「……モアが?」


 止めどなくジェルが球体へと変化していっている。

 反応を肌に感じ取りながら、ルーフは身を預けていたミナモの腕から体をゆっくりと剥がしていた。


「そうよー、あの子がここまで他人に興味を持つだなんて、滅多にないことなんだから」


 ポコポコと、球体が生まれては呼吸に漂っている。

 発生するそれらを一粒も逃さないように、ミナモは回収の手を続行させていた。


 ミナモがそう表現をしている、少女の姿をルーフは頭の中に思い浮かべてみた。


「その、「あの子」は一体どいつの事なんだろうな……?」


 なにげなく口にした疑問が、ミナモの腕の動きを一瞬だけ制止させる意味合いを有していた。


「あの子たちの製造番号は、あの古城のなかでもトップシークレットなのよ」


 次に回収作業を再開している頃には、ミナモは瞳に浮かべていた暗さをすでにいくらか誤魔化し終えていた。


「それこそ、秘密は誰にも打ち明かさない程だったのに、ね」


 そう言いながら、ミナモは好奇心のような光を瞳の中にちらつかせている。


「ここにいる例外を除いて、あの子たちは互いに秘密を共有しあっているのよ」


 ルーフの方を見ながら、彼女が興味深そうに探りのような質問文を投げかけている。


「なにを教えてもらったのかしら。わたしにもそれを教えてくれたらエエのに」


「……とくに、何も隠していないと思うけどな」


 思うがままの、少女の姿をルーフは思い返していた。

 古城に捕らわれたままのけものの姿と、灰笛(はいふえ)という名の土地を歩き回る少女の姿。


 雨風に揺れるポニーテール、金色の柔らかそうな毛先。

 こちらをジッと見つめてくる、明るい青色の瞳は青空と同じ気配を有していた。


 ルーフが少女のことを考えている。

 そうしていると、少年の周辺に新たなる変化が訪れていた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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