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少年少女は輪になって踊れ

 突然現れた。少なくとも「集団」にとっては、何の前触れもなしに、突然現れたものでしかない。

 そんな少年にたいして、集団の先頭に立っている七三分けの男が、訝しむような視線を上に向けていた。


「えっと……? 君は一体、どういう関係者なのかな?」


 大人が子供を心配するような、そんな優しげな声を使っている。

 それは集団にとって、今のところは少年が、ルーフという名の彼が無害な関係性であることの証明でもある。


 油断をしている、相手の様子にルーフはすかさず攻撃の意識を向けていた。


「関係者だあ? 当たり前だっつうの! 俺はここでそこの魔法使いに、弟子入りの修業をしているもんだ」


 自己紹介をしている。少年が口にしている内容が、集団の先頭である七三分けにはにわかに信じがたいものでしかないようだった。


「君が……? 君のような子供が、まさか……」


 囁くように呟いている。

 声がルーフの元に届いているのは、七三分けがまだ口元に拡声器を添えているからであった。


「悪いことは言わない! 悪ふざけは今すぐにやめて、大人しく家に帰りなさいっ!」


 まだルーフのことを心配する言葉を使っている。

 ルーフ自身は、それらをとりあえず相手の油断として解釈することにしていた。


「悪ふざけ、な」


 嘲笑のような響きを持たせたくて、ルーフは口元にニヒルな笑みを作ろうとした。

 だが実際には、相手側には無力な子供(ガキ)が面白おかしく微笑んでいるようにしか見えなかったらしい。


 少年の笑顔見た、七三分けの男はとりあえずの警戒心を解いているようだった。

 彼にしてみれば、ルーフの登場などは自分たちの行動になんら妨げは起こさない、そのつもりだったのかもしれなかった。


 しかしながら、相手の油断をルーフは攻撃のための隙間としか考えていなかった。


「だったら徹底的に、フザケ倒したるわ……!」


 言葉の中に意気込みを吐きだしながら、ルーフは手に持っている銃のような武器を構えている。

 狙いを定めようとする。


「……!」


 緊張に腕が、指先が震えている。

 何も、何一つとして怯える必要はないだろうと、ルーフは自分にそう言い聞かせようとした。


 息を深く吸い込み、血中に酸素を多く摂取する。

 空気中に含まれる魔力と、他者からの視線。ルーフが魔法を使うための要素が、誰に仕組まれたわけでもなくこの場に集約されていた。


「ん?」


 条件が揃えられた事に、ルーフはそれなりに早く気付かされていた。

 銃口を構えている、定められた標準に光と思わしきものが集められている。


「何だ……これは……?」


 光るそれは円形を描いている。何重にも重なり合っている、光の輪はその中心に、ルーフが望む的を捉え続けていた。


 視線を逸らしても標準を保ち続ける。

 どうやらそれが、この銃に備え付けられた機能であることに、ルーフは瞬間的に気付かされていた。


 銃の内部に組み込まれた魔術式が、持ち主であるルーフの意識に従って機能を発揮している。

 その事実に気付いた、あとは瞬発的に行動を起こすだけであった。


「スゥゥー……」


 息を吸い込み、集中力を研ぎ澄ます。

 展開された魔術式に光が集まる。


「あの……! えっと……?!」


 武器に魔術式の気配が展開される、魔力的な力の流れが他者の目にも分かりやすく広がっている。

 その様子を見て、ようやく集団の先頭である七三分けが慌てたような声を発している。


 待ったをかけようとする、相手の要求をルーフは無視することにした。

 吸い込んだ息を、体の内に取り込んだままで、ルーフは再び引き金を引いている。


「あ?!」


 集団がなおも何かを叫ぼうとしていた。

 しかし叫ぼうとした声は、ルーフの手にしている武器から発せられた銃声にかき消されていた。


 光がひらめいた、明滅が空間を染める。


「……え、え?!」


 なにが起きたのか、集団にはすぐに理解することができなかった。

 強い風のようなものが通り過ぎた、感覚だけが彼らの肌に触れ合っていた。


「なにが……」


 何も起きなかったではないか。

 そのことを集団の先頭である七三分けが、声高に主張しようとした。


 すると、足元になにかがこすれる音が鼓膜をわずかに振動させていた。

 石か砂利でも踏んだのだろうか? いやいやそんなはずは、だってここはアスファルトの上のはず。


 謎を追いかけるようにして、視線は自然と地面に穿たれた傷の痕に注がれていた。


「ひうっ……!」


 地面に刻みつけられた銃創に、悲鳴をあげたのははたして誰であったのか。

 先導に立っていた七三分けのものだったかもしれないし、あるいは「集団」を構成する誰かが発したものだったのかもしれない。


 いずれにしてもルーフが地面に削り空けた空洞は、集団を怯えさせるのに十分な効果を発揮していた。

 場所が場所で、場合が場合ならば悲鳴の一つでもあげたかったであろう。


「ヒィィーーー……! シィィーーー……!」


 彼らはしかして、なけなしの理性を働かせている。

 悲鳴を互いに押し殺しながら、その場からの退散を、誰との指示とも言わずに実行していた。


 バタバタと去っていく集団の、その後ろ姿を眺めている視線が三つほど。


「お疲れさまじゃの、あるじ様」


 三つのうちの一つ、ミッタがルーフに向けてねぎらいのような言葉をなげかけている。


「見事、敵対するそしきをこの場から打ち払ったのお」


 ミッタが、おそらくはルーフを賞賛するような言葉を使っている。

 しかしながら、ルーフには彼女が表現している内容に、どうにも上手く実感が持てないままでいた。

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

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